殺戮機械が思い出に浸るとき 108
「何を……」
「まあ見てなって。アタシも初めて使うんだけど……」
オンドラが取り出したのはスキー用のゴーグルのように見えた。それを顔に取り付けた後、そこから伸びるコードを自分の後頭部にあるジャックに差し込む。
「爆発があったってことは空間のゆがみが物理的に発生したってことだ。焼け焦げた跡があると言うことはそれほど古い話じゃ無い。しかも近くにはトラップに引っかかった間抜け野郎の姿も無い」
そう言いながらオンドラは洞窟の入り口を眺めた。高さは二人が立って入るには十分。幅から考えれば手榴弾クラスの爆発でも二人を巻き込んで殺傷するには十分だろう。
「おお……見えるねえ。法術師じゃねえのに歪んだ空間を示す色の変化がばっちりだ」
「そんなものが出来ていたんですか? 」
「あれだろ? 地球のお偉いさん達はこの前のなんとかって言う胡州の馬鹿野郎のおかげで法術ってものが知られるようになる以前からその存在を知っていた。知ってて隠していた……」
オンドラはゴーグルを付けたまま洞窟に入る。周りの岩や地面を何度か確認し、納得しながらゆっくりと進む。ネネはオンドラが置いて行った銃をバッグに無理矢理詰め込むとそれを引きずりながらオンドラに続いた。
「第二弾だ……色が薄いってことはそれなりに昔に引っかかった奴がいるな……場合によっては得物がいるな。ネネ、済まねえ」
背後までバッグを運んできたネネに頭を下げるとオンドラはゴーグルを付けたまま手慣れた手つきで銃を組み立て始めた。銃身を機関部に深くねじ込むとその下にグリップを当ててピンをたたき込んで固定する。そのまま機関部の後ろにも同じようにピンを刺してストックを固定。鉄の塊はすぐに銃へと姿を変えた。
「手慣れたものですね」
「これが食い扶持だからね」
そう言うとオンドラはそのまま銃を構えながら中腰の姿勢を取る。
「ネネ、アタシの頭より上には手を出さないでくれよ……不可視レーザーが走ってる。右の壁のセンサーへの光線の供給が途絶えたら何が起きてもアタシのせいじゃねえからな」
「それほど物好きじゃありません」
ネネはかがみながらオンドラの後に続く。またオンドラが歩みを止めた。今度は跨ぐようにして何かを乗り越えている様子が後ろのネネからも見えた。
「古典的だね……ピアノ線。まあ確実と言えば確実だが」
「トラップが好きみたいですね、吉田って人は」
「まあ傭兵なんて言う職業柄だろ? 東都の租界にもそう言う奴は何人かいるぞ。なんなら紹介しようか? 」
「そう言う悪趣味な友達は欲しくありません」
オンドラの冗談に真顔で答えるネネ。その様子に振り返って笑みで答えるとオンドラは再び真剣な表情に戻って洞窟を奥へと進んだ。