殺戮機械が思い出に浸るとき 145
信じたくないこと。8機目の機動兵器にサーベルを突き立てながらシャムは涙が流れていくのを感じていた。
「死んじゃったの……本当に……」
倒しても機動兵器はそれをカバーするように現れ、砲台への道を塞ぐ。グレネードで牽制しながら敵のパルスライフルの攻撃を干渉空間で避けてはなんとか道を開こうとするが、数に勝る敵に全身を阻まれていた。
『ナンバルゲニア中尉!急ぐんじゃない!我々が急行するまでなんとか耐えていればいいんだ』
通信でロナルドの第四小隊が向かってきているのがわかるが、それ以上にシャムには砲台のエネルギーチャージが気になっていた。
「今度撃たれたら誠ちゃん達蒸発しちゃうよ!」
シャムの言葉にロナルドは口をつぐむ。シャムの直感は誰もが共通する認識だった。すでに30パーセントのエネルギーチャージが終わった砲台の砲身が青く不気味に光っている。
「俊平が死んじゃって、今度は誠ちゃん……みんな置いていってしまうんだね、私を」
ヘルメットに涙が滲んだ。シャムはそのまま叫びを上げて9機目の敵の頭部をレールガンで撃ち抜いた。
『おいおい、勝手に殺すなよ』
「!」
突然の通信。それは聴き慣れた言葉の響きを放っていた。
「俊平!どこにいるの?うわっ!」
思いもかけない言葉にシャムは棒立ちになっていたところにインパルスカノンの直撃を受けそうになるが、機体は瞬時に反応してそれをかわした。
『大体クバルカ中佐の説明を聞いてなかったのか?俺はプログラムだぜ。肉体なんてものはただの入れ物さ』
シャムの機体は自分の意思でも持っているように次々と3機の敵機を屠っていた。
「もしかして……俊平はクロームナイトになったの?」
『ようやくわかったか。こいつのOSとは結構相性がいいみたいだな。処理速度も十分だし結構暴れられるぞ』
行く手を阻んでいた2機の機動兵器を撃破すると一気にクロームナイトは加速した。
『操縦はあとは任せた。俺は機動兵器のコントロールを奪う』
「うん!」
それまでとうって変わった晴れやかな顔でシャムが返事をした。もはや砲台まで敵の妨害は無い。一気にシャムは砲台との距離を詰めた。
「お前が……全ての災厄の元凶なんだ!」
シャムは叫びを上げると背中に吊り下げられた長砲身のレールガンの標準を砲台の砲身に定めた。
「これで終わりにしてやる!」
叫びとともにシャムの長砲身レールガンが火を噴いた。砲身を貫かれた砲台は青い光を次第に弱めていった。
『機動兵器は無力化した。それじゃあもう一人の俺に会いにいくか』
吉田の言葉でシャムはまだ事件が全て終わっていないことを理解しながらそのまま巨大な砲台の台座へと向かった。