殺戮機械が思い出に浸るとき 114
「残念だ……」
心底残念そうに肩を落とす吉田にネネはただ黙ってその表情を見つめるだけだった。
「人の死を望む存在に同情する余地は無いと思いますが……」
「そうかな? 世に自分の利益を求めない人がいないのだから時に国家というものに依存するパーソナリティーがその国家に敵対するものに死を望むのは珍しい話ではないだろ? 」
吉田は再び饒舌を取り戻してネネを睨み付ける。
「私はそう言う狂信者とは距離を置くのをモットーにしているもので」
「確かにそれは賢明な発想だ。だが成功には時として彼等と共闘することを求める場面もある」
そう言うと得意げに吉田は背後に並ぶ画面に目をやった。瞬時にそれは何か巨大な施設を映し出す。
「何ですか? それは」
ネネの興味深げな反応に満足げに吉田は頷いた。
「興味があるね? 先ほど狂信者と距離を置くと言いながら……これが狂信者の作品そのものだというのに」
「ゲルパルト辺りの秘密兵器というところか? 」
オンドラの当てずっぽうの問いに吉田はもったいを付けたような笑みを浮かべている。
「それであなたは何をしようというのですか? 」
「私が望んだ訳では無いよ。狂信者はただ敵の死を望む。その様子の観察をもくろんだだけだ」
「悪趣味だな」
「なんとでも言いたまえ! 私は私の快楽の為に存在しているのだから」
背後のメカニズムの動きにネネ達の視線は釘付けになる。何度となく繰り返される惑星を狙撃する巨大砲台の映像。
「それは『管理者』の望んだことなんですか? 」
静かに放たれたネネの一言。それまで満足の笑みを浮かべていた吉田の表情が崩れる。
「管理者……誰だね? それは」
「あなたのお仲間が消された場所に必ず残っていた符号です。『管理者』……あなたはそれが誰かを知っていると思いますが? 」
「知らないな! 『管理者』? そんな存在を私は……! 」
そこまで言ったところで吉田の体が突然空中に撥ね飛んだ。絶え間ない痙攣を引き起こしながら地面に転がり、口からは泡を吐き始める。
「おい! ネネ! 何をした!」
オンドラが叫ぶのも当然だった。先ほどまで満面の笑みでネネ達と会話をしていたサイボーグはただ痙攣と骨髄反射を繰り返しながら床に転がるだけだった。
「ようやく本当の『吉田』さんが現われますよ……」
目の前の惨めな義体を見下ろしながらネネは静かにそう呟いた。