殺戮機械が思い出に浸るとき 111
開いた道はこれまでの洞窟の自然を装った姿は無かった。明らかに重機で削った爪痕が克明に残っているのがわかる。
「しかしあれだねえ……さすがというか何というか……」
銃をかざしながら先を進むオンドラが感心した視線を振り返る度にネネに向けた。
「何がですか? 」
「古代遼州語? そして現在の遼州の言葉の地図。全部頭に入っているわけか? すげえ話じゃねえか」
オンドラの珍しく本心から感心しているような言葉遣いにネネも少しばかり気をよくして微笑んだ。
「あなたの商売道具は手に持っている銃だとすれば、私の場合はこれです」
静かにネネは自分の頭を指さした。振り向いたオンドラは分かりましたというように大きく頷く。
「伝説の情報屋……馬鹿には確かに勤まらない仕事だ」
オンドラはそう言うとゴーグルを外して銃の銃身の下にぶら下げたライトで行く手を照らした。
行き止まりには銀色の扉が見えた。
「もう偽装の必要も無いってわけか……どんな人物が待ち受けているのか……」
「予想はいくらでも出来ますが、今はするだけ無駄でしょう。顔を合わせて話せば一番手っ取り早く分かりますよ」
ネネはそう言うと躊躇うように立ち止まっているオンドラを追い抜いてドアの前に立った。ドアはゆっくりと音も立てずに開く。オンドラはさすがにネネの行動が無謀だと感じてその前に飛び出して銃口を部屋の中に向けた。
薄暗い明かりが二人を包んだ。そしてその明かりがだんだんと強くなっていくので二人は思わず眼を細めていた。闇に慣れた目が何とか光を捉えることが出来るようになった時、二人は部屋の中央に棺桶のようなものがあるコンピュータルームと言うのがその部屋の正体だと知った。
「なんともまあ……」
オンドラは銃口を棺桶に向けたまま部屋を見回した。壁面を埋め尽くすモニター画面。中空にもフォログラムモニターが展開しており、そこにはオンドラも何度か見たことがある様々なテレビ番組や映画、ネットの検索画面やゲームのプレイ画面が映し出されていた。
「監視者気取りのドラキュラさんの顔は……」
苦笑いを浮かべながら棺桶に顔を突き出そうとした瞬間、棺桶の蓋が勢いよくはじき飛んだ。オンドラも場数は踏んだ手練れ、蓋をかわして飛び退くとそのまま銃口を蓋の中から現われた半裸の人物に向けた。
「なんだ! テメエは! 」
オンドラの叫び。ネネはただ黙ってにらみ合う二人をじっと眺めていた。