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お試し版 幼馴染みがサキュバスになった男の話

作者: 冬空

「なぁ、ひろむ。俺……」


そこから先の言葉は途切れ、無言の時間が流れる。

微かに聞こえる吐息の音に、何度も「俺……」と言いかけては途切れる言葉。

言うか言わないかと、迷っている様子が伝わってくる。

それに対して俺は何も言わない。言う余裕がなかった。

頭を埋め尽くす幾つもの疑問。聞きたいことがありすぎて逆に言葉にならない。

それでも、これだけは聞かないといけない。今もっとも気になる疑問にして、混乱の原因を。

そう思って口を開きかけた時、電話口から声がした。


「ーーー俺、サキュバスになったかも知れない」


あらゆる思考が吹き飛び、口から漏れでたのはこの言葉だけだった。


「ーーーーは?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「俺、気づいたらこんな姿になってたんだ」


電話の後、急ぎで来た俺を部屋に招き入れた少女ーー俺の幼馴染みのハヤトは羽織っていた雨合羽を脱ぎ捨てて姿を露にした。

最初に思ったのは、エロいな。次に思ったのが、これが本当にハヤトなのか、という疑問だった。

固まる俺の様子を見て、ハヤトは苦笑する。


「エロいだろ?」

「それは……」

「俺も最初見た時はそう思ったし。ひろむの思考なんてお見通しだから、誤魔化さなくて良いよ」

「…………」


これは駄目だと思った。

なんでもお見通しな幼馴染みが女体化するとこんな破壊力があるのかと、このとき初めて知った。

それも、この分かっているよ感。慈愛にも似た表情で見られるのが、こう、グッとくる。

これで唆られない男とかいるのかよ。

いたとしても、俺とは分かり合えないだろう。

思わず天を仰ぐ俺に、今さらになって気がついたハヤトが気まずげに声を上げる。


「ごめん。迂闊だった。そのつもりはなかったんだけど、つい、いつもの癖で」


両手を合わせて謝罪するハヤト。その時に歪み、揺れる、たわわなお胸。

自然と吸い込まれそうになる視線をグッと堪えて、顔を見ることで落ち着かせようとするけど。

あっ、これどっちも駄目だ。

どっちにしろ、理性が持たないと察して、仕方なしに、部屋のすみを見ることで理性を保つ。


「謝罪は良いからさ。とにかく雨合羽着てくれないか? さすがに理性が保ちそうにない」

「そ、そうだよな!! 今すぐ着るから待っててくれ!」


俺の一言に、いま自分がどんな状態になってるのか察したハヤトは恥ずかしげに声を上げながら慌てて雨合羽を着る。

その時に聞こえる衣擦れの音のヤバさ。意識していないというのに、本能が勝手に耳を敏感にさせる。

これは不味いと、早く終わってほしいと願いながらも、とある事実を思い出して俺は気が遠くなる。


ーーーそういえば、今日この家に居るのって。俺とハヤトを除けば誰も居ないんだよな。


危機的状況は続く。

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