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殺戮機械が思い出に浸るとき 24

「隊長……」 


 半分呆れたような口調でランがため息をつく。嵯峨は気にする様子もなく拳銃のスライドをやすりで削り始めた。


「アイツ等行くところまで行くかもしれませんよ」 


「まあそれもいいんじゃねえの? いざとなったら俺が辞表を書けば済むことだからね……」 


 あっさりとそう言ったまま嵯峨はひたすら作業に没頭している。


「ならあんな突き放すような言い方は……」


「子供じゃないんだからさ。いざとなったら俺が助け船を出してやるなんて言ったら失礼じゃないの。それに俺が吉田の行方を知らないし知りたいのは事実だから」 


 嵯峨の最後の言葉にランは意外そうに首をひねった。


「『草』や『遼南憲兵隊』も掴んでないんですか? 」 


 『草』と『遼南憲兵隊』と言う言葉に嵯峨は眉を顰めながらランを睨み付けた。ランはその殺気のこもった視線に珍しく口ごもって黙り込んだ。


 『草』は遼南王家直属の諜報組織として嵯峨の祖母ムジャンタ・ラスバ女帝により組織された非公表機関と言うことは知られていたがその実態はランもよくは知らなかった。現在は嵯峨のコントロールにあるとされるが実際どの程度の情報が嵯峨にもたらされているかはランも確認できていない。


 その点、『遼南憲兵隊』は嵯峨が先の大戦で胡州帝国軍人として活動していた際の指揮していた部隊なのである程度の輪郭はランも承知していた。


 ゲルパルト帝国、胡州帝国、遼南帝国の遼州三枢軸国家は地球に対し宣戦を布告。これによって発生した第二次遼州戦争だが、遼南帝国は暗君として知られたムジャンタ・バスバ帝は政治に飽きて酒色に溺れる有様で、すでに朽ち始めていた。胡州はそれを立て直すべく治安維持部隊として憲兵隊を組織して派遣し治安維持の補助活動に当たらせた。その部隊長がムジャンタ・バスバ帝の嫡男であるムジャンタ・ラスコーこと嵯峨惟基少佐であったことは歴史の皮肉以外の何者でもなかった。


 『遼南憲兵隊』は遼北の赤化細胞活動に対する徹底的な武力制圧活動を行った。いくつもの村が一人のゲリラを出したという理由で女子供の例外なく処刑された。その処刑はすべて嵯峨の手で行われたと言われている。枢軸側の敗北を察知していた嵯峨は戦後、戦犯として極刑に処される可能性のある部下を出さないためにすべての罪を自分でかぶるつもりだったと後に遼北に投降した彼の部下だった憲兵軍曹が語っていたのをランは遼南共和国時代の資料で見たことがあった。


 胡州の敗戦で四散した嵯峨の部下達がその後の遼南内戦時に潜行、欺瞞工作、煽動、暗殺等の共和軍の活動を鈍らせるあらゆる活動を行って人民軍の勝利をサポートした事はランもよく知っていた。そしてそれでも彼等がかつて敵対した人民軍首脳部との確執から日の当たる場所を歩けない身分であることも十分に予想が出来た。


 そして現在は彼等は嵯峨の手の届く範囲で情報収集活動を行っていることも十分予想が出来た。彼等は嵯峨の庇護無しでは永久に追われる日陰者にすぎない。だがその活動の成果は嵯峨の政治的発言力という形で世界を確実に変えつつある。勲章や名誉とは無縁の『遼南憲兵隊』の面々が嵯峨個人の為に活動をしている気持ちは共和軍と言う敗軍の将であるランを東和軍に推挙してくれた嵯峨の繊細な配慮を知っているだけにランには十分に理解できた。




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