殺戮機械が思い出に浸るとき 17
右折して続く真っ直ぐな道。左手には延々と要の実家の所有物の屋敷の白壁が続いているのが見える。
「本当に……お金貸してよ」
「なんでその話が出てくるんだ? 」
要は苦笑いを浮かべるしかない。確かにこのただでさえ豪邸の並ぶ街にこのような巨大な施設を所持できること自体かなりの驚きでしかない。誠もただ呆然とようやく視界の果てに白壁が終わりを告げるのを見てほっとため息をつくしかなかった。
道は相変わらず豊川のとってつけた移動手段以外の意味を持たないそれとはまるで違うものだった。
「でも駅から遠いみたいだけど……ああ、みんな車を持ってるから平気なのね」
自分を納得させるようにアイシャがつぶやく。誠は時々見える標識でこの道の地下には地下鉄が走っているらしいことはすでに分かっていた。
「次は警察署の角を右で……二番目の信号を左か」
カウラも要の立場を再認識したように瞬きをしながら意味もなく道順を口の中でもごもごとつぶやく。要は明らかにうんざりしたように頭の後ろに手をやったまま目をつぶっていた。
両側の豪邸が途切れてしゃれた雰囲気の商店が両脇に並び始める。アイシャは明らかに珍しそうにその店を眺めている。誠もまたこのような上品な店とは無縁だったことを思い出させられる。そう言えば大学時代にはこの近辺の出身の同級生とはどうも話が合わずに気まずい雰囲気の中で酒を飲んだことを思い出す。特に芸術家気取りが多い工学部の建築学科の連中とはそりが合わなかったのを思い出した。
「そこだよ」
「分かってる」
要の言葉にカウラは不機嫌そうに交差点を右折する。すれ違う車は相変わらず高級車ばかり。
そのまま同じようにしゃれた感じの先ほどよりは少し閑静な感じの並木道をカウラの車は進み、そのまま二番目の信号を左に入る。先ほどまでのとてつもない金持ち達の領分から抜け出たような少しランクの下がったような街並みにアイシャと誠は大きくため息をついた。
「ああいうところは私は駄目だわ。息が詰まるというか……洒落が効かないような感じがして」
「そうだろうな。テメエの貧乏面にはにあわねえや」
鼻で笑う要を睨み付けるアイシャだが、先ほどの要の別邸の巨大さを思い知っているので反論もできずにただ黙り込んで左右の明らかに特別注文されたと分かるそれなりに立派な家々に目をやってまたため息をついた。
誠もアイシャと同感だった。コマーシャルでやっているような大手の住宅会社の量産型建て売り住宅とはまるで違う趣のある家々。それぞれに設計事務所の技師が丹精込めてデザインに工夫を凝らし尽くしたのが分かるような家々を見て、ただただため息をつくだけだった。
「もうすぐだな」
「こんな家が並んでるなら間違えようが無いわね。本当にお金のあるところにはあるものね」
アイシャはまた同じような台詞を口にしてため息をつく。ともかく公務員であるカウラ、アイシャ、誠にはとても住めるような世界でないことだけは車が進む度に思い知らされることになった。