殺戮機械が思い出に浸るとき 19
誠が思ったのは吉田ならどこかにトラップの一つや二つ仕込んでいるのでは無いかと言うことだった。カウラがポケットからサングラスのようなものを取り出したのもそのせいだろう。
「赤外線の反応は無し……監視カメラはどうだ? 」
「無いな……意外と管理は甘いんだな」
要の言葉でようやくカウラはドアを確認する。まるで当然のようにそれは開いた。
「不用心ね。これじゃあ泥棒に入られちゃうわよ」
「あの少佐殿の家に泥棒? そりゃあ身の程知らずもいいもんだな」
警戒するアイシャを笑い飛ばすとそのまま要は家に踏み入った。誠も仕方なくその後に続く。
玄関口。別に豪華さがあるわけでも機能性を感じるわけでもないそれなりに小洒落た雰囲気のある玄関だった。
「洋風に靴で上がるのか……気取ってるねえ」
要には全く遠慮がない。カウラは赤外線探知装置付きのサングラスをかけて警戒したままその後ろに続く。三階建て、天井まで吹き抜けのホールのような玄関口に圧倒されていた誠だが、そのまま真っ直ぐ歩き続ける女性陣において行かれてはたまらないとそのまま奥のドアに飛び込んだ。
「食堂か……使った様子は無いな」
テーブルの上の埃を指でさすりながら要がつぶやく。アイシャが無遠慮に冷蔵庫を開けると中身は空だった。誠はそのまま電気式のコンロの前に立つ。そこも久しく使用した形跡は見受けられない。
「しばらく使ってない……これは三、四日という感じの雰囲気では無いな」
カウラの冷静な分析に誠も頷くしかなかった。
「あの少佐殿は家には帰っても寝るだけみたいな雰囲気があるからな。高速に乗って一時間。間に飯屋は山ほどある。自炊の必要も無いと言うことなんだろうな」
要はそう言うとそのまま隣のリビングに足を踏み入れた。そちらは多少人のいた形跡があった。ソファーにも人が寄りかかったようなへこみが残っているし、その手前のテーブルの上の音楽雑誌の山の上にも埃の気配は無かった。カウラは当然のように手元にあったテレビのリモコンを操作する。電源を入れると最近はやりのネオテクノ系の音楽を流している番組が流れていた。
「やっぱりそうだ。ここでテレビでも見て時間を潰してから寝たんだろうな……」
「そんな日常をトレースするのは良いんだけど……手がかりはどこ? 」
アイシャの真っ当な質問に要は頭を掻きながら奥にあったドアに向かって歩き出した。
「勝手に動くなよ」
「動かなけりゃあ手がかりも見つからないってもんだよ」
平然と扉を開く要。その部屋だけは空調が効いているらしく、乾いた空気がリビングまで流れ込んできた。
「電気は……ここか」
いつも通りデリカシーもなく平然と電気を付ける要。誠はその光の中に現われたものに目を奪われた。
「ここは?」
ただ目の前に並ぶ木製の棚。その高さは優に三メートルは超える。そしてぱっと見た奥行きで30メートルはあるだろうこの部屋の雰囲気に誠はただ息を飲むしかなかった。