表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一章   作者: 凪兎
2/3

2. 異邦人冒険者





少しくせっ毛な水銀の髪が、ふわりと風に靡いた。

彼の服は白が基調とされていて、耳には雪結晶のピアスが付いている。

さも異世界の住民だと言わんばかりの、特徴的な服だ。


もちろん、あの生き物を見た今、異世界であること自体は疑いようがない。

ただ、あまりにも突然で、現実感だけが置き去りになっていた。


「危ないところだったね。ケガはない?」


彼は優しい口調で尋ねてくる。


…この子が、あの生き物を?


理解ができない。

彼は小柄で、どう見てもあれを倒せるはずがない。一体どうやって。


「ちょ、ちょっと失礼!」


「うわっ!?え、えっと…?」


彼は驚いたように目を瞬かせる。

頭でぐるぐると考えるうちに、俺は言葉よりも先に行動が出てしまっていた。

彼の腕を握る。白くて細い腕だ。


冷静になって思い返すと――あの生き物が倒された瞬間、彼が何をしたのかが見えた。


一瞬で距離を詰め、

まるで風が通り抜けたみたいに、生き物の首元を横一文字に薙いでいた。

あの大きくて2つもある頭を、だ。


ダメだ、ますます混乱してきた。

やはりこの腕からは、そんな力があるとは思えない。

俺は手を離し、思いつくあたりの質問を彼に投げかけた。


「ここはどこ!?俺、どうやったら帰れるの?というかさっきのどうやって倒したの!?」


「あ、えっと、落ち着いて!1回深呼吸しよう、ね?」


彼は俺の質問の量に対し、焦るようにたじろぐ。

その後、俺の肩に手をおき、そう声をかけてくれた。

ハッと正気に戻って、俺は彼の言うとおり1度深呼吸をすることにした。

森の空気をいっぱい吸って、ゆっくりと吐く。そうすれば、混乱していた頭も少しだけ落ち着いてきた。


彼はそんな俺の様子を見て安心したのか、また優しく微笑む。

優しい人だな…。なんて思いながら見つめていると、彼は自分の胸に手を当て、口を開いた。


「まずは自己紹介から。俺はフィユキー。冒険者をしているんだ」


「冒険者?」


「あれ、冒険者を知らないの?」


彼は『フィユキー』と名乗った。

異世界って感じの名前だ、あまり馴染みがない。


そして、冒険者。その言葉に俺が首を傾げると、彼は知らないことが珍しいとでも言うように、驚いた顔をした。

その後、ポケットから小さなバッジを取りだし、俺へ見せてくれた。『E』とかかれている。


ランク、だろうか?

俺の知る限りでは、F〜Sとどんどん上がっていくはずだ。

Eということは――Fの次、下から二番目。

あの強さでEなんだ。どうなってるんだろう、この世界の基準。

俺がそう悶々としていると、フィユキーはクスリと笑った。


「ほんとに知らないんだね。君みたいな子初めて見たよ」


「そーなの?…あ、俺は春日憐!気軽に呼んでよ」


「?カスガ、レン…?えっと…じゃあ、れんれん!よろしくね」


彼はカタコトで俺の名前を呼び、にこりと笑って手を差し伸べてくれた。

呼び慣れていないのだろうか?

俺と同じように、異国…というより、異世界の名前だからかも。

でも、彼からのあだ名はどこか嬉しく感じた。

俺もつられて笑い、よろしく!と握手を交わした。


「とりあえず、さっきの質問に答えるね。ここはメルカトルシティの外れにあるダンジョン。れんれんはきっと迷い込んでしまったんだろうね」


「めるかとるしてぃ?…え、ダンジョン!?」


だからさっき変な生き物がいたのか!

俺が驚いていると、彼はまた可笑しそうに笑った。


「さっきの生き物は魔獣っていって、ダンジョンに生息する生き物だよ。一定数いて、それらを倒したあとボスを倒せればダンジョン攻略になるんだ」


「へ、へー…すごい…」


「れんれんはどこから来たの?近くなら送って行けると思うけれど」


「えっと、日本から来たんだ」


「ニホン?」


彼は首を傾げ、そのまま言葉を探すように黙りこむ。

その後、彼はゆっくりと顔を上げた。

けれど、顔はこちらを向いているのに、目が合わない。

俺に言ってもいいのか。と迷っている様子がうかがえた。

そして先程よりトーンが下がった声で答える。


「ごめん、初めて聞く名前だ。俺じゃ送り届けることが出来ないかも…」


フィユキーがあまりにも悲しそうに言うものだから、なんだか悪いことを言ってしまった気分になる。

俺は慌てて言葉を掛けた。


「え、えっと、多分俺の住んでたとここの世界になくて!というか、目が覚めたらこの世界に…みたいな?だからえっと、大丈夫!」


「!……異邦人か…」


その言葉を口にした瞬間、彼の空気が変わった。


異邦人?なんだろう、それ。

彼はどこか思い詰めるような表情をしている。もしかして、言ってはいけない事だったのだろうか。

しかし、彼の口ぶりをみるに、俺みたいにこの世界へ迷い込んでしまった人が少なからずいるということ。

それが分かっただけで安心だ。


そう安心しているのも束の間、フィユキーは先程の笑顔とは違う真剣な顔を浮かべて、俺に声をかけた。


「その話、他の人にはしない方がいい。きっと狙われるから」


「狙われる?」


どうして狙われるんだろう。別に悪いことはしてないのに。

俺が不審に思っていると、彼は頬をかき苦笑して、たどたどしく説明をしてくれた。


「なにから話せばいいんだろう…えーっと…。君みたいに、外の世界から来た人間のことを、この世界では『異邦人』と呼ぶんだ。そして、その異邦人はこの世界では嫌われているから、狙われる」


「…どうして嫌われてるの?」


「…俺にも詳しい理由は分からない。けれど、この世界で異邦人は存在しちゃいけないらしいんだ」


嘘の匂いがした。きっと、分からないというのは嘘だろう。

そう思えた理由は、表情が強ばり目を逸らしたからだ。

人は嘘をつく時癖がある。少なくとも俺はそう思っている。

彼はその癖が分かりやすかった。


フィユキーが隠したがるのは俺のためなのか、はたまた自分に不利益が発するからなのか。


――多分、前者だろう。


「…そっか。その異邦人ってのは元の世界に戻れるの?」


「うーん、俺もそこまでは…確かハエレシスタウンの長老が異邦人に詳しいって話を聞いたけど…」


「そこって、ここからどっち方向?」


「ここから南東にまっすぐ行ったところだよ」


「なるほど…じゃあそこに行けば…ありがと!行ってみる!」


とりあえず、行動しなければ何も始まらない。

俺はフィユキーにそう笑いかけて、お礼を言った。

彼は目を瞬かせたあと、形相を変え、慌てるように声を上げた。


「ま、待って!」


フィユキーは俺の腕を掴み、俺が行くのを止めてくる。

どうしたんだろう。と首を傾げれば、彼は真剣な目つきで、けれとどこか俺を心配しているかのような表情で告げた。


「ハエレシスタウンには行かない方がいい。あそこへ行くには、ここよりも高い難易度のダンジョンを攻略しなきゃいけないんだ。ひとりじゃ危険だよ」


「あ、そっか。ここもまだダンジョンの中なんだもんね…」


肝心なことを忘れていた。

まず、俺はここから抜けられるかということ。さっきみたいにまた魔獣に襲われたら、次こそ死んでしまう。


そして、この世界について何も知らないということ。彼は異邦人は嫌われていると言っていた。それなら、俺が街へ行ったり聞き込みをしたりしたら、それこそ殺されてしまうかもしれない。


けれど、どうすればいいのだろうか。

俺は異邦人で、嫌われていて、魔獣を倒せるような力もなくて。

お先真っ暗すぎる、この世界。


俺が溜息を着くと、彼はゆっくりと手を離し、顔色をうかがうようにこちらを見つめてきた。

…そういえば、彼は俺のことを嫌ってないのだろうか。

俺がフィユキーの顔を眺めていると、彼は微笑み俺の横を通り過ぎた。

少し先まで行ったあと、彼は振り返り俺に声をかけてくる。


「ダンジョンの外まで一緒に行こっか。ここにずっと居るのは危険だから、1度街に降りよう」


「あ、うん!ありがと!」


聞くタイミングを逃してしまった。まあいいか、道中また聞いてみればいい。

とにかく、今後についてはここを抜けてから考えよう。

俺は彼に駆け寄り、彼の行く道を歩いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ