表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
94/103

武将 古田織部 第94話 制度化される数寄

慶長十三年(1608)。

伏見と京のあいだを結ぶ道には、

再建中の二条城へ向かう材木や瓦が、

絶え間なく運ばれていた。

城が建つということは、

ただ建物が増えるという意味ではない。

新しい秩序が形を持ち始めるということだった。

織部のもとにも、

江戸と京から次々と依頼が届いた。

「二条城の茶室、監修を願いたい」

「伏見の御成屋敷、礼法の整備を」

「武家の茶の湯、規範を定めよ」

どれも、

美を求める依頼ではなかった。

“整える”ための依頼だった。

(……美ではなく、位置を決めるための茶か。)

茶室の寸法、

炉の切り方、

道具の配置、

客の動線──

すべてが“武家の礼法”として整えられていく。

かつて利休が追い求めた「静けさの美」も、

秀吉が誇った「権威の美」も、

ここにはなかった。

あるのは、

揺れぬ美。

乱れぬ美。

秩序のための美。

織部は、

その変化を静かに見つめていた。

(……美は自由ではなくなった。)

そう思った瞬間、

胸の奥に、

ふっと軽い風が吹いた。

(……だが、風刺には使える。)

自由が奪われたのなら、

その枠の中で遊べばよい。

秩序が求められるのなら、

その秩序の“外側”をちらりと見せればよい。

ゆがみ。

破調。

奇妙な線。

不均衡な形。

それらは、

武家の礼法の中に置かれたとき、

かえって強く光る。

(……面白い。)

織部は、

制度化されていく茶の湯の中に、

風刺としての美の可能性を見つけていた。

家康が求める“整った美”の中に、

ほんの少しだけ“揺れ”を混ぜる。

それは、

誰にも咎められない。

だが、

見る者の心に、

小さな違和感を残す。

それこそが、

織部の新しい美だった。

(……時代は変わった。

 ならば、わしの美も変わればよい。)

制度化される美の中で、

織部は静かに笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ