殺戮機械が思い出に浸るとき 12
誠はそのまま食堂を飛び出し、階段を上り、自分の部屋に飛び込む。遅れていけば要の機嫌は確実に悪くなる。その原因に自分がなるのは得策ではない。
ジャンバーを羽織、財布を持つとそのまま階段を駆け下りた。
「神前はやる気なのか? 」
まるで不思議な生き物を見るように食堂を出たばかりのカウラが誠を見つめていた。
「とりあえず僕が相手をしていますから、準備はゆっくりしてください」
「悪いな。助かる」
そう言うとカウラはゆっくりと階段を上がっていく。
誠はとってつけたような地味な玄関の靴箱からスニーカーを取り出して履いてそのまま道路へと飛び出した。
初春の風はまだ冷たい。仕方なくジャンバーのジッパーを閉めるとそのまま誠はポケットに手を入れて隣の駐車場に向けて歩き出した。
すでに始業時間を過ぎている。止めてある車は二台。黒い小型車は先月異動した技術下士官の車で急な異動でパンクの修理の時間が無いため島田が直してから売りに行く予定なのがまだ手つかずで置いてある車だった。その奥に最新型の赤いスポーツカー。そしてその隣には……、
「早く来い! 」
叫ぶ要の姿がある。誠は仕方なく小走りで要のところまで急いだ。
「アイツ等はまだか? 気合いが足りねえよ」
「いや、これはあくまで休暇中のことで仕事じゃないですから……」
誠のいい訳に明らかに不機嫌になる要。そのタレ目が殺意がこもっているように歪む。
「なんだ? 同僚が行方不明なのに気にならないのか? オメエは。冷たい奴だな」
「行方不明も何もちゃんと仕事は進めてるんだから無事なんですよ。余計なお世話はしない方が……」
ここまで言って誠は言葉を飲み込んだ。下手に逆らえばただ機嫌を損ねるだけ。こういうときは黙っているに限る。
「余計なお世話かもしてないけどよう。やっぱりこういうとき心配してくれる人がいる方がいいと思わねえか? アタシは心配してもらった方が……」
「私が心配して上げる」
突然後ろからアイシャに声をかけられて要はもんどり打って誠に抱きついた。
「あらー……朝から情熱的ね」
「脅かすんじゃねえよ! ちゃんと一声かけてから声をかけろ! 」
「一声かけてから声をかけるって……やりかたが分からないから教えてよ」
いつものアイシャの減らず口。要はただ怒りをため込んでアイシャを睨み付けた。