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殺戮機械が思い出に浸るとき 20

「凄えなあ……なんのコレクションだ? 」 


 要は遠慮無く手前の木の棚の扉を開いた。誠もカウラもついそれを覗き込んでいる。いくつも並んでいる薄い物体。誠は初めて見るその物体をただ呆然と見つめるだけだった。


「まさか……レコード? マジかよ……今更何に使うのかねえ……」 


 要は遠慮せずにその一枚を取り出す。三十センチ強の四角い板が目の前に現われる。表面には三人の黒い背広の男の写真がプリントされている。


「もしかしてLP版じゃないかしら? それにしたら凄いコレクションよ。もう三百年以上前の代物だもの……その保存のための部屋。凄いわね」 


 いつの間にか部屋の奥で同じように扉を開けてレコード盤を取り出していたアイシャがつぶやく。誠もその言葉でようやく目の前の物体の正体を知った。レコードと呼ばれるものがあることは誠も知っている。アナログな記憶媒体が一般的だった20世紀の音楽を記録する媒体と言うことはアニソン以外の音楽に疎い誠も知っていることだった。特に懐古趣味が強い東和ではこう言う古い媒体は珍重される代物だった。


「この一つの箱で……五十枚以上入っているな。どれだけ集めたんだ? あの人は」 


 ただ珍しい媒体の並ぶ部屋を見回すカウラ。彼女が呆れるのももっともな話だった。ざっと見ただけでも箱は百や二百という数ではない。その集められた音楽の数に誠も圧倒されるしかなかった。


「ジャズはねえのか? 趣味人にしては気がきかねえな」 


 要はレーベルを一枚一枚確かめていく。手前の見えるところを見終わると下の箱を開けてまた検分を始める。


「吉田少佐はジャズって感じじゃないでしょ? なんだかよく分からないけど……もっと軽い感じというか……電子音ばりばりの感じがしない? 」 


 同じように奥で箱を開けては中身をのぞき見ているアイシャがつぶやく。


「そんなに開けて良いのか? 後で証拠が残るとまずいだろ」 


 心配そうなカウラを要は一瞥すると手を振って気にするなと合図した。それを見ると誠も好奇心に負けてそのまま部屋の奥へと足を向けた。空気が凍ったように静かな部屋の中。ただ箱の扉を開く音とレコードのジャケットを要やアイシャが引き出す度に起きる摩擦音だけが響いている。


 誠はそのまま手近にあった箱の扉を開いてみた。


 ここにもぎっちりとレコード盤がひしめいていた。背表紙のような部分にはアルファベットの表記でそのレコード盤のタイトルが印字されている。よく読むと英語とドイツ語の表記が多いのが分かる。試しに一枚を引き抜いてみた。


 四人の男が道路を横断しているデザインのジャケット。誠はそれがどこかで見たことがあるような気がしていたがどうにも思い出せずにそのままそのレコード盤を箱の中に戻す。一枚いくらの値がつくのか。この家の設計からして相当な吉田のこだわりが感じられるだけに恐ろしくも思えてくる。


「これ割ったら切腹ものかしら」 


 さすがにアイシャも手にしたレコードの価値に気づき始めておっかなびっくり手にしたレコード盤を箱の中に戻すとそのまま入り口近くで箱を覗き込んでいるカウラのところの戻ってきた。


 しかし、そんな価値のことなどまるで気にしない人物が一人いることは誠も十分分かっていた。


「大丈夫だろ? どうせほとんどは最新のデータ化されて東都国立図書館とかで聞こうと思えば聞ける代物ばかりだろうからな。それに……」 


 要は平気で厚紙の中に入っている黒い樹脂製の円盤を取り出す。そしてそのまま天井に付けられた淡い光を放つ照明にかざして溝が彫られた表面をのぞき見た。


「相当酷使の後があるな……ターンテーブルか何かで回したんじゃねえのか? これは」 


 誠の聞き慣れない『ターンテーブル』という言葉。カウラもただ首を傾げてレコード盤を箱に戻す要を眺めていた。




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