殺戮機械が思い出に浸るとき 14
「押し込まないでくださいよ」
180cmに近いアイシャが隣に座るとなると186cmの長身の誠はいつもよりさらに小さくなって後部座席に入り込まなければならない。
「文句を言わないの。男の子でしょ? 」
「テメエがでかいんだ。いい加減にしろ」
「身長は工場出荷時から変わらないわよ」
アイシャがひねくれたように要を睨み付ける。アイシャの鮮やかな瑠璃色の髪の毛を見れば確かに彼女が自然界で生まれた人間でないことは誰の目にも明らかだった。
うんざりした表情でカウラが車を出す。静かにエンジンが回り、車は砂利道を動き出した。
「それにしても……要ちゃん。吉田少佐の家は分かるの? 」
「アイシャ……西園寺もそこまで馬鹿じゃない」
「フォローするのか馬鹿にするのかどちらかにしてくれ」
カウラの言葉に複雑な表情の要。車はそのまま路地へと進む。東都から西に60kmの郊外の都市豊川。その下町を静かにスポーツカーは動き始めた。
平日である。住宅街の人影はまばらで時折老人会の集まりでもあるのか同じバッグを持ったお年寄りがすれ違っていく。
「何かイベントでもあるのかしら? 」
「アタシに聞くなよ。市役所なりなんなりに聞けばいいだろ? 」
アイシャは普段は見ないお年寄りの姿に珍しそうに目を向けている。誠はただ苦笑いを浮かべながら早く目的地に着くことだけを祈りながら小さくなってじっとしていた。
「しかしシャムが知らねえとは驚いたよな……」
「シャムちゃんが吉田少佐の家を知らなかったの? まあたぶんいつも吉田少佐の方が迎えに行くんでしょうね。意外と吉田さんは紳士だし」
「紳士? あれのどこが紳士なんだ? 紳士は玄関じゃなく常に壁を昇って進入するのか? あれはただの空き巣の出来損ないだ」
さすがの吉田も要のかかればただの空き巣に身をやつすことになる。苦笑いを浮かべる誠だが、すぐに大通りにでる交差点に車がたどり着いたので周りを見回した。
いつも通り大通りには車の通りが激しい。営業車、トラック、バン、営業車、自家用車、バン。次々と通り抜ける車を見ながら誠はただ窮屈に座り続けていた。
「誠ちゃんそんなに向こうに行かなくても……ほら」
調子に乗ったアイシャが密着してきた。すぐに助手席の要が殺気を込めた視線で睨み付けてくる。
「何よ、怖い目」
「別になんでもねえよ」
要の捨て台詞にあわせるように車はそのまま大通りを郊外へ向かうことになった。