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殺戮機械が思い出に浸るとき 15

「そう言えば吉田さんの家ってどこなんです?」 


 誠は当たり前の質問を当たり前の顔でした。不意に振り向く要。明らかに不機嫌そうなそのタレ目にただ誠は冷や汗を流した。


「北上川」 


 要の言葉から東都郊外屈指の豪邸ばかりが並ぶ街の名前が出て来たので誠はただあんぐりと口を開けた。


「ああ、吉田少佐らしいわね。傭兵時代にかなり溜め込んだんでしょ。それにあの人はうちでも一番の高給取りらしいから……さすがというかなんというか」 


 別に驚くに値しないというように流れていく景色を見ながらアイシャがつぶやく。確かに考えてみれば当然のことかもしれなかった。下手な宇宙艇よりよっぽど高価な軍用義体を自前で用意する吉田の蓄えが半端なものと考える方がどうかしている。


 それに吉田の交際範囲には傭兵時代に場つなぎにしていた音楽関係のプロデュースの仕事のつながりもあることは誠も耳にしていた。最近はとんとそちらでの仕事はしていないと聞いているがそれにしても一度当たれば大きいのが芸能業界である。それなりに長く活動をしてきたらしいのだから印税やその他の定期収入もあるのだろうかなどと誠の考えが次々と巡った。


「北上川近辺なら……要ちゃんの顔でなんとか情報を得られるんじゃないの?何しろ胡州帝国宰相のご令嬢ですもの」 


「あのなあ、アイシャ。アタシはほとんど親父の仕事関係の人脈とはノータッチだ。確かにたまに領邦コロニー経営の関係で人に会うこともあるがほとんどは役人ばかりだぜ。経営者クラスはアタシに頭を下げても金にならないのは分かってるだろうからな。そんな暇があったら直接摂州コロニーの統治組合にでも顔を出すんだろ」 


 すげない言葉で返す要。確かに要の言うとおり狭い下士官寮に彼女が移ってからも彼女の統治する領邦コロニーの関係者がやってきたことは一度もない。第三小隊の小隊長の嵯峨楓少佐が所有する泉州領邦コロニー群と比べれば少ないとはいえ1億近い人口の徴税権をを握っている要。こういうときには彼女が遠い存在に感じられて誠はただ静かに黙り込んだ。


「このまま高速に乗るからな。暴れるなよ」 


 主に要を牽制するように一言言うとカウラはギアをトップに入れてそのまま道をできたばかりのバイパスへと車を進める。


「なあに、この車も菱川のフラッグカーだぜ。そう簡単にコントロールを失ったりしねえだろ? 」 


「めんどうなんだ。止めてくれ」 


 要の茶々に苦笑いでカウラが答える。車はそのまま目の前の大型トレーラーに続いて高速道路の側道を走る。


「あれ……前の車が積んでるのは菱川の機材かしら? 」 


「さあな。アタシの知った事じゃねえよ。ついたら起こしてくれ。寝るから」 


 それだけ言うと要はそのままシートを倒してきた。誠は狭い車内がさらに狭くなり思わず顔を顰める。


「要ちゃんにはかなわないわね」 


 明らかに人ごとだというようにそれだけ言うとアイシャもまた誠の足下に長い足を伸ばしてきた。


「勘弁してくださいよ……」 


 バックミラーの中で苦笑しているカウラにそれだけ言うのが誠のできる唯一の抵抗だった。




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