殺戮機械が思い出に浸るとき 18
「本当にお金持ちの街なのね」
感心したようにアイシャがつぶやいたとき車は急に路肩のコンクリートに右タイヤを乗り上げた。
「着いたぞ」
要の言葉に誠はまだぴんと来ずにただ呆然と周りを見渡した。目の前の打ちっ放しのコンクリートの表面を晒した奇妙な家屋が目を引く。立方体をいくつも組み合わせたようなその姿。ある部分は出っ張り、ある部分は引っ込み。明らかにバランスが悪そうに目の前の空間を占拠している。
「もしかしてあの家ですか? 」
「らしいだろ? 」
助手席の扉を開けながらにんまりと笑って要は下りていった。アイシャが序章席を倒してそのまま這い出る。誠もまた狭い車内から解放されようと急いで道に飛び出した。
閑静な住宅街。大通りからは遠く離れていて車の音もほとんどしなかった。
「じゃあ行くぞ」
要の言葉に誠達は目の前の奇妙な建物の玄関に向けて歩き出した。その建物の奇妙さに比べると玄関はそれなりに先進的な作りだがセキュリティーのしっかりした上流階級の家庭ならどこでも見かけるような普通のたたずまいをしていた。
「留守だったらどうする? 」
冷静なカウラの突っ込みにチャイムを押そうとした要が少し躊躇いがちに振り向いた。
「こういうところだと聞き込みするだけ無駄だよな……お互い関心なんてまるでもっちゃいねえんだ。プライバシーの尊重? そりゃあ建前で実際は後ろ暗いことがあるからなんだけどな。そうでなきゃ人の上に立ってこんな家まで建てるような身分にはなれないのが世の中という奴の仕組みだ」
「よく分かってるわね。さすがザ・上流階級」
冷やかすアイシャを無視したが他に何ができるというわけでもない。とりあえず要はチャイムを押した。
しばらく周りの家々を見回す。ある家は瓦に凝り、ある家は塀の漆喰を南欧風に仕上げたりなどそれぞれ大通りに面した豪邸とはまた違うこだわりを見せつけてくるのが誠にはどうにもなじむことができない。
「留守か? 」
「だと思ったわよ……あの人が連絡をしてこないのに家にいると思うわけ? じゃあこのまま東山町でも出てアニメショップでも寄っていきましょうよ」
アイシャがそう言ったときカウラが静かに門扉を開けた。打ちっ放しの家に似て飾り気のない鉄板で出来たそれはするすると開いた。
「開くな」
開いた扉を見ると要はそのまま遠慮もせずに敷地に立ち入っていく。アイシャもカウラもそれが当然というようにその後に続く。
「良いんですか? 」
「良いも何も……開いてるんだから入るのが普通だろ? 」
振り返ってにやりと笑う要。誠はただ呆れながらそのまま家の門までたどり着いて中をうかがっているカウラの方に目をやった。