殺戮機械が思い出に浸るとき 144
『エネルギーチャージ。継続しています』
パーラの言葉で明らかに予想時刻より長くエネルギー充填を行っていることが分かる。
「耐えてみせますよ……」
『震えながら言うんじゃねえよ』
要が皮肉めいた調子でつぶやく。誠はさらに神経を集中して空間の層を厚くしていく。背後ではランもまた黙って干渉空間を展開していた。
『発射されました!』
パーラの言葉と同時にL24宙域に光が走る。誠は黙って伸びてくる火線を見つめ続けていた。
衝撃、反動、続いて全身を痺れるような光の点滅が覆い尽くした。次の瞬間、機体の全システムが停止し、コックピット内部を覆っていた宇宙の輝きが消えた。
『おい、神前!』
要の叫びで彼女が生きていることを誠は知った。
「耐え抜いた……」
誠はすぐさまシステム再起動のスイッチを押すと同時にケツのあたりにヌメっとした感覚が走るのを感じていた。
『パーラ、耐え抜いたのか?』
そんなカウラの問いにパーラはそのままL24宙域の画像を再生した。砲台の発泡と同時にピンク色の空間が砲台を包み込み爆縮するのが確認できる。
『なんだ?神前の仕業か?』
「僕には……そんな芸当はできませんよ」
脱糞をバレないように誠はゆっくりと呟いた。
『何かが空間転移した形跡があります……いったい誰が……』
パーラが呟くと突然シャムの表情が凍りついた。
『嫌だよ!俊平!』
7機目を撃破しながらシャムが叫ぶ。誠の再起動したコックピットで再生された画像の中で巨大な砲台の砲身に突入するアサルト・モジュールの姿が見て取れた。
『なんで?あいつが?』
『西園寺康子か……彼女なら信太からあそこまで吉田の機体を飛ばすくらいの芸当はできる』
カウラの言葉に要は母のにやけた顔を思い出して苦笑した。
『パーラ、識別ビーコンは出てたのか?』
どこまでも冷静な調子でランがつぶやく。
『はい、確かに吉田少佐でした』
『体当たりなんてはやらねえのにな』
パーラの言葉に反論をするはずのシャムだが、相変わらず劣勢な戦いを強いられていた。
『目標ですが再びエネルギーチャージを始めました。予想発射時間は三分後!』
『あちらの主砲の損傷は?』
アイシャの問いにパーラは首を横に振った。
『おい、次弾も予測オーバーの威力か?今度こそジ・エンドだな』
『西園寺。最後まで諦めないことだ』
カウラの言葉に少しばかりケツを揺らしながら誠はうなづいた。もうこうなれば脱糞も糞もなかった。精神を集中させて目の前に再び干渉空間を展開した。
『5パーセントは威力が低減していると思うぞ』
「わかりました」
気休めにもならない威力低下の予測をするランの機体をモニター越しに見ながら誠は苦笑した。