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殺戮機械が思い出に浸るとき 150

 記者達の群れから離れると嵯峨惟基は静かに大きく息をした。


「ったくいい加減にしろってところか?」 


 そう言うとそのまま近くにあった喫煙所に足を向ける。そこにはボディーガードに囲まれた先客がいた。


「あっ、こりゃどうも」 


 葉巻をくゆらせている恰幅のいい紳士に嵯峨は適当に頭を下げた。紳士はそれを見て見ぬふりをするように静かに煙を吸い込む。


「今回の件。借りですね」 


 タバコに火をつけながら独り言のように嵯峨がつぶやく。その相手の紳士、菱川十三郎はうなづくわけでもなくかと言って聞き流しているというわけでもないというように嵯峨の方に目をやった。


「大事にならずに済んで良かった」 


「それだけですか?報道の連中には隠してますが……動いてたそうじゃないですかゲルパルトのネオナチ政権の残党」 


「私はその話は聞いてはいない」


「ハイハイ、知らないってことでいいですよ。でもうちの馬鹿共はちゃんと見てて記録もとってますから……人の口に戸は立てられぬ。そう遠くない時期にバレますよ」 


「なかなか面白い話だ。だが人の噂も七十五日とも言うものだよ」 


 ニンマリと笑う菱川に嵯峨はいつものぼんやりとした視線を向けた。


「まあそっちは俺には今となってはどうでもいいことなんですがね。あの馬鹿みたいな砲台がネオナチの手に落ちたらと思うとゾッとしますが……それも今となってはもしもの話に過ぎない。むしろあの砲台が黙って開発されていたこと……まあ国防省の長官の首は飛ぶでしょうな」 


「彼とはいい関係を持っていたんだがね。残念だ」 


 菱川の先手を打ったような一言に嵯峨は眉ひとつ動かさずにタバコを口にくわえた。


「それより州軍が動いたことの方が問題じゃないのかね……胡州の州軍は胡州領域での活動のみが認められているはずだ。今回の展開は明らかに越権行為だ」 


「まあそれなんですが……」 


 菱川の追求に窮したというような表情を浮かべるとポケットからマイクロチップを取り出す嵯峨。


「さっきのネオナチの件。ここに映像が入ったディスクがあります。こいつをあそこの記者達に配布してあげたらさぞ喜ぶんじゃないですかね」 


「脅しているのか?」 


「さあ、どうですかね?」 


 葉巻の灰を静かに落とす菱川を見ながら嵯峨は口元を緩めて余裕のある態度をとってみせる。


 菱川は静かに手を伸ばす。嵯峨はその手のひらに小さなディスクを置いた。菱川はそのディスクを灰皿の上にかざすと手にしたガスライターで燃やす。


「それでしばらく……まあ七十五日くらいはネオナチの話はなかったことになるでしょうね」 


「君も悪い奴だね。彼等には知る権利があると思うが……」 


 冗談めかしたような菱川の言葉に嵯峨は視線を落とした。



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