殺戮機械が思い出に浸るとき 13
「まあそれにしても寒いわね……要ちゃんは大丈夫みたいだけど」
アイシャが言うのももっともだった。要はいつも通り革ジャンの下はタンクトップ。短いジーンズのパンツの裾からは腿があらわに見えている。
「ほっとけ、人ごとだろ? それにしてもカウラの奴は……」
「さっき食堂を出たばかりでしたがからしばらくかかりますよ」
誠の何気ない一言に要の肩の上で切りそろえられた髪が揺れる。
「アイツも冷たいんだな」
「冷たいとかそう言う問題じゃ無いと思うんだけど」
アイシャの突っ込みは軽く無視され要はしばらく思索にふける。
「それにしても今年は雪が降りませんね」
「餓鬼かテメエは? 雪なんか降っても道路が凍って面倒なだけだぞ」
ふてくされたような要の一言。確かにそれはその通りだが、誠にとってはコロニー育ちの要には雪が珍しいだろうと気を利かせたつもりだっただけに少しばかりショックだった。
「まあ雪は見たければ北に行けばいい訳だし……このままドライブなんてどう? 」
何気ないアイシャの一言に殺気がこもった要の視線が飛ぶ。アイシャは何となく戸惑ったようにただ誤魔化すように周りを見回した。
「島田君……まだ片付けて無いのね」
アイシャの視線の先には屋根のついた小屋のようなものがあり、その下にはバイクの部品が乱雑に置かれていた。バイクが趣味の整備班班長の島田の隠れ家と本人は自称している場所。島田と島田とつきあっているサラ以外が近づくと面倒なことになるのでアイシャも少しばかり困ったような顔でその一隅を眺めていた。
「やっと来やがった」
要の声で誠は駐車場の入り口に目を向けた。エメラルドグリーンのポニーテール。自然界には存在しないその髪の色は彼女が人工的に作られた戦闘用の人間であることを示していた。
「待たせたな」
「待たせたなじゃねえよ! とっとと出かけるぞ! ああ、アイシャはここにいて良いから」
「私はお留守番? 嫌よ、ついていくから」
カウラが操作して開いたドアにおもむろに誠を押し込むアイシャ。そのままいつもは要が座る後部座席にアイシャが長身を折りたたむようにして乗り込んだ。