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殺戮機械が思い出に浸るとき 135

 大都会の縁というべき東都郊外の洋風建築の母屋。周りを腰に拳銃をぶら下げた警官が並んでいるところからして、ここ東都西園寺邸に主、西園寺基義が在宅であることを示していた。


 急に空が曇っていくのが分かり、警備の警官達はコートの襟に手をやる。


「雨かね、これは」 


 西園寺基義は静かにそう言うと自分の執務机の脇に置かれたパイプに手を伸ばした。


「西モスレムは遼北内での直接的反政府勢力支援を停止する。遼北は政治犯26名の身柄を西モスレムに引き渡す。国境線に関しては特別チームを編成し然るべき措置を行う。まあ落としどころとしちゃあいい落としどころだ」 


 西園寺基義の執務机の前の応接用のソファーに身を投げる態度のでかい嵯峨惟基の姿に嫌な顔一つするわけでもなく、一瞥しただけで静かにパイプにタバコを詰めていく西園寺。


「人の苦労も知らないで……いや、お前さんのことだ。知ってて言ってるだろ」 


「やっぱわかります?」 


 苦笑いを浮かべながら嵯峨はタバコの箱をポケットから取り出すと鈍い光を放つジッポライターで火を灯した。西園寺はその様子を確認しながらパイプの上から舐めるようなガスライターの火でタバコに火を灯す。


「そう言えば兄貴。タバコは辞めたんじゃ……」 


「紙巻きたばこはやめたんだ。パイプは別腹だ」 


「よく言うねえ、まあ俺が言える話じゃないけれど」 


 苦笑いを浮かべながら嵯峨がつぶやく。西園寺はその様子を満足げに眺めるとパイプを道具を使って火種を作り、再び着火して大きく煙をふかした。


「それもこれも空に浮かんでいる大砲のおかげとは……マスコミにリークするタイミング……間違えるとえらいことになりますよ」 


 二服目を楽しんでいた西園寺に嵯峨の視線が刺さる。西園寺は静かにもう一服したあと、再びパイプ用の道具で火種を潰して火力の調整をした。


「お前さんに言われなくてもわかっているよ。と言っても胡州にとっては他国の軍事上の秘密のおはなしだからな。タイミングの助言は出来るが、いつ発表するかは東和政府の胸一つだ」 


「東和政府じゃなくて菱川のお大尽のでしょ?」


「一応、東和は民主国家だ。確かに財界の影響力が強すぎるのは事実だがな。ちょうど胡州の領邦領主の権威が強すぎるのと一緒だ」 


 嵯峨の茶々に苦笑いを浮かべながら再び西園寺は大きくタバコの煙を吹き上げた。


「それより新三郎。摂州軍を動かしたのは……」 


 かつて西園寺家の三男として過ごしていた嵯峨の通り名を呼ぶ西園寺に苦笑いを浮かべながら嵯峨は吸い終えたタバコをガラスの灰皿に押し付けて潰した。



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