殺戮機械が思い出に浸るとき 25
「いつまでもさ……俺に頼ってばかりじゃ困るだろ? まあ今回はさらに頼れる吉田が行方不明って訳だから自分でなんとかしないといけないわな」
嵯峨がにやりと笑う。ランは呆れたようにため息をついた。
「使えるコネを生かせと……西園寺が暴走しますよ」
諦めかけたようなランの声に嵯峨はそのまま手にした拳銃のスライドを作業台に置くとそのまま油まみれの手を後頭部に回して伸びをする。
「まあいいんじゃねえの? 俺もそうだったしな。少ないとはいえ経験や人脈があれば使えるように訓練しておくことも重要なお仕事をこなすコツだよ。特に捜査関係、司法関係の仕事で情報収集をしようとすれば多少の無理が利く人脈を作っておくのも悪くはないだろ? 」
「西園寺は……『東都戦争』の時の人脈を使いますよ」
ランの表情は明らかに曇っていた。シンジケート同士の大規模抗争である『東都戦争』と呼ばれる一連の事件の背後で胡州陸軍の表沙汰にはされていない権益の確保のために非正規活動に従事していた要のコネクションが真っ当な司法機関の情報収集活動の領域を超えることはランにも予想がついた。
「いいじゃねえの? シンジケートの人間は軍人や警官よりも信用できるよ。アイツ等は利益で動くからな。金を握っている限り裏切ることはないから扱いやすい」
平然と言い切る嵯峨。非正規活動の経験の無いランには目の前の元憲兵隊長が何を考えているのか分かりかねてただ黙り込むしかなかった。
「話は変わるけどさ……遼北と西モスレムの衝突。かなりヤバイらしいな」
嵯峨は手に着いた油が後頭部にべったりと張り付いた事に気がついて顔を顰めながらランに目をやった。
「突然変わりましたね……ヤバイのは誰でも分かると思うんですが……」
「いやあ、両軍の引き離しをやってるシンからの連絡でね。両軍の部隊長クラスは嫌がってるらしいが……前線の兵隊連中が挑発行為を勝手に初めているらしいや。発表はされちゃいねえがすでに死者は二桁になったらしいぞ」
明らかに両軍が隠しているだろう情報。それを嵯峨が自分でそれを知った訳では無く生粋の軍人である同盟軍事機構の部隊長であるアブドゥール・シャー・シン少佐からの伝聞と表現したことにランは少し疑問を感じた。
「シンからですか?」
「そうシンから。うちのOBだからな、あいつも。仲間思いの情報通が教えてくれたんだろ? 」
嵯峨の言葉でランはようやく答えにたどり着いた。
「吉田ですか……」
「他に誰がいるよ。吉田の野郎……何か掴んでいるはずなんだ。だから姿を消した。起きるぜ……きっとそう遠くないうちに予想もしていなかったようなことがね」
不謹慎な笑みを浮かべる嵯峨を呆れつつ、ランは大きくため息をつきながら頭を掻いた。