殺戮機械が思い出に浸るとき 115
『本当の俺ねえ……』
突然部屋に響き渡った電子音声にオンドラは顔を顰めた。
「突然喋るんじゃねえよ」
『失礼した。まあ……こっちの方がかなり手間をかけたわけだからそう謝る必要は無いか』
「そうかも知れませんね」
白い目でネネがオンドラを見る。
「なんだよ……アタシが無能みたいじゃないか」
『みたいじゃなくて無能そのものだったね。君の情報調査能力……預言者ネネ。多少買いかぶりすぎていたんじゃないですか?』
「いえ、別に買いかぶってなんていませんよ。それだけ無能だったからこそ私達はこうしてあなたに出会えたんですから」
ネネの確信を込めた言葉。オンドラは不機嫌そうに銃口をまだ痙攣している義体へ向けた。
『ああ、そいつなら好きなだけ撃ってくれ。俺としてはそんな偽物がはびこっている世の中にはうんざりしているんでね』
吉田の言葉が終わるまでもなくオンドラはフルオートで義体に弾丸を撃ち込んだ。痙攣が止まり地べたに血が拡がっていく。
『気が晴れたところで……まず君達が知りたいことは何なのかな? 』
できの悪い生徒を教える教師宜しく呟く吉田の言葉にネネは眉を潜めた。
「私の知りたいこと……最初にあなたの悪趣味が先天的なものかどうかを知りたいですね」
『これは意外なところから話が始まるね……悪趣味……確かにそうかも知れないね。あちこちに分身の死体を残して消える……少なくとも趣味の良い存在のすることじゃない』
「確かにな。趣味が良ければ最初から分身なんて言うものを作る必要がねえからな」
オンドラの言葉。吉田の感情を表すように黒く染まったモニター画面が軽く白く点滅した。
『一つの意識……そこから出発するのが人間という生命の特徴だとするならば、俺のそれは多数の視点を持つ意識集合体として出発することになったからそれを統合する必要が生じた段階で個々の異端的意識を消す必要が生じた……こう言う説明では不十分かな? 』
「不十分ですね。まず、なぜあなたの意識が最初から分裂して多面的な視点を持つ必要が合ったのかの説明が必要になります。またその必要に妥当性があったとして、なぜ突如としてその多面的な視点が百害あって一理無い状況に至ったのか……それも説明をいただかないことには……」
ネネの言葉。すぐに画面が再び白く点滅する。
『預言者……その二つ名は伊達では無いんだろ? なら二つの回答の予想も付いているんじゃないかな』
吉田の言葉にネネは答えることもなくにんまりと笑う。
「ここにちょうど良い証人としてのオンドラがいますから……彼女に分かるように説明してください。そうしないと私も契約相手のあなたのことを心配している同僚にあなたについて説明をする自信が無いんです」
『これは一本取られたな……じゃあ始めようか…俺が何者で何を目指しているのか……』
満足げな吉田のつぶやき。オンドラはただ黙ってそれを聞いているだけだった。