武将 古田織部 第31話 槍の影と馬の匂い
軍勢の列が村の前に入り、
家々の戸が半ば開いている。
信長の軍が美濃を固めるために動き始めた時期で、
この道を通る列は尾張からの主力だった。
重然は家の前に立ち、
列の中心が近づくのを見ている。
槍の穂先が光を拾い、
白い点がゆっくり上下している。
その揺れが地面に落ち、
影が細く伸びていった。
兵の足が土を踏み、
一定の速さで音が続いている。
その音が重然の足元まで届き、
地面がわずかに震えている。
馬が列の中に混じり、
鼻息が白く上がった。
革の匂いと汗の匂いが風に混じり、
家の前まで流れてきた。
重然は息を吸い、
胸の奥にその匂いが静かに入っていくのを感じている。
足の位置を変えず、
列の動きを見ている。
槍の影が地面を滑り、
光がその影を細く切った。
影の形が兵の歩調に合わせて変わり、
道の上をゆっくり進んでいく。
馬の蹄が土を叩き、
小さな土くれが跳ねた。
その土が重然の足元に転がり、
風で少しだけ動いた。
兵の肩の布が揺れ、
刀の金具が短く鳴った。
その音が重然の耳に届き、
すぐに列の後ろへ流れていく。
重然は小さく言った。
「……太い。」
声は短く、
土の上に落ちてすぐに消えた。
列は途切れずに続き、
槍の穂先が次々と光を拾っている。
その白い点が道の奥へ向かって伸び、
村の前を静かに通り過ぎていった。
重然はその線を見たまま、
動けずに立っている。
風が弱く吹き、
草の先がまた揺れた。
軍勢の列は、
重然の身体に“重さ”として入り始めていた。




