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冒険者ギルドの掃除人  作者: 沼平 甫
紺青の狼
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3

 終わりというものは、望む望まないに関わらず、突然やってくるものだ。

 “冒険者としての終わり”だって、例外じゃない。

 仲間を庇った末の名誉の負傷。聞こえは良いが、これも、ただの言い訳を裏返しただけでしかない。

 経験から来る油断。魔物の危険性の軽視。

 Aランクだということに、多少の慢心があったのだと思う。

 本当に実力があるのなら、仲間を庇ったところで致命的な負傷などしたりしない。そもそも、仲間を庇わなければならない状況になったりなどしないはずだ。

 左目の失明。重度の熱傷。右腕の腱の断裂。ほぼ全身に包帯を巻かれた満身創痍の状態で寝かされている俺に追い打ちを掛けたのは、“二度と剣は持てないだろう”という、医者の冷たい宣告だった。

 そして──長年パーティを組んでいた仲間達からの、解雇クビ通告。

 頭では理解していた。

 Aランク冒険者である以上、舞い込む依頼は危険性の高いものばかりなのだから。仮に俺が完治して同行したところで、荷物持ちにすらなりやしない。

 分かっては……いたんだ。

 唯一、褒められた点があるとすれば、涙を見せることも、取り乱すようなことも、縋りつくような情けない真似をすることも無かったことくらいか。

 精一杯の強がりで、仲間達の新たな門出に祝福の言葉を添える。でも、心の中ではこう思っていたんだ。

『俺を、置いていかないで欲しい』


 それから一週間くらい、もう何もやる気が起きなかった。完全に気力が削がれてしまっていたんだろうな。

 必要最低限の食事を摂る以外は、寝るか、ひたすら天井を眺めていた。

 俺の人生の中で、一番の最低期だった。

 でも、ある日、とある話が耳に入ってきたんだ。

 元々俺が居たパーティ──“紺青の狼”が、新しい冒険者を迎えて活動を再開した、と。

 悔しくないと言えば嘘になる。当たり前だろう、“そこ”に俺は居ないのに、何事も無かったかのように再び動き始めたのだから。

 元仲間達を見返してやりたい。もう一度、冒険者としてあいつらと同じ場所に立ちたい。そんな思いが生まれたのも、自然なことだろうな。

 それからは寝る間も惜しんで、ひたすら身体機能を回復させるための訓練に費やした。

 熱傷で引きつった体を元通りに動かせるように。

 右腕の腱を少しずつ“再生の奇蹟”で回復させながら、剣を握れるだけの握力を取り戻せるように。

 二年掛かった。

 医者が言うには“奇跡”らしいが、まあ、俺からすれば意地みたいなものだ。

 意地と言えば綺麗だが、単なる嫉妬と羨望と反骨心だ。人間てのは、綺麗なものよりも醜いものの方が燃料になるらしい。

 冒険者として復帰しようとした矢先のことだった。あの報せを聞いたのは。

『Aランクパーティ“紺青の狼”が、行方不明になった』

 まるで糸が切れた凧みたいに、俺の心が何処かに飛んでいってしまったような、そんな感覚だった。

 あの時に、俺は本当に“終わってしまった”んだ。

 俺の、冒険者としての生命が。


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