殺戮機械が思い出に浸るとき 130
「そして最後の一人が……」
「空に浮かんでるあれか」
ネネの言葉に要は静かにうなづく。誠はただ分からずに呆然としていた。
「例の砲台のコントロールシステムをハッキングしたってこと?」
投げやりなアイシャの言葉にうなづくネネを見てカウラはキッと唇を噛み締める。そして誠も事の重大性を認識して背筋が寒くなるのを感じていた。
「演習って言いますけど……実戦じゃないですかこれじゃあ」
「実戦?そんな甘いもんじゃねえよ」
「試練と言った方が正確だな」
要とカウラの言葉に誠は天を見上げた。
「誠ちゃんは何か持ってるんじゃないの?誠ちゃんが絡むと大体絶体絶命のピンチに陥るじゃない、私達」
アイシャの言葉が誠に更に追い打ちをかけた。
「まあ今のところオリジナルの吉田が空の上のバックアップに知られずに得られたデータは?」
「これ」
慎重に袖の下からマイクロチップを取り出したネネは静かにそれをテーブルの中央に置いた。
「どこまで探りを入れてくれたか……」
アイシャはそれを手にすると心底感心したようにつぶやいた。
「あてにはしない方がいいだろうな。もし弱点でも見つかっていたらすでに空のあれは破壊されているはずだ」
「そういうことだな……」
それだけ言うと要はテーブルの脇に置かれた鈴を鳴らした。
「まあ苦労はそれなりにしてもらったようだからな。ちょっとしたお礼だな」
「フランス料理のフルコースがちょっとしたお礼ね。さすが金持ちは違うわね」
「アイシャ。ならテメエは食わなくてもいいんだぞ」
「いえいえ、食べますとも。今回もギリギリの戦いになりそうだし」
鈴の音を聞きつけてギャルソンと店員は手にしたフォークやナイフを慣れた手つきでテーブルに並べ始めた。
「確かにアイシャの言うようにギリギリだな。そして……」
並べられていく食器を眺めていたカウラの視線が誠に向かう。
「僕ですか?」
「そう言うこと。吉田の野郎のあてにしている本命はシャムだろうが、神前のちからも計算には入れて勝負に出ているだろうからな」
前菜を並べ始めたギャルソン達の動きに合わせるかのような要の言葉に誠は頭を抱えた。
「なんでいつも僕なんですか……」
「いいじゃないの、必要とされるのは生きている証よ」
「アイシャ、たまにはいいことを言うな。そういうわけだ……、ああ、私は運転をするから水でいい」
カウラの隣に置かれたグラスにワインを注ごうとするギャルソンを制止して、そのままカウラは置かれていた水の入ったグラスに口をつけた。
「まあカウラはいいとして、最期の晩餐とならないようにしたいものだな」
手にしたワイングラスをかざす要。誠はネネとともにこの騒動をこよなく愛する女達に運命を握られている事実をまざまざと思い知ることになった。