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冒険者ギルドの掃除人  作者: 沼平 甫
冒険者狩り
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ギルドの日常‐Cランク冒険者・トープ‐

「それでは、Cランク昇格を祝って……」


「乾杯!!!!!」


 五人の声が重なる。


 本日、俺達のパーティ『モグラ団』は、ついにCランクに昇格できた。


「いやー、本当に、ここまで長かったよなあ……」


 口に含んだエールを飲み込み、俺は思わずしみじみと言ってしまう。


 木製のジョッキを持つ右手に輝く、真新しい銅製の指輪。これこそが……俺達が憧れていたCランク冒険者の証だ。


「ちょっとリーダー、まるでオッサンじゃん、その言い方」


 けらけら笑いつつ、僧侶のマリーが俺の肩をバシバシ叩きながら言う。神に仕える身とは思えないような俗っぽい物言いだが、これがこいつの個性なんだから仕方ない。


 つーか、もう酔ってんのかよ。早いな!?


「今回Cに上がるまで、ホント色々あったよね。たまたま他のパーティに助けて貰えたから良かったものの、どっかのバカ男共がサキュバスから誘惑食らったときとか、ヤバい死んだって思ったもん」


 この毒も棘もある言葉は盗賊のメリッサ。痛い痛いマジ痛い。


「は、反省してます……」


 重戦士のギリアムが大きな体を縮こませながら、シュンとした声で言う。声ちっさ。


「と、とにかく。ここまで誰も欠けずにやってこれたんだから、それで良いじゃないか。な?」


 これは魔術師のエリク。露骨に纏めに入りやがったなこいつ。


「だ、だよな。実際、パーティメンバーの入れ替えなんてよくあるらしいし、その、死ぬこととかも……」


 祝いの場に相応しくない発言だったとは思う。だが、言わずにはいられなかった。


 実際、パーティメンバーが死んで新しく加入したりとか、責任の(なす)り付け合いでパーティ瓦解とか、そういう類のものは何度も見てきた。


「だとしたら、私達は相当運が良いのかもね。もしかしたら、悪運かもしれないけど」


 暗くなりかけた場を、メリッサの皮肉が刺す。こいつの空気読まないようで空気読んでる言動に、今まで何回助けられたか。


「おーおー、深刻な話の最中失礼するぞ?」


 言いながら、酒場のマスター……いや料理人か、ジャーロさんが大皿をテーブルにドンと置く。


「コイツはギルドマスターからの差し入れだ。昇格おめでとう、ってな」


 たっぷりと盛られた燻製肉に、たっぷりと盛られた腸詰めに、たっぷりと盛られた塊肉の煮込み。


 断言する。肉が嫌いな冒険者なんていない。いる訳がない。


「あっざーーーす!!!!!」


 また五人の声が重なる。


 早速フォークを突き刺し、口の中一杯に頬張る。


 ああ……肉。肉だ。肉は正義。肉こそ至高。肉は全てを解決する。


「しかしまあ、ゴブリン相手にビビりまくってた連中が、Cランクにまで上がってきたとはなー」


 感慨深そうに、ジャーロさんがうんうんと頷く。


 そう。数年前、俺達がパーティを結成したばかりの頃は、ゴブリンどころかコウモリ相手にビビって大騒ぎしてたもんな。


「だが……気を付けろよー? そこそこ前から、CランクやBランクの連中が行方不明になってるって噂、ちらほら耳にするからな」


「うわ何ですかその噂。俺、その、怖い話とか幽霊とか、そういうの苦手なんですよ……」


 ギリアムが大きな身体を小刻みに震わせる。


 マジでビビりだなこいつ。知ってたけど。


「いや、あくまで噂だからな? そりゃ、気を付けるに越したことはない……」


 そこまで言いかけて、俺は妙な気配を感じた。


 見られているような、観察されているような、注意を向けられているような、そんな気配。


 俺は思わず後ろを振り返るが、妙な気配はもう完全に消えていた。


 エールを片手に盛り上がる一団。


 腸詰めの最後の一個を奪い合ってる連中。


 酒を飲みながらカードに興じてるパーティ。


 酒瓶を抱えながらテーブルに突っ伏して寝ている、酔っ払いのおっさん。


 いつもの、普段通りの、ギルドの酒場だ。


「ねえねえトープぅ、燻製肉の最後の一個、貰っちゃうわよぉー?」


 やけに色っぽい声で、俺の名前を呼ぶマリー。


 完全に酔っ払ってるマリーは、モズのはやにえみたいに、燻製肉をフォークに突き刺している。


「あっ、お前! まだ俺それ一個も食ってねぇんだよ!」


 塊肉の煮込みは六個ほど食ったけどな。


「酒も、食うのも、程々にしとけよ? じゃねーと、いざって時に動けなくなるぞ?」


 笑いながら、ジャーロさんは厨房に戻っていく。


 いつもの、普段通りのギルドの酒場。


 ……だよな? 多分。

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