表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
77/103

武将 古田織部 第77話 織部の点前

黄金の茶室のまばゆい光を背に、

織部は本堂へと戻った。

北野の森の喧騒が遠ざかるにつれ、

耳に戻ってきたのは──

利休の席から聞こえる、

湯の静かな音だけだった。

席の前に立つと、

利休がこちらを振り返った。

「……織部殿。

 しばし、席をお任せしてもよろしいか。」

利休の声は低く、しかし揺るぎがなかった。

織部は深く頭を下げ、

そのまま席に入った。

利休が立ち上がると、

そこに自然と“空白”が生まれた。

織部はその空白を埋めるように、

炉の前に座した。

客は一人。

津田宗及の嫡男──津田宗凡。

宗凡はまだ若いが、

父譲りの鋭い目をしていた。

しかしその目は、

織部が茶杓を取ると同時に、

わずかに揺れた。

「……織部殿が亭主を?」

宗凡は驚きを隠せない様子だった。

利休の席で、利休以外が亭主を務めるなど、

滅多にない。

織部は静かに微笑んだ。

「利休殿より、しばしの代わりを仰せつかりました。

 どうぞ、おくつろぎくだされ。」

湯の音が、ふっと強くなった。

織部は柄杓を取り、

湯を茶碗に落とす。

その所作は、

利休のように削ぎ落とされてはいない。

静かで、しかしどこかに“動”の気配がある。

宗凡は、その一挙手一投足に

目を奪われていた。

茶を点て終え、

織部は茶碗を宗凡の前に置いた。

「どうぞ。」

宗凡は両手で茶碗を受け取り、

一口、口に含んだ。

その瞬間、

宗凡の表情が変わった。

驚き、

戸惑い、

そして──

深い感嘆。

「……これは……。

 利休殿の茶とも、父の茶とも違う……。

 静かで……しかし、どこか……強い。」

織部は答えず、

ただ静かに宗凡を見つめた。

宗凡は茶碗を置き、

深く頭を下げた。

「織部殿。

 私は……あなたの茶に、心を奪われました。」

その言葉は、

利休の席の静寂に吸い込まれるように響いた。

この日──

利休の席で、利休の代わりに亭主を務め、

堺の若き商人・宗凡の心を掴んだ織部は、

“次の時代”の扉を静かに開いたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ