殺戮機械が思い出に浸るとき 2
「だからその状態を逃亡って言うんだよ! 」
一気に捲し立てた要はようやくそこで第三小隊の面々がすでに着席している事実に気がついた。事実はそうだとしても誰もがその事実に気づいても知らないふりを装っているようにさえ見えて、誠は少しばかりいきり立つ要の肩を持つように視線を鋭い目つきの要に向けた。
「おい、楓! 」
今度はいつもは向けるはずの無いような笑顔で第三小隊小隊長で従妹に当たる嵯峨楓少佐に歩み寄っていく。黒髪を掻き上げながらいつもなら満面の笑みで応える楓がランを気にしながら迷惑そうに近づいてくる要を見つめていた。
「オメエ……知ってるだろ?」
「なんで僕が……」
さすがの誠もこの様子には楓に同情するしかなかった。楓はちらちらと部下の渡辺かなめ大尉とアン・ナン・パク曹長に視線をやりながら迷惑な従姉の言いがかりをはぐらかす方法を必死に考えているように見えた。
「なあ……教えてくれよ……ただとは言わないからさ。デートぐらいしてやるよ」
「本当ですか! 」
今度は要が自分の言葉に後悔することになった。楓の要への憧れは誠から見ても異常だった。人造人間で楓の被官になるまで番号で呼ばれていた渡辺の名前を「かなめ」としたのも彼女の愛情故である。
らんらんと喜びに潤む瞳。そんな楓を見てじりじりと要が後ろに引き下がる。
「お姉様……僕……」
「知らねえならなら……無理することは無いんだぞ……な? 」
要は助けを求めるように最初は吉田の行方のことで文句を言いたそうにしていたカウラに目をやる。しかしカウラはすでに追及するのを諦めたというように自分の端末で作業を始めていた。
逃げることはできない。じりじりと楓が近づいてくる。
「そうだ! 叔父貴なら知ってるだろ! 神前! カウラ! 行くぞ! 」
急に方向転換した要に襟首を掴まれて誠は立ち上がるしかなかった。
「なんで私まで……」
そう言いながら顔を出したランに手を合わされて仕方なくカウラも立ち上がる。
「それじゃあ! 」
颯爽と要は実働部隊の詰め所を後にした。
「隊長に聞くのか? 」
不服そうにつぶやくカウラを情けなさそうに見つめる要。
保安隊隊長、嵯峨惟基特務大佐。楓の父でもある喰えない中年士官の間抜けな面を思い出して誠はため息をつく。
「無駄だと思うけどな……」
「何か言ったか? 」
引くに引けない。そんな表情の要を前に面と向かって文句を言う度胸は誠には無かった。