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殺戮機械が思い出に浸るとき 1

「なんだ? 吉田の旦那は今日もお休みかよ」 


 部屋に入って来るなりのいつも通りの辛辣な口調の西園寺要大尉の言葉で、ひどい話だが神前誠しんぜんまことはようやく隣の机の島の一角がここ三日間空席だった事実に気がついた。自分の目で空席の存在を再確認すると一言言っただけで気が済んだように自分の机の上のモニターに視線を飛ばしている要を見て、誠は再び目を主を失った部隊のシステム担当の席へと向けた。


 考えてみれば奇妙な話だった。遼州同盟司法局実働部隊、通称『保安隊』。司法実力部隊の一士官が三日間部隊に顔を見せず、そのことに新米隊員として気を遣う日々の誠が気づかなかった。誠は第二小隊、吉田は第一小隊の所属で勤務が重ならないことも多いとは言っても人一人、しかも少佐の階級の人物が顔を見せないと言うのに誰も話題にしないことが不思議に思えた。自然と誠は彼の所属する保安隊実働部隊の隊長の方へと目を向ける。


「クバルカ中佐、何か話は? 」 


 要と一緒に入ってきた誠の上司でもある第二小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉が部屋の上座の大きめの机に視線を投げる。机の向こうには小さな、本当に小学校就学前のようにも見えるおさげ髪の少女の姿が見えた。


「あ? 話? ねーよ」 


 小さな頭が画面の後ろから飛び出す。実働部隊長クバルカ・ラン中佐。その刺々しくはあるものの幼さのようなものを感じる表情にはまるで吉田がいないことが当然だというように無関心、無感動な表情が浮かんでいた。めんどくさそうにそう言うとランはそのままキーボードを小さな手で叩きつづけている。その冷めた口調にひとたびは無関心を装っていた要が伸びをして少女を睨みつけながら叫んだ。


「いいのかよ、それで。脱走じゃねえか!ここが胡州だったら銃殺だぞ! 」 


「だって胡州じゃなくて東和だよ。だから大丈夫」 


 いきり立つ要に吉田の隣の席のこれも小学生程度に見える女性士官、ナンバルゲニア・シャムラード中尉が答えた。その姿を見つけた要はいつものタレ目でシャムを睨み付けながら立ち上がるとつかつかと歩み寄る。見下ろす要。それに小さなシャムは負けじとじっと要を睨みつけたまま答える。


「オメエ……いつも吉田と一緒だよな? 知らねえのか? こいつがいねえわけ? 」 


 要の見下すような視線。だが一枚上なシャムは要の攻撃的な目つきを見つけると余裕を込めた笑みを浮かべながら黙って頷く。


「なんだ? ここはなんだ? 鉄砲持ったり大砲持ったりことによっちゃあアサルト・モジュールなんて言う物騒な巨大ロボットで戦争の真似事もやったりするところなんだぞ? その兵隊が上官の許可も無く行方不明だ? 」 


「いつアタシが許可をしてねーって言った? 」 


 またひょいと画面の脇から顔を出すラン。そのぼんやりとした表情に誠は吹き出しかける。だがすぐにそれを要に見つかってなんとか口を押さえて項垂れた。


「じゃあ許可したのか? 」 


「してねーよ。しかもアタシの知ってる限りの連絡手段はすべてシャットアウトだおめーの言うようにどうやら敵前逃亡と言ってもいいかもな」 


 それだけ言うとまたランは頭を引っ込めた。要は表情一つ変えずにつぶやかれたランの言葉に今にも暴れだしそうに顔を赤らめながらこぶしを握り締めてランを睨みつける。


「はあ? マジで逃亡じゃねえか! 」 


「逃亡じゃ無いよ。連絡がつかないだけ」 


 シャムが捲し立てる要に茶々を入れた。要の高圧的な一睨みに頭を掻いてそのまま自分の端末の画面に目を移した。誠は今にもランかシャムに掴み掛りそうな様子の要を見ると思わず立ち上がって彼女を制することができるように心を決めた。しかし要は軍用義体の持ち主。そしてランもシャムも見かけによらぬ百戦錬磨の猛者だけあって、それが無駄なことだということは十分にわかるだけに、さらにどうするべきか迷いながら様子を伺うことしかできなかった。


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