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殺戮機械が思い出に浸るとき 134

「そんなことはどうだっていい」


 苦々しげなカーンに艦は笑みでも浮かべているように言葉を続ける。


『どうだっていいね。流石に異教徒やコミュニストが死ぬのが数億という単位だと気が引けるかね』


「それは私のセリフだ」


 カーンは震えながらつぶやいた。


『どこまで行っても自分が何者なのかわからないという意味では俺もあんたも同類だな。だが、あんたは所詮人でしかない。数億人が死ねば多少の感傷に浸るのも当然だな』 


「まるで自分の方が優れているとでもいうような言い草だな」 


 皮肉な言葉に艦はよどみなく言葉を続けた。


『事実だから仕方がない。俺には死が存在しない。人間の言う病気の苦しみも持たない。また存在が消えてなくなることの恐怖もない』


「そうか?それならなぜ君等が言う管理者やサーバーの攻撃から逃げ回る必要があったんだ?」 


 カーンの珍しく素直な質問にようやく饒舌を止めた艦。ただし、それに続く言葉にはより残酷な表情が似合うものだった。


『奴等はイレギュラーだ。多面的な視線と情報を手にするにはインターフェースは多い方がいい。だから俺は毎年のように新たな義体をその筋で確保して稼働させたんだ。多数の俺が同時多発的に観察し、活動し、そして破壊する。最強のシステムだとは思わないかね』 


「おかげで東和は200年に渡る平穏を得ることができたというわけだ」 


『そう、ゲルパルトや胡州の無謀な対地球戦争にも巻き込まれずに済んだだ……まあ皮肉だよ』


 艦の言葉に明らかにカーンは心象を害したように顔を歪めた。


「あの戦争では東和は我々に味方するべきだった」 


 ゲルパルトのネオナチ党の政治士官であった過去を持つカーンにはそれだけをいうのが精一杯だった。


『負ける戦争をするのは大馬鹿者だよ。東和が付けば勝った?単純な楽観論に過ぎないね。地球のアメリカを中心とする陣営の国力とゲルパルト、胡州の両国の国力には差がありすぎる。地球のアフリカと中央アジアまで侵攻できただけで十分じゃないの……まあ過ぎた戦争の話をするのは建設的とは言えないね』 


 ブリッジの計器が動き始める。カーンは静かにそのさまを見守っている。


「動き出したか、嵯峨は」 


『なあに、動き出すのはこちらのほうだ。嵯峨本人は今回は政治的な動きを取るだろうからな。実践を仕切るのはクバルカ・ラン中佐』


「遼南共和軍の残党か……東和でアサルト・モジュールの教導隊の隊長をしていたはずだが?」 


『あなたも知っているとは彼女も高名なパイロットというところですかね。ただ相手には不足はない』


 満面の笑みがブリッジに広がっているように見えてカーンは少しばかり困惑しながら通信を遮断した。



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