武将 古田織部 第74話 名物の買い付け
聚楽第の建設は、柱や梁だけでは形にならない。
殿下が望むのは、
“誰も見たことのない都” だった。
利休のわびの美だけでは足りない。
関白秀吉は、
豪奢と権威を示すための“名物” を求めていた。
「古田殿──殿下は、唐渡りの色絵をお望みだ」
奉行の声は困惑していた。
利休の領分では扱わぬ派手物。
だが、聚楽第には必要とされた。
「堺では手に入りませぬ。
京の寺社、あるいは豪商の蔵を当たるしかない」
その言葉に、重然はひとりの顔を思い浮かべた。
東善寺の和尚──
寺社・公家・豪商の“裏の流れ”を知る稀有な僧。
重然はすぐに寺を訪れた。
「ほう……色絵の磁器とな。
拙僧の趣味ではないが、殿下の御望みならば応えねばなるまい」
和尚は静かに笑った。
そして、帳面を開き、
寺社や豪商の名をいくつか指で叩いた。
「名目は寄進だ。
だが、支払いがいらないわけではない。
殿下は“いくらでも出す”と仰せだろう?」
「はい」
「ならば、話は早い。
古田殿──そなたが行け。
わしの名を出せば、蔵は開く」
その言葉の重さを、重然は理解していた。
名物は金だけでは動かない。
寺社の面子、豪商の信用、
そして“誰に渡すか”という政治が絡む。
その日から、和尚の紹介状を手に、
重然は京の寺社を回り、豪商の蔵を訪ねた。
法外な値をつけ、
殿下の名と和尚の紹介状があれば、
蔵の奥から色絵の鉢、錦手の壺、
金襴手の皿がどこからともなく姿を現した。
「東善寺の和尚の紹介状をもち、目筋も確か。
古田重然様とは、どのようなお方なのか──」
寺社の者たちがそう言い、
「関白様のご用とはいえ、あの値を平気でお支払いになる、
しかし、値は高くもなく低くもない。
古田重然様とは、どのようなお方なのか──」
豪商たちは重然の値付けに舌をまいた。
古田重然の名は京と堺の好き者の間に急激に広まっていった。
その噂は、奉行衆の耳にも届いた。
「古田殿、よくぞこれだけの品を……
関白殿でも動かせぬ品を集められておられる。」
聚楽第の調度の一角に、
豪奢な色絵の磁器が並んだとき、
秀吉は満足げに頷いた。
「よい。
わしの都には、わしの色が要る。
皆の者、よう働いた」
その数日後、
重然は正式に呼び出された。
「古田重然──従五位下・織部助を命ずる」
聚楽第の建設における働きが、
“形”となって現れた瞬間だった。
重然は深く頭を下げた。




