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自由の世界で、とある異邦人の夜想曲を  作者: 凪兎
第一章 「Andante」
8/8

8 . 琥珀に映る






彼は片手に杖を持っている。魔術師、なのかな。

冒険者協会で会った人達みたいに、この人もルーキー狩りだろうか。


俺は身構えて、1歩後ずさる。

ぱちりと目が合うと、彼はニッと微笑んでくれた。

緊張が解ける。どうやら、悪い人ではなさそうだ。俺が悩んでいたのに気づいて声をかけてくれたのだろう。


俺はそれに安心して、彼に笑いかけた。


「はい、そうです!」


「そっか。なにか困ってるなら力になるよ」


「僕も冒険者だからさ」と、彼は自分のバッジを見せた。

Bと書いてある。ということは、凄く強い人なのだろう。思わず目を輝かせてしまった。


「うわぁ、Bだ!すごい!」


彼は俺の反応を見て、面白がるように笑った。

笑った口元から八重歯がちらりと見える。


「あははっ、そんな凄いものじゃ無いよ。それで、何に困ってたんだ?値段?」


「あ、値段はまあそうなんですけど...…えっと、この役職にはこれがいい、とか…やっぱりあるんですか?」


俺の質問を聞いた彼は、「そうだなぁ」と呟きながら服に着いているタグを見始める。

そして、ある一着に手を止め、そのタグをこちらに見せてきた。


「例えば、このローブ。エリスシルクという素材が使われていて、魔力の流れを妨げないようになっているんだ」


「魔力の流れを?」


「ああ。僕みたいに魔術を主とする役職は、魔力をいかに早く体に伝えるかが重要になってくる」


彼はそう言いながら、ローブの布地を軽く指でなぞった。


「だから、こういう『通りのいい素材』を使うんだ。詠唱の速度も、威力も、ほんの少しだけど確実に変わる」


「僕のローブにもその性能があるんだ」と笑った。

なるほど、性能か…。俺の場合は、どうなのだろう。

どの役職も、必ずしも魔力が必要…というわけでは無いのかな。

…というか、俺って魔力があるのか?


色々な疑問が浮かんで、頭が痛くなる。思わず頭を押さえて唸ると、彼は心配そうに声をかけてきた。

俺はそれにへらりと笑って、「あの」と話を切り出した


「魔力って、みんな持ってるんですか?」


「ん?いや、魔力を持つ者は多くはない。君も、魔力があるから冒険者になれたんだろう?」


「え、あ、はいっ。多分!」


「…君って、おかしな子だな」


俺の返答に、しばらく沈黙が流れる。

その後、彼は不思議そうに小首を傾げ呟いた。

俺は頬をかいて苦笑する。その様子を見て、彼は目を閉じ、ふっと笑った。


「まあいいや。そういう子、嫌いじゃないよ」


「……ありがとう、ございます…」


彼は俺の言葉に頷いたあと、「そういえば」とローブを元の棚に戻しながら話を切り出した。


「君の役職、聞いてなかったね。僕は『Enchanter』だよ」


「『Enchanter』……?」


「バフやデバフ効果をかけることが得意なんだ。魔術も少しなら使えるよ」


この世界にはそんなものもあるのか。

そういえば、最近はやっていなかったが、中学の時はよく友達に誘われてゲームをしていたな。

敵からデバフをかけられて、その度にムカついてた事もあったっけ。


そんなことを考えながら、まずは名乗らなきゃ。と思い、彼へ手を差し出した。

コハクはその手をじっと見つめてから握り、優しく笑いかけてくれた。


「俺は恋!よろしくなっ!役職は――」


「―――コハク!」


遠くから名前を呼ぶ声が聞こえて、言葉を止める。

声の方向をみると、そこには3人の男女が服屋の外に立っていた。彼へ向かって手を振っている。

ギルドメンバーだろうか。


「おーい!早く来いよー!」


「置いてくよー」


「ああ、今行く!」


彼の名前は、コハクというらしい。その瞳と同じ、綺麗な色の名前だった。


彼は俺の手を離し、彼らへ向かってそう声をかける。

その後、コハクさんは俺に向かって「ごめんね」と苦笑する。


「呼ばれちゃったから、とりあえず名前だけ。僕はコハク=ソレイユ。コハクって呼んで」


「あ、はい!えっと、あの人たちは……」


「僕のギルドメンバー。まあ、僕は下っ端みたいなもんだけど」


彼はそう呟く。細められた目には、どこか奇妙なものを感じた。

影が差しているような、そんな表情。

俺が聞き返すと、彼は少しだけ困ったように笑って話を切り替える。

聞かれたくなかったのかもしれない。深く踏み込みすぎた。


「レンもギルドに入っているの?」


「はい!俺のために、友達になってくれた良い人なんです!」


「……そっか、友達か」


そう呟いた彼の瞳が、微かに揺れた気がした。

どうしてそんな顔をするんだろう。コハクさんも、フィユと同じでずっと独りだったのかな。


―――すごく寂しかったんだろうな。


無意識に顔に出ていたのだろう。 コハクさんはこちらを見ると、少し慌てたように言った。


「そんな落ち込んだ顔しないで! ただ、久しぶりに会いたいなって思っただけだからさ」


「…そう、ですか……色々教えてくれて、本当にありがとうございましたっ!すごく助かりました!」


「力になれたのなら良かったよ。それじゃあ、また」


コハクさんはひらりと手を振って、俺に背を向け歩き出す。

俺はしばらくその背中を眺めていた。

優しい人だったな。お兄さんみたいだ。なんて、先ほど彼と話していたことを思い出しながら。


「……でも、下っ端ってどういう事だろう」


彼は確かにそう言っていた。

ギルド内で、順列が付けられているのだろう。

それに、あの時の寂しそうな顔……


詳しく話さずに、「いる」とだけ言っていれば、コハクさんはあんな顔をしなかっただろうか。

胸の奥が、ちくりと痛んだ。


「れんれん」


そう声が聞こえて、ハッとする。振り返ると、そこにはコハクさんと入れ違いになったフィユが立っていた。

俺を見て、ふわりと微笑む。右腕には数着の服がかけられていた。


「フィユ!」


「お待たせ。なにか着てみたい服は見つかった?」


フィユは並んだ服を見て、そう尋ねてくる。

そういえば、なにも決めていなかった。俺の馬鹿。

手を合わせて謝ると、彼はくすりと笑った。


「謝らないでよ、何も悪いことはしてないんだからさ。…あのね、俺の方でも少し選んでみたんだ」


腕にかけている服に視線を落として、彼はおずおずとした表情で告げる。

俺のために服を選んでてくれたのか。すごくありがたいし、助かる。


「ほんと!?うれしいよ。ありがとう、フィユ!」


「!…それなら、良かった」


俺がフィユに笑いかけると、彼はホッとしたように、肩の力を抜いて微笑んだ。



―――



衣装室にて。

俺はフィユが選んでくれた服を試着していた。

くるくると回って隅々まで確認したあと、鏡と向き合う。

鏡に映る普段着慣れない服を着ている自分を見て、どこか小っ恥ずかしくなっていた。


「やっぱ異世界の服って慣れないなぁ……自分からじゃ、ちゃんと似合ってるかも分からないや」


首元のリボンがひらりと揺れる。

それが肌に当たって、少しだけ擽ったい。


俺はリボンを弄りながら、衣装室のカーテンを開ける。

近くの棚の服を見ていたらしいフィユは、こちらに気づくと駆け足で近寄ってきた。

こちらをじっと見たあと、彼は柔らかく微笑む。


「うん、やっぱりれんれんに似合ってるよ」


「ほんと?それならよかった!あんまり着慣れないから、似合ってるか不安だったんだ」


フィユの笑顔に安心して、つられて笑う。

彼はそのまま会計を済ませてくれた。何ともないような顔をしていたが、資金の一部を借りてしまったのだ。

いつか自分でお金を貯めれるようになったら、必ず返そう。


そう心に決めたところで、彼から服の性能について説明をしてくれた。


「その服は軽さを重視してるんだ。れんれんの世界と、この世界では、きっと身体能力の差があると思うから。跳躍力や速さをカバーできるように」


「そういえば……フィユが俺を助けてくれた時も、一瞬すぎて何が起きたかわかんなかったな」


「そのうち目が慣れるよ、大丈夫。ダメージ軽減の性能もあるから、攻撃を受けても少しは大丈夫かな」


「へぇ、そんな性能まであるんだ……色々考えてくれてありがと、フィユ!ほんと助かるよっ!」


フィユは目を瞬かせたあと、すぐに「どういたしまして」と微笑んだ。


「そうだ。れんれん、ヘルメスを出して」


「?わかった」


フィユが思い出したようにそう促す。俺はポケットからヘルメスを出して、彼へ画面を見せた。

慣れた手つきでヘルメスを操作し、カバンのマークがついたアイコンをタップした。


ピロン。と軽快な電子音がなる。

すると、画面はカメラの先の景色を映し出した。


「うわ、なにこれ!」


「この枠内に、れんれんの着てた服を写して、タップしてみて」


言われるがまま、俺は制服をカメラに収める。

親指でタップをすると、俺が手に持っていた制服はパラパラと砂のように消えていった。

画面は変わり、ストレージを写し出す。先程の制服は、ストレージの左上にしまわれていた。


「す、すっっご……!!」


「これで荷物は収納出来るよ。ただ、取り出すのに手間がかかるから、日常使いするものは入れない方がいいかな」


「へー、なるほど…!」


俺は目を輝かせる。

本当にすごいな、異世界って。便利なものも、珍しいものも、たくさんある。

俺が興奮しているのを見て、フィユは楽しそうに肩を揺らした。


「あははっ。れんれんは感情表現が豊かだね」


「え、そうかな?」


「うん。教えがいがある」


そんなに顔に出てたかな…。

俺は顔をペタペタと手で触る。すると、彼が「そういうとこ」とまた楽しそうに笑った。

まあ、フィユが喜んでくれるならいっか。なんだか俺も笑顔になれた。



その後、しばらく街を歩いたところで、フィユが1つの店を指差した。


「じゃあ、次は武器だね」


「武器かぁ…フィユは俺に似合う武器なんだと思う?」


「うーん、俺もまだ『Breaker』についてはわからないけど…何となく、剣だと思う」


彼は自分の剣を人差し指でするりと撫でた後、こちらを見て微笑んだ。

剣。剣か……。

俺も、フィユみたいに強くなれるだろうか。強くなって、元の世界に帰る方法を見つけられるだろうか。


「とりあえず、あの店の店主にも色々聞いてみよう。この街に来てからの顔馴染みなんだ」


「きっと良いアドバイスをしてくれるよ」とフィユは俺の背中を押してくれた。


ふと、先程のコハクさんの寂しそうな顔が頭をよぎる。


フィユには全部見透かされてるみたいだ。でも、不思議と嫌じゃない。むしろ、安心する。

へへ、と笑ってその言葉に頷いた。









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