殺戮機械が思い出に浸るとき 138
「それより……」
アイシャのその言葉の先には茫然自失としているナンバルゲにア・シャムラードの姿があった。
「コンビ組んでた相手が人間じゃなかったんだ。多少の動揺はあるだろ」
ただひたすらにランがいた空間を眺めているシャムに誠は立ち上がるとそのままそばへと歩み寄った。
「誠ちゃん……」
「やっぱりショックだったんですか?」
誠の言葉にシャムは曖昧な笑みを浮かべるとそのまま静かに首を横に振った。
「ショックとかそういうのじゃないんだ……あえて言えば少し寂しいかな。もう十年以上の付き合いなのに……何も話してくれなかったなんて……」
珍しくセンチメンタルなシャムの言葉に先程までのいじけた表情を浮かべていた要がにじり寄った。
「おい、オメエのことだからただ単に鈍感だっただけじゃないのか?」
「そうかもしれないね」
反発を予想していた言葉をあっさりと肯定された要はつまらないというように立ち上がって大きく伸びをした。
「それより神前。大丈夫なのか?相手のインパルスカノンの砲身が焼きつくまで6発。まあ後半は砲身が傷んでいるだろうから威力はそれほどでもないだろうが初弾と二発目は月をぶち抜く威力だぞ。それを干渉空間で受け止めるって……」
「そうだよ!誠ちゃん大丈夫なの?」
自分の殻に閉じこもっていたシャムが要の言葉で我を取り戻したかと思うと誠に向けて感情を爆発させたような大声を発した。誠は驚きながらカウラとアイシャに目をやった。
「どうなの誠ちゃん。大体わざとインパルスカノンを撃たせるなんて……計算上は受け止められるって話だけどあくまでも計算の上での話」
「砲台の自衛戦闘モジュールは24機。掻き回されて集中力が途切れたらジ・エンドだ」
アイシャとカウラの話に誠は今ひとつ理解しかねるというように首をひねった。そんな誠の首に手を回した要はそのまま誠にヘッドロックをかける。
「オメエのことなんだよ!オメエの!」
「クッ苦しいですよ、西園寺さん!」
「苦しいのは生きてる証拠だ。カウラの言うように展開した干渉空間に多少のゆらぎがあっただけで蒸発することになるんだぞ!」
「多少は威力は緩和されても遼北、西モスレム国境にでも当たればそれこそ核戦争勃発ね」
要の言葉もアイシャの言葉も誠はよく理解できた。ただ、余りにも物事のスケールが大きすぎて要がヘッドロックを止めて立ち上がることができても、浮遊感のようなものを感じるだけで今ひとつピンと来なかった。
「誠ちゃん。安心していいよ。誠ちゃんは独りじゃないもん。要ちゃんがいて、カウラちゃんがいて、アイシャがいる」
「シャムちゃん、なんで私だけ呼び捨てなの?」
アイシャの茶々を無視してシャムは誠を見上げながら立ち上がった。
「アタシもみんなも頑張るから……ね?」
シャムの言葉に誠はようやく自分の役割が数億の命を背負ったものだと理解することができて足が震えているのを感じていた。