りんご
「ありがとうございました〜!!」
最後の客が帰ってお店を閉める。今日はいつにも増して人が多かった。
「見習い〜?今日も練習するのか?明日に響かない程度に頑張れよ〜。」
師匠はそう言って2階に上がって行った。確かに今日は疲れたがそんな事は言ってられないので厨房に向かう。
「さて、やるぞ〜!!」
意気込んでいると、コーコルがいつの間にか後ろにいた。
「ボクは少し用があるからここを離れるよ。出来上がる頃には戻ってくる。」
「料理中に席を外すなんて珍しいね。わかった、行ってらっしゃい。」
コーコルが厨房から出ていった。珍しいこともあったものだ。気合いを取り戻して、秘伝のレシピに目を落とす。
「ガトーショコラの次は何を作ろうか……。あ、今日は確かりんごが残ってる!このアップルパイにしよう!!」
テキパキと準備をして調理に取り掛かる。
(まずは生地作り。パイ生地にはやっぱりバターが欠かせない。たっぷり入れたらムラができないようにしっかり混ぜてまとめていく。)
段々と生地がまとまっていい感じになってきた。バターの香りが厨房中に漂う。次は型に綺麗に生地を広げていく。全体に少し穴を開けたら次はメインのりんごだ。
(このりんご……。すごくいい状態だ!これは成功させるしかない!!!)
りんごの皮と芯をとって薄く切っていく。この時点で蜜が多いのは中々ない。
続いて、フィリングを作っていく。砂糖をフライパンに入れてきつね色になるまで温める。
(焦がさないように注意して……)
そこにさっき切ったりんご、バター、バニラペースト、シナモンを入れて混ぜていく。りんごにきつね色が移って来ると同時に甘い香りが一気に向かってくる。
少し冷ましたら、さっきのパイ生地の上に盛り付けていく。砕いたビスケットを先に入れて、りんごはその上。バターとりんごの合わせ技は悪魔的だ。既にお腹がなってきてしまう。
パイ生地を編んでりんごの上に被せたら溶き卵を塗って、
(オーブン石窯へ行ってらっしゃい!!!)
40分後
(……そろそろかな。)
石窯の戸をあけて見ると、バターとりんごの匂いの先に黄金に輝くパイ。型から外してミントを乗せたら……。
「よしできた!アップルパイ!!」
(りんごを焦がさないようにするのは大変だったがいい出来栄えだ。粗熱が取れたら冷蔵庫に入れないと。)
「わぁ!いい香り……!!」
声の方向を見ると、見たことない子がいた。
「わぁっ!!!」
「そのアップルパイ、お客さんに出すのかしら?」
見習いのケーキはお店に並べることができず、いつも近所の人や材料を買っているお店の人にプレゼントしている。今回のも出来はいいが、師匠には遠く及ばないので出すことは無いだろう。そう考えて首を横に振る。
「これは練習用だからお店には出ないんだ。」
「そうなの?こんなに美味しそうなのに…。」
そういうと、女の子はまじまじとアップルパイを見始めた。
肩まで伸びた赤い髪にセーター、チェックのスカート。頭にりんごのような緑のリボン。とても似たことがつい先週も見た事がある気がするが、一旦置いておき名前を聞く。
「ところで君は?」
声をかけるとクルッとこっちに向き直り、にこにこで話し始める。
「私はブラム!アップルパイの妖精よ!!はじめまして!」
「僕は見習いだよ。よろしくね。」
「ところで、あなたが作ったものはお店に並ぶことはあるの?」
「残念ながら。でも師匠に許可をもらえれば、お客さんにプレゼントできるんだ。」
お金は取らず買った人に配るため、その日はいつもより人が多く来る。食べてもらえるのは嬉しいことだ。
「そうなのね!なら、少しお願いがあるのだけど……。」
「明日、お店が開いている時に見学してもいいかしら?」
「いいけど……。どうして?」
そう問いかけると、ブラムはふふっと笑った。
「私ね、美味しいものを食べて、幸せそうにしている人を見るのが大好きなの!」
「あなたが作ったケーキ、とても素敵だから食べた人が絶対笑顔になると思う!そんなお客さんを近くで見たいの……!!」
妖精にそこまで言ってもらえるなんて、光栄極まりない。作りがいがあるってやつだ。
「そういうことなら、大丈夫だよ!!」
返事をすると、ブラムは眩しいくらいの笑顔になった。
「ほんとう?!ふふっ、やったぁ!!明日が楽しみだわ!!!」
「喜んでくれて、僕も嬉しいよ。明日の10時にお店を開けるからいつでもおいで。」
飛び跳ねまわっているブラムは、お姉さんのようで、どこか子供っぽい。しばらくすると、ブラムはこちらに向いて目を細める。
「ありがとう!!素敵な見習いパティシエさん!!!」




