殺戮機械が思い出に浸るとき 137
「以上、質問はって……西園寺。そのツラはなんだよ」
「何でもないですよ」
少女の言葉に西園寺要は明らかに不機嫌そうに呟いた。
「さっと立ってタバコでも吸いにいかないの?」
「これでもかなり進歩したんだろ」
アイシャ・クラウゼとカウラ・ベルガーはそうやって要を冷やかしてみせる。その態度がやはり気に入らないのか、隣に座る神前誠を押しやって立ち上がろうとするが、再び思い直したように静かにブリーフィングルームの堅い椅子に座りなおす。少女ことクバルカ・ラン中佐はその様子に満足したように笑みを浮かべた。
「アタシもなあ、心配してたんだよ。お前さんが懸命なのは分かってたし……まああの御仁を叔父に持ったのが不幸だったってことだよな」
「全部知っててあたしの背中を押したのか?」
ぐっと右手を握って立ち上がろうとする要をカウラと誠が両脇から掴んでようやく座らせる。本気を出せば生身のカウラや誠など振りほどけるサイボーグの要だが、なんとか自分に言い聞かせるようにして再び着席した。ランの説明をその後ろで聞きながら端末にメモを残していた技術士官許明華大佐は静かにうなづきながらランを見上げる。
「正直アタシも聞いたのは出発直前でね。まあ隊長も事実を知ったのは恐らくお前さんたちが真実にたどり着いた後の話だと思うぞ」
「本人からのリークだろ?」
わかりきっているというように要が吐き捨てる。誠はこの女性達の葛藤をどうにかできないかと影に隠れるように様子を見ている先輩の島田正人技術准尉や菰田邦弘主計曹長の方に目をやるが、どちらもかかわり合いになるのはゴメンだというように目を合わせようとはしない。
「中佐、わかったことは全て話してもらえたんだね」
第四小隊小隊長のロナルド・J・スミス特務大尉はそれだけ言うとうなづいたランを確認しただけでそのままブリーフィングルームを後にした。
「お姉さま……」
いつの間にか要に寄り添っていた嵯峨楓の存在に気づいて要が大げさに引き下がる。
「もしおこずかいが足りないなら……」
「足りてる!足りてるから!」
いつものように迫ってくる従姉妹に冷や汗混じりで叫ぶ要。それを見てにやると笑ったランはそのまま足早にブリーフィングルームを後にした。
「逃げやがった!このバカ!」
要が軽く身を乗り出してきている楓の頭を叩く。楓はその手を軽く払うとそのまま何事もなかったかのように場を後にした。
「あいつのせいで逃げられた!」
「違うわよ逃がしたのよ。どこまで行っても隊長の娘よ。食えないわよ」
アイシャの言葉に要は力なく振り上げた拳を机の上に静かに下ろした。