殺戮機械が思い出に浸るとき 122
「機密には金がつきものだろ? 」
若干自信が揺らいでいるようで要の言葉は振えていた。嵯峨はいつものように胸のポケットからタバコを取り出すと自動的に火を付ける。
「まあ……相場という奴がね。それにだ。お前さんは俺が『預言者』の話を持ち出すことに疑問を感じていないようだが……水漏れの準備もまるで無しか? 機密が聞いて呆れるよ」
嵯峨の言葉は明らかに要を嘲笑していた。強気の要が完全に打ちのめされたというように俯いて両手を握りしめている。カウラもアイシャも相手が嵯峨、胡州陸軍では諜報活動の先端を担う東和大使館付き武官を出発点として、外地におけるゲリラ摘発の特殊部隊の部隊長を勤めたその道のプロであることを思い知らされた。
「ただ……相手も一流の情報屋だ。俺も何度か依頼をしたが……突っぱねられた口でね。そう考えるとよくつなぎを付けたもんだと感心させられないこともないな」
「そ……そうかねえ……」
俯いたままの要。その表情を誠がのぞき見ると少しだけ口元が緩んでいるように見えた。
「二つ名が付くような裏の世界の人間は仕事を選ぶからな。金、主義、顧客の人柄。どいつもこいつも海千山千の怪物ばかりだ。その基準は人に分かるもんじゃ無い。そんな一流どころが俺を嫌って要を選んだ……なかなかおもしろい話だな」
嵯峨の口から吐かれたタバコの煙。元々遠慮と言うことはしない嵯峨らしくせっかくきれいになった隊長室の天井がすぐにヤニで染まることになるだろうと言うことはすぐに想像が付いた。
「しかし……なぜ西園寺を選んだんですか? 隊長を袖にしたと言いますから……」
カウラの真っ当な質問にアイシャも頷いて嵯峨の答えを待つ。嵯峨はただひたすら天井を見上げてじっとしている。
「お前さん達。依頼者……『預言者ネネ』についてはどれだけ知ってるよ」
突然の嵯峨の言葉は鋭く残酷に響いた。カウラもアイシャもそこで自分達が依頼した相手についてただ要のチョイスだけに任せていた事実に気がついた。
「東都戦争の時にはすでに伝説だったな……抗争の最中、旧共和軍系のシンジケートとイスラム系のシンジケートの銃撃戦の中を一人の少女が買い物かごを持って歩いて渡った。その少女が近づくと両者は銃撃を止め、彼女が通り過ぎればまた激しい銃弾が飛び交う……誰もが彼女に手を触れることは出来ない。それをした組織は東都じゃ飯が食えなくなる」
「要……それは伝説ができあがってから後の『預言者』の立場だ。何でネネと呼ばれるどう見ても栄養失調のメス餓鬼が億単位の東和から綾南に向けての援助物資の横領品の争奪戦をしている最中でもそれを気にせずに行動できる身分に成り上がったか……それの説明が無ければ回答としては0点だ」
嵯峨の言葉は全く持ってその通りだった。カウラとアイシャは要の俯いた姿に目を向ける。要は再び目を落としたまま動くことも出来ずに黙り込んでいた。