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殺戮機械が思い出に浸るとき 132

「まるで尋問だな。安城さんか」 


 リムジンのソファーの中、菱川十三郎は静かに苦笑いを浮かべると静かに戸棚から葉巻を取り出す。そんな仕草を冷徹な目で安城秀美はただ見つめていた。


「尋問したい気分ではありますが……」 


「証拠がないんだろ?」


 静かに菱川は葉巻用の強力な火力のライターで葉巻を舐めるように炙って火を点け、ゆっくりと味わうようにくゆらせる。菱川の意外に思ったことは目の前の同盟司法局の機動部隊長が表情をひとつ変えずに菱川を見つめていることだった。


「タバコは吸わないんじゃないのかね。その割には……」 


「ええ、ただヘビースモーカーの同僚がいるものですから」 


「ああ、嵯峨惟基か……」 


 得心が入ったと静かにうなづきながら手にした葉巻を弄ぶ菱川を相変わらず表情一つ変えずに秀美は見つめていた。


「なんとか報道管制のおかげで混乱は避けられていますが、砲台は完全に制御不能となりました」 


「ほう、私も聞いてはいるよ。うちの兵器開発部門が先走ったのは私の責任でもある。それが制御不能となれば私もそれ相応の責めを負うつもりだ」 


 それまでの悠然とした態度から神妙な言葉に変わってみせた菱川だが、秀美はその予定されたような態度の変化に眉をひそめた。


「一部門のコンプライアンス違反に経営者が責任を取る。実にご立派ですね」 


「皮肉かね。ただ、今回のプロジェクトについては私も詳しい報告は受けてはいないんだ。おそらく私の知っている内容はあなたの知っている内容と変わらないか、もしかしたらよりアバウトなものかもしれないな」 


「コロニー系一つが吹き飛ぶ砲台の設計をそんな末端組織で行っていたんですか……」 


「それは結果だよ。インパルスキャノンの基礎となる波動利用式エネルギー砲開発の前段階ではそれほどの威力を持つとは考えてはいなかったわけだからね。威力が過大になったのは開発過程でいくつかの発見がなされたことと、法術研究による空間干渉型兵器の登場によるところが多いんだ。……そう言えば君の同僚の嵯峨氏の部隊にいるんだそうだね、法術の実戦使用を初めて行った人物は……責任の一端は彼にもあるとは思わないかね?」 


 再び菱川の表情に余裕のようなものが浮かんでいるのを見て秀美は苦笑いを浮かべた。嵯峨の部下、神前誠曹長の話をされれば、当然今回の騒動の主役のひとりである吉田俊平の話に話題が移るのは明らかだった。ほかの情報は菱川が掴んでいる範囲はわかってはいたが、目の前の狸が吉田俊平に関してどれだけの情報を持っているかは秀美にも読みきれずにいた。


「一つだけ確認したいのですが……あなたは今回の事件の結末がどうなることを望んでいるのですか」 


 秀美の問いに少し意外そうな表情を浮かべたあと、葉巻の灰を灰皿に落としながら菱川は口を開いた。


「今回の事件が起きる前の状況に戻ることくらいかね」 


 菱川がそれだけいったところで秀美の背中にあったドアが開いた。


「尋問はこれくらいでいいかね。私も暇ではない」 


「ええ、これ以上時間を使っても無駄のようですから」 


 それだけ言うと秀美は黒塗のリムジンから寒々しい2月の東都の中央通りの歩道へと足を向けた。


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