殺戮機械が思い出に浸るとき 113
「終わっているか……それはいい! 」
そう叫んだ半裸の吉田。その狂気の表情にネネは目を背けた。目を見開き、ただ口を半分開けて笑みと呼ばれる表情を浮かべるそれ。
「その面! 見ててむかつくんだよ! 」
オンドラの言葉にただひたすら笑いだけで返す吉田。
「だから何だって言うんだ? まあいいや、君達は運が良い。俺は今大変に機嫌が良いんだ」
「そうは見えませんけど……」
それとないネネのつぶやきにも吉田の笑みは止まることを知らない。
「まあいい。君達は俺のことを捜していた……」
「さもなきゃこんなところに来るかよ」
「そうだな……だが機嫌が良い俺に会えるのはそう無い機会だぞ」
吉田はそう言うと一つの端末に取り付いた。狂ったようにそのキーボードを叩き続けた結果ついに全面の画面が切り替わる。
すべてはアルファベットの羅列に埋め尽くされた。それがドイツ語のものだとネネはすぐに気づいた。
「ゲルパルトの仕事でも請け負っているんですか? 」
ネネの言葉に吉田は狂気を孕んだ笑みで頷く。
「大きく時代は動く……時代を動かす機会とは無縁だと思っていたが……世の中そう捨てたもんでもないらしい」
「お前の場合すでに捨ててるみたいなもんだけどなあ」
オンドラのつぶやきを無視して吉田の笑みは続く。
「君達も見ただろ? 海峡を越えていく避難民の乗る輸送船の群れを」
「あれはもう片が付いた……終わった事実を受け入れられない人達の群れに見えましたけど」
非難めいた響きを湛えたネネの言葉に吉田は耳を貸す様子もない。
「いや、彼等は正しいんだよ……まもなくそれは証明される……外惑星の連中……悪意を湛えていい顔をしていた……実にいい顔だった」
「悪意を湛えたいい顔? そんなものがあるなら見てみたいね」
「君は今俺を通して見ているじゃないか! 」
「なら見たくもないな」
オンドラの言葉に話すに足りないと言うように吉田は目をネネに向ける。ネネは無表情に吉田を見つめた。
「おかしな話とは私も思います……悪意はどこまで行っても悪意ですから」
吐き捨てるように呟かれたネネの言葉に吉田は大げさに肩を落とした。