最終話:親友
バン!!
事務所の扉を開けると、そこにはボスと道也が既にいた。
「よう哲、何かいい案でも?」
「道也君、その…」
「いい案だったら許してやるよ」
「なんだ?喧嘩したのか!?」
「僕が余計なことを言ったもので」
「ハッハッハ!」
「それで哲、聞かせてくれよ」
「はい」
僕は一呼吸ついて、話始めた。
「まず道也君に確認したいことがあります」
「なんだ?」
「ベネットさんですがオーラを纏っていませんでした?」
「そうだな。いかにも金持ちって感じの」
「そうです。僕もそう感じていたんです。でもよく思い出してください。ぼんやりとですが実際に『見えて』いませんでしたか?」
「え?」
道也は顎に手を当て目を閉じ、当時の状況を振り返った。
「まさか、いや、確かにオーラが見えていたかもしれない」
「そうです。あの時僕たちは眼鏡を掛けてもいないのに見えていたんです」
「なに!?お前たち!心が見えたのか!?」
「はい」
普段から人の心が視界に写ると邪魔くさいのもあって
日常生活に支障をきたす。
だから僕たちは眼鏡を仕事の時にしか掛けない。
だが、あの時、あの男からはなぜか肉眼でオーラを捉えることが出来た。
「ん?でも哲、確かに見えたけどあれは心じゃない。 文字通りのオーラを体に纏った雰囲気だった」
「そうです。だから気づかなかったんです。見えていることに」
「心じゃなくてオーラ…。初めての経験だ」
「僕はそこで一つの仮説を思いつきました。『もしもあの男が天使側の人間だったら?』と」
「どういうことだ?」
「認知療法って知ってますか?」
「ああ~なんか聞いたことある様な無い様な」
「ボスはどうですか?」
「実際に起こっている出来事や過去の思い出に対して 見方を変える事で新しい視点に気づくってやつだろ!?」
「へえ~、そう言う意味ですか」
「そうです。ここで少し興味深い話をしますが、 アメリカ人は肩こりを感じないそうです」
「え?そうなの?」
「はい、でも彼らに肩こりとはどういうものか?というのを説明して
認知させてあげると、次から肩こりを感じる様になるそうです」
「それ本当か?」
「はい、つまり知らないことは存在しない事と一緒ですが、 知っていれば確かに存在するという事です」
「随分と哲学的だな。それがどう天使と関係してくるんだ?」
「ボス、僕たちに出会う前、天使の事は何と呼んでいたんですか?」
「ああ~、いや特に決まった呼び方はしていなかったな!」
「では天使と呼ぶようになったのは、僕と出会ったあの冬の日からですか?」
「そうだな!」
「それが布石だったんです。僕たちは今まで得体の知れない何かに脅えていました。ですが、ボスがそれに名前を付けたことで僕たち 心配屋の三人の中で『天使』という共通認識が生まれた訳です」
「ほう?」
「結果、僕たちは20年の時を掛けて『天使』という認識を 強めていくことになった。すると僕たちの中で、『天使』は確かに存在するものとして認知できるようになっていった訳です」
「はあ~なるほど、面白い仮説だ」
「そしてベネットはカラビニエリに入った理由を
『なんとなく興味を持ったから』とも言ってました。この状況、僕がボスに出会ったときと似ていませんか?」
「お前とか?」
「はい、ベネットは何の計画も由来も無いのに突如として思考を操られたように行動を起こしたんです。
僕もあの日同じように何故かあの公園に行ってボスに出会いました」
「!!」
「哲、それはありえるかもしれないな」
「そしてベネットは僕たちとホテルであった日、『欲しい』と
言っておきながらそれが無理であることを察していた様でした」
「まさか!?じゃあ天使は端から俺達を取り立てることが目的だったとでも言うつもりか!?」
「その可能性が高いでしょうね」
「だったら、俺達に逃げ道は無いんじゃないか?」
「はい、なので反撃に出ましょう。天使を切り取ることによって」
「天使を!?そりゃ不可能だろ…」
「哲、お前の仮説ではベネットはあくまで操られてるだけで天使の正体って訳じゃないんだろ?」
「恐らくはそうでしょう」
「じゃあどうすんだよ」
「その為の作戦はちゃんと考えてきました」
「聞かせてくれ」
「まず、僕たち以外の資質持ちを集められるだけ集めます。次にベネットに『心の用意が出来た』と告げておびき出します。天使が最初から僕たちを取り立てる気なら、僕たちが認知できるかどうかは別として必ずベネットの側に居るか憑りついた状態でいるはずです。そして、集めた資質持ちにベネットの姿を見せ『天使の正体です』と教えることで『天使』の共通認識がベネットに集めます。そうすれば朧気ながら見えていたオーラが今度はハッキリと認知できるようになる可能性が高い。その後、具現化した天使切り取って瓶に封印する」
「希望的観測だな」
「そうかもしれません。ですが、オーラとして僕らが天使を認知できたなら、
天使の存在をよりハッキリと確立させることもできるはずです」
「ん~。どう思います?ボス」
「…俺は長年、この仕事を続けて来た。そろそろ引退したいところだったんだ」
「んじゃ、やってみるってことですかね?」
「哲郎、道也、最後の仕事に取り掛かるぞ!」
「「はい」」
「哲、心配かけて悪かった」
「え?いえ、こちらこそ、何も出来ず…。すみませんでした」
「なんだ?急に仲直りか!?」
「茶化さないでくださいよボス」
「ハハハ!!よし!じゃあやったろうか!」
それから僕たちは残りの一週間を費やして、食事もロクにとらず必死に
心配屋の資質持ちを探し始めた。だが、場当たり的に探しても
失敗するのは前回の殺人犯探しで分かったことだ。
そこで今回はSNSを使った募集と捜索をすることにした。
前回童心を売り払ったときに稼いだ40億、
その内10億は投資や娯楽で使っていたが、まだ30億は残っていた。
それを餌に、資質持ちを日本に招待する広告を打った。
すると世界中から反応を得ることができたのだが、
誰が本物の資質持ちかを見分けることは至難の業になってしまった。
「ああ~どうだ?哲、この人は?」
「え~っと?『相手の本音を見抜きます。恋と愛の診療所』まあ胡散臭いですね」
「ん~だよな~。ボスの方はどうです?」
「日本にはいないが何人かはそれっぽい人を見つけたぞ」
「流石ですね。伊達に俺達をリクルートしてない」
「そりゃそうだ!資質持ちを見抜く才能はお前たちには負けんぞ!」
「因みに何人くらいですか?」
「まあ2人だな!」
「・・・・・」
「おい!2人って結構凄い数字なんだぞ!!」
「道也君、僕たちも頑張りましょう」
「だな」
「おい!!!!」
悪戦苦闘。
ただの人探しがこんなにも大変だとは思っても見なかった。
正直これだけの予算をもってすれば、もっと簡単に集まると思っていた。
しかし、頻繁にやってくるDMやコメントから
プロフィールを覗いても判断がつかないとわかったため、
三人で協力して応募フォームを作った。
その中には簡易アンケートを設けている。
こちらが指定した日に事務所に来られることや
日本語が使えることを前提条件にした上で、
「人の心を視覚で認識できたことがある」
「突然、知らない場所に強く行きたくなったことがある」
「誰かに操られたように思考を自分で制御できなかったことがある」
といったおおよそ健常者とは思えないようなアンケートに答えた後、
資質持ちかどうか怪しい人は弾かれるようにした。
すると、アンケートの内容と30億という馬鹿すぎる好条件のせいで
怪しい詐欺だと思われたのか、反対に応募件数はグッと下がってしまった。
しかしその分応募してくる人は
確かに資質持ちと思える人が多くなっていた。
「『人の感情が高ぶった時に胸が光って見えるときがありました』なるほど、これは本物かもしれませんね」
「ああ、俺達と同じ見え方をしてるな」
「応募フォーム結構良い感じじゃないか!!」
そうして、外国から日本に来る日程も考えて、
ベネットが示した期日の3日前を応募を締め切りとし、
それまで永遠に選別を続けた。
~残り3日~
「どうですかボス?何人くらい集まりました?」
「あ~っと?500人だな!」
「結構集まったんじゃない?」
「そうなんですかね?」
「まあ判断が難しいな!なんせ天使の具現化に何人必要かなんてわからんからな!」
「そこなんですよね。この作戦の不安要素は」
「まあ哲、そこはやってみるしかないだろう」
「そうですね」
「じゃあ俺はお客さん…、もといベネットに連絡しておくぞ!」
「お願いします」
「呼ぶのは皆が集まる最終日で良いな?」
「はい」
「さあて、やれることはやった」
「いえ、まだ国内に集まれる人が居るかもしれません」
「そうだな、でもよ、俺達この4日間ずっとPCの前に張り付いてたんだぞ?
ちょっとは休まないとダメじゃない?」
「道也の言うとおりだ!!そうだ!お前らラーメンでも食うか!?」
「お!?良いんですかボス!?」
「おう!!これが最後かもしれんしな!!」
「・・・・・・・」
ボスの一言で、ふとこの先の不安を思い出してしまう。
「ああ、すまん。そんなつもりじゃなかったんだ」
「・・・そうですね。道也君、食べに行きましょう」
「ああ、思いっきり美味いとこ食べに行こうぜ」
「お、おう!!もう食いまくれ!!ぜ~んぶ奢りよ!!」
そして、僕たちはボスの奢りでラーメンをいただいた。
いつもと違い三人で。
この日食べたラーメンの味を、僕は最後まで忘れることはないだろう。
~最終日~
12月25日、夜22時、心配屋事務所。
「よしお前ら!そろそろベネットの野郎が来る頃だぞ!」
「彼が来て一時間後には資質持ちの集団が事務所前に来る」
「そうだ。そしてベネットを外に出して集団の注目を集める」
「天使が具現化したら心具で切り取って瓶に封印!!」
「上手くいきますかね?」
「さ~て、どうでしょう」
「ハハハ!上手くいくさ!そう認知しよう!!」
「『認知』ってそう都合の良い言葉じゃありませんよ?」
「なんでも良いんだよ!上手くいくと思うことが大事なんだ!!」
コンコン。
事務所入り口の扉が鳴る。
「来たな」
「僕が迎え入れます」
「頼んだ」
扉を開けると、ベネットが立っていた。
「おや、君はあの時の。普段は眼鏡を掛けているんだね」
「ええそうです。立ち話も何ですからどうぞこちらへ」
「それはどうも」
事務所に応接室なんてものはない。
元々来客を考えていないからだ。
ただの四角い、六畳一間の狭いプレハブ。
「どうもどうも!私がここでボスをやっているものです!」
「ああ、あなたがいつものメール相手ですか」
「そうですそうです!」
「しかし、とても稼いでいる事務所とは思えませんね」
「やってる仕事内容だけに、あまり目立つわけにもいきませんから!」
「なるほど」
「どうぞ掛けてください。上着は預かります」
「ありがとう」
ボスと道也が横並び、デスクを挟んで対面にベネットが座る。
「道也君、あとは頼んでも良いですか?お茶を淹れてきます」
「おう、よろしく」
「ほう、道也。それが君の名前か」
「はい、西島は偽名です」
「ハッハッハ。そんなことだろうと思っていたよ。因みに彼の名前は?」
「哲郎です」
「へえ、哲郎。いかにも日本人らしくて私は好きだよ」
「それは良かった」
「ベネットさん、お茶をお持ちしました。どうぞ」
「ありがとう。いただくよ」
ベネットのオーラがこの前よりはハッキリと見える。
三人で見えることを共有したお陰か。
眼鏡の効果も相まっている様だ。
すると彼はゆっくりとお茶を飲んだ後、一言発した。
「君たち、見えているね」
「!?」
「驚いたよ。この世に知覚できる人間が他にもいるなんてね」
「あなたは何者なんですか?」
「私はローワン・F・ベネットだよ」
「なるほど」
「フフフ、すまない。私の正体を知りたいんだね?」
「そうですね」
「だがその前に私も知りたいことがる。なぜ見える様になった?」
「それはただの偶然です。知らないものは見えませんが、知っている物なら見えるはず。そのことに気づけたからです」
「ほう!そのことに気づいたのか!」
「それで、次は貴方が答える番ですよ」
「ハッハッハ!客人に随分と失礼な物言いをするじゃないか」
「・・・」
「わかったよ。私はね、錬金術師なんだ」
「はい?」
「古代の錬金術師たちが何を研究していたか知っているかな?」
「いえ」
「不老不死だよ」
「古代人らしい発想ですね」
「確かにその通りだ。しかし現代の様に科学技術が
発達していないからこそ、彼らは不老不死の存在を信じ求めたんだよ」
「夢物語ですね」
「まあそう言うな。君たちが使っている心具だって、その錬金術の賜物なんだぞ?」
「え?」
「紀元前、錬金術はメソポタミア文明と共に生まれた。そしてバビロニア人が不老不死を求めた結果、魂を実体として捉え、若い肉体に入れ替えることで、不老不死を可能にする方法を思いついた。その為の道具こそ、まさに君たちが使っている心具さ」
「しかし、見えているのは心ですよ」
「そうだな。だが本来の用途は魂を取り扱う為のものだ」
「そんなバカな」
「そうして魂の知覚に成功したバビロニア人たちはある時から謎の干渉を受けるようになった。見えてはいけないものが見えるようになった」
「見えてはいけないもの?まさかそれが!?」
「そう。今君たちにも見えているものだよ」
「非科学的だ」
「しかし、心を取り扱うのだって十分非科学的だろう」
「・・・」
「フリーメイソンは知っているかな?」
「ええ、TVでも良くやっていましたから」
「あれってね、元は錬金術師たちの集まりだったんだよ。それを表向きは石工たちの秘密結社として隠し通した」
「オカルトですか?」
「いやあ違う。本当さ、そして現代にいたるまで不老不死の研究をし続けた。結果私にも認知できるようになったんだ」
「あなたも資質持ち…」
「そうだ。しかし認知できるようになってしまったせいで今度は私が干渉を受ける様になってしまってね」
「つまり今のあなたはベネットであってベネットではないと?」
「ん~、そうかもしれないね。なんせ気分がコロコロ変わるからね」
「手に入るはずのない殺人犯の心を欲したのもそのせいですか?」
「わかってるじゃないか」
「天使の望みか」
「天使?ハハハハハ!!天使と呼んでいるのか!?これはそんな優しいものじゃないぞ!!」
「でしょうね」
「さて、もう気付いていると思うが私はね。君たちの事を取り立てたいんだよ」
「残念、そうはいきません」
「なに?」
「哲、もう時間稼ぎは十分か?」
「はい、ボスが外で待ってます」
「ベネットさん、残念ながら用意できてしまったんです」
「!?馬鹿な!」
「どうぞ外へ」
道也がベネットを外へ案内する。
ガチャリと扉を開けると視界に写ったのは
100人程度の老若男女たち。
「流石に500人は無理ってわけね」
「どういうつもりだ!?」
「ボス!今です!!」
僕がボスに合図を送る。
するとボスはメガホンを取り出し、
100人の軍勢に向けて大声で叫んだ。
「みなさ~ん!お待たせしました!ここに居る外国人!この男こそ!皆さんの頭に勝手に侵入し!そして見えないはずのものを見える様にしてしまった張本人!!天使でえぇぇぇーーす!!!!」
「なに?あいつが?」
「私がおかしくなった原因!!」
「天使?天使だっていうのか!?」
ボスの紹介を皮切りに人々の視線が、意識がベネット一点に集まる。
「天使」という存在として理解され、認知が集まる。
「貴様!!謀ったな!!」
「もう遅いですよ。ベネット様」
人々の意識が集中しきった時、突如ベネットの体から。
海の様な青いオーラが広がっていった。
それは瞬く間に空間中を包み込み、世界を青く染め上げた。
「哲郎!道也!どういことだ!?」
「こ、これは…」
「これが天使の正体?」
この場にいる人たちも突然の光景に戸惑っている。
「え?なにこれ?」
「WTF!?」
どういうことだ?天使はベネットか、
或いは憑りついていたんじゃ無かったのか!?
僕が困惑していると道也が叫ぶ。
「ボス!!何やってるんですか!?」
「え?」
道也の声で振り返ると、ボスが拳銃を手にしていた。
「ボス!?何を…。!?」
ボスの体に青いオーラが宿っていた。
「哲郎!逃げ…!」
「え?」
閃光。
「哲!!!!」
突如、胸に痛み。
視界が黒く。
意識が…。遠のいていく。
~???~
ふと気づくと、あたりは真っ暗だった。
「ん?ここはどこだ?」
自分が何をしていたのか、思い出してみる。
そうだ、僕は歩いていたんだ。
僕はもう、以前の僕じゃない。
夜、大会が終わった学校の帰り、
暗い夜道を抜け、電灯がポツンと一灯光る場所に出た。
心細かった。あまりにも静かだった。もう八月だというのに
蝉の声一つ聞こえない。風の音すら立っていない。
その内恐ろしくなって自分の足音すらも消して歩いていた。
全くの無音。今日も…。
「哲!!まだ仕事は終わってねえぞ!!」
一仕事終えたところだった。
・・・仕事?
「てぇええええつ!!!」
道也・・・?
!!
そうだ。
僕にはまだ、やらなければならないことがある!
直後、視界が開ける。意識が戻り始める。
すると、同時に残酷な現実を理解してしまう。
「え?哲!?お前!?」
「道也君、すみません意識が飛んでいました」
「飛んでいたっていうか…、飛んでるじゃねえか!?」
「はい、そうなっちゃいましたね」
僕は下を見た。
そこには、僕の死体があった。
「哲…」
「僕がどのくらい存在を維持できるかわかりません」
「哲郎、道也!逃げるんだ!!」
「ボス!乗っ取られてはダメです!」
僕の制止も虚しく、ボスは僕に発砲を続ける。
しかし弾丸は僕の体をすり抜ける。
その光景を見て、ベネットが驚く。
「へえ、そんなことも出来るんですね」
「ベネットさん、貴方が教えてくれたからですよ」
「なに?」
「『心具は本来魂を取り扱う』と、お陰で魂の存在を認知できました」
「チッ、だがまだお仲間が残っているな」
「え?」
彼がそう言うと、空間に漂うオーラが
100人の群衆に流れ、彼らを操り始める。
「マズイ!」
100人の群衆が道也に襲い掛かる。
そしてオーラも道也の体にも流れ込もうとし始めた。
僕は意を決した。
「道也君!!すみません!!」
「え?」
僕は道也の体に飛び込んだ。
既に入り始めていたオーラをかき分けはじき出し、
道也の体に溶け込んだ。
哲郎の意識が入ってくるのが分かる。
乗っ取られそうになった意識が鮮明になっていく。
そして、俺たちは一つになった。
且つて入れ替わってしまった心と一緒に。
「はじき出したのか?」
「ああ、そうみたいだな」
「哲郎!道也!」
意識が冴えわたる。
心が重なりより強靭になった感覚がある。
「ボス、大丈夫ですよ。所謂、ゴジータって感じですから」
オーラが体を乗っ取ろうとし来る、しかし
意識と心が強くなったお陰か、体に入り込むことなく
オーラは弾かれていく。
直後、襲い掛かってくる人の気配を感じる。
「アブね!」
油断していたが、乗っ取られた群衆が既に
目の前まで迫ってきていた。
心具のナイフを取り出し、襲ってきた彼らからオーラを切り離す。
すると突如気を失ってその場に倒れる。
正気に戻るまで時間が掛かるという事だろうか。
その後も次々に群衆の攻撃が繰り出されるが、
殴られることも掴まれることもなく、
鋭くなった直感でことごとく躱し、彼らを解放していった。
そうして道を切り開きながらボスの元までたどり着き、
俺達はボスからオーラを切り離した。
形勢逆転、後はベネットだけだ。
「ま、まて!!」
「じゃあな」
ナイフを突き立てようかという正にその瞬間。
ベネットは気を失ってその場に倒れた。
「ん?なんだ?」
するとベネットについていたオーラが
哲郎の体に入っていく。
そして、心具で切り離され漂っていた
オーラもそれに追従する。
胸に空いた傷が塞がり、哲郎だった者が起き上がる。
「どうして?撃たれたのになぜ立てる?」
「君たちが勝手に死んだと思い込んだけだろ?だから死んだのさ」
「!!」
「これが個として存在する感覚か。無意識下での支配とは違う、
私が居るという存在感を感じる!これこそ!私が求めていたものだ!!」
天使としての存在感が増したのが分かる。
哲郎の胸に天使が宿っているのが目にハッキリと映っている。
「哲郎を返せ!」
「そうはいくか」
「なに!?」
すると突然、哲郎が持っていた心具ナイフの切っ先が胸を
目掛けて突き進んでくる。
間一髪でそれを躱す。
「避けるか」
「クッ!!」
天使の意志が濃くなったせいか、こちらの直感を打ち消す動きを見せる。
だが捌ききれないことは無い。
しかし…。
「あんたも避けるの上手いじゃないの!」
「ギリギリだがね!」
こちらも懸命にナイフを振るが、胸にヒットさせることは叶わない。
お互い、互角の勝負。
どちらが先に切り取るか、先の見えない状況が続く。
「お前はどうして!人を支配する!?」
すると天使はナイフをしまい。距離を取った。
「フン、小休止だ」
「なんのつもりだ」
「人間の体は動くとちゃんと疲れるのが良くない。
お前もそうだろう?」
真剣すぎたせいか、全く気付かなかったが息が上がっていた。
額から汗が零れ、白い息が口から洩れる。
「ハー、ハー、ハー」
「フフ、良いじゃないか。私も疲れた。少し休もうではないか」
「まあ、悪くないかな」
「『どうして人を支配する?』だったな。折角だ、昔話をしてやろう」
「何か企んでるのか?」
「まあそう警戒するな」
道也君。
え?哲郎!?
僕が作戦を考えます。ここは話に乗ってください。
オオクワの時と逆だな。
そうですね。今度は僕がブレーンになります。
わかった。頼んだぜ哲郎・・・!
「わかった。息が整うまで聞いてやるよ」
「それは良かった」
「フン」
「今から10万年前、且つて地球には
ネアンデルタール人がいたことを知っているか?」
「それくらいは知ってる」
「そうか。命という概念は彼らネアンデルタール人によって生まれた」
「へえ」
「それは同時に死という概念も生み出した。そこから人類は進化し、今から約5000年前、ベネットが言っていた通り、現代のイラクにメソポタミア文明が産まれる」
「・・・」
「そうして古代バビロニアが誕生すると今度は錬金術が栄えだした。錬金術はエリクサーと言った不老不死の薬の実現を目指した」
「それも言っていたな」
「そうだ。しかし、どうやっても肉体は老いていき、いつか人は死ぬ。不老不死の研究は一向に前進しなかった。しかしある一人の錬金術師が、遂に魂と肉体の分離に成功する」
「ベネットが言っていた心具の発明か」
「その通り。これによって、魂を若い肉体に移植することで不老不死を叶えることが出来るようになった。今君たちが使っている心具とは、魂の外科手術に使われた道具だ」
「心具が魂の外科に…」
「因みにだが、そこに寝そべっている男は何か手掛かりがないかとわざわざイラクまで来たようだが、無駄足だったな」
「ボスが?」
「そうさ、バビロニア人によって作られた心具。
それを彼が見つけたのが当時バビロニアがあった場所は
現在のイラクだからな」
「その時もお前が干渉したのか?」
「もちろん。しかしだ、残念ながら不老不死の研究には思わぬ副作用があった」
「副作用?」
「魂というものを目で見て実際に認知したことによって、今まで死んできたありとあらゆる生命が見える様になってしまった。それまで存在しなかったはずの命を観測出来たことで存在が確定したわけだ」
「俺達がやってようにか」
「正しく。そうなると次は世界中に漂う命の海が覚醒し、地球を丸ごと包み込んだ。なんせ地球史上、今まで死んでいった生物は数え切れないほどの量になるからね」
「なに?じゃあ今空間中に広がっている青いオーラは命そのものってことか?」
「そうだ。そして、彼らはどこに隠れようが、どこに行こうが、常に命の干渉を受ける様になってしまった。まあそのお陰で彼らバビロニア人は生命誕生の謎についても解明したわけだが」
「・・・」
「新しい命が誕生する瞬間、器となる肉体が出来ると、命の海から個としての魂が分離し、その器に吹き込まれる。そこで命は初めて、個として生きる喜びを得る」
「それが…、産まれるということか」
「そう。逆に言えば産まれる前の命はただずっと空間に漂っているだけで存在する喜びを知らない。だからこそ、この快感を得るために、命は産まれることを望み、死を恐れる」
「それが、俺達が天使と呼んでいたものの正体」
「そうだ。私は天使でも何でもない。君は私に『なぜ人を支配する?』と聞いてきたな。それは違う。私はただ、この世に産まれたかっただけだ。生きる喜びを手に入れたかっただけだ」
「それで取り立てる様になったと」
「そうだ。しかし私には誤算があった。私、いや、命の海に干渉を受けて君たちが意識を操作されるようになったのは先ほども言ったように彼らバビロニア人が原因だ。心具を扱える資質を持った者というのは彼らバビロニア人の血を引く証拠。しかし錬金術の廃れた現代人は命についての認知が弱い。すると命の海が干渉できる者がいなくなる」
「こちらとしてはそのままで良かったんですがね」
「それは残念だったね」
「フン」
「まあつまりだ。私が肉体を取り立てるには命というものを理解させて認知度を上げて認知してもらう必要があった。その為の手段が心配屋というわけだ。彼らは仕事を通じて心、もとい命に関する認知力を鍛えていく」
「『心配屋を止めない事』それが心配屋をやるための条件になっている理由はそれか」
「理解が早くて助かるよ。そして、命の理解が進み、私たちが見える様になった時、わざと不利な契約をさせて『取り立てられる』と存在が消える可能性を示唆する。すると肉体に命が入り込める余地が生まれ、目出度く漂っているだけの命は生きる喜びを手に入れられるわけだ」
「命ってのは随分自分勝手なんだな」
「人類の歴史を見れば明らかだろう」
「皮肉か」
「さてさて私の長話に付き合ってくれてありがとう。お陰でこの体も大分と馴染んできた!」
「おっと!!」
再び天使がナイフを手にして攻勢に出る。
それに負けじとこちらも応戦する。
「いい加減当たってくれ!!」
「残念だがそうはいかん。己の存在を賭けているものでね!」
相手のナイフが俺の前髪を撫でる。
こちらのナイフが相手の服を掠める。
一瞬の油断も出来ない。
「早く君の体を明け渡せ!」
「クソ!!哲!!まだか!!」
すみません、遅くなりました。
「それで!?」
さっき天使は僕たちが『死んだと思ったから哲郎は死んだ』と
言っていました。それを利用します。
「つまり!?」
命は、認知によって存在を変えられるという事です。
だから初めから無かったものとして考えてください。
「命の海をか?」
そうです。『そんなもの最初からなかった』と信じるんです。
今、心が強靭になっている僕たちなら出来るはずです。
「わかった!」
俺達は強く念じた。命の海?そんなものは存在しないと。
すると視界に隙間なく広がっていた青いオーラたちが
段々と透明になり、気配が消え始める。
「なに!?」
存在が消え始めたことで焦ったのか、
天使は世界中に蔓延している命の海を哲郎の体に集約した。
すると、哲郎の胸に光が灯る。
道也君!!今です!!
「なるほど、ここまでが哲の作戦か!」
俺は哲郎の胸目掛けてナイフを突き刺した。
しかし、俺もナイフを胸に刺されてしまった。
俺の体から哲郎の意識がはがれかける。
しかし僅かに、俺の方が早い。
そのままナイフを引き抜く。
「やめろおおおおおおおお!!・・・・・」
哲郎の体がその場に倒れ込む。
ナイフの先には天使の光が、命の海の結晶が輝いている。
道也君!早く!
「お、おう!そうか!」
俺は瓶に光を閉じ込めた。
この瞬間、決着が着いた。
「勝ったのか?」
あたりを見渡す。
何の気配も感じない。
スマホを取り出し時刻を確認する。
12月26日。0時4分。
日付を超えている。
取り立てられていない。
そうか、助かった!助かったんだ…。
「哲!!俺達やったぞ!!」
すると、道也の体から哲郎の意識が乖離し始める。
「ん?なんでだ!?」
あふれ出る意識を必死で引き留めようとするが、全部すり抜けていく。
「そうか…道也、さっき俺達さ『ゴジータって感じかな』って言ったよな?」
「それがどうしたっていうんだよ」
「ゴジータって30分で変身が…」
「ハッ!やばい!哲郎!早く元の体に!!」
そう言って哲郎の体に目を向ける。
すると先ほどまで塞がっていたはずの銃創が再び開いていた。
「道也、もう無理だ。戻れない」
「そんな!そんな嫌だ!!」
自分の中から溢れ出ていく親友の命を感じて、思わず涙が零れる。
「哲郎、ごめん」
「いや、あの状況ならやっぱゴジータだろ!」
「そうじゃない。あの日の事、まだ謝ってなかっただろ」
「ああ…。でも、それは俺も同じだよ」
「だとしても、あの日僕が哲郎に触れなければ、こんなことには…!」
「いいんだよ道也、だって俺達親友だろ?」
「哲郎・・・」
「おいおい泣くなよ!全く弱虫だな道也は!」
「そんなことないよ、君が強いんだよ」
「フフッ、そうか」
哲郎の光が消えていく。
「道也、またな」
とめどなく、哲郎の気配が薄れていく。
「哲郎!哲郎!!」
そして、最後の心の一滴が、世界に溶けて消えていく。
空は冬の澄んだ空気によって綺麗に星たちが輝いている。
だが、僕は空を見上げなかった。
静まり返った夜の中。
ただ、立っていた。
ー「エピローグ」ー
~2080年:2月~
[哲郎が最後に、心を残してくれたおかげで僕は本当の自分に戻ることができた。あの後、倒れていたボスは目を覚ました。僕は哲郎が死んだことをボスに告げた。ボスは自分が撃ってしまった事に慟哭していた。周囲に居た人たちも目を覚まし始め、口々に「説明しろ」だの「何がしたいんだ」だのと言っていた。だけど、二人とも彼らの相手をしなかった。数十分の後、彼らは仕方なく去って行った。それでも僕たちはその場から動けなかった。]
昔の思い出をノートに書き残す。本来の慎重さを取り戻しながら、
ノートという記録に残す危険を冒したのは、かつてボスや
哲郎といった仲間と親友がいたことを忘れたくなかったから。
しかし、今や拡張現実が当たり前になった世界で、
わざわざ本物の、しかも手書きのノートを読みたがる現代人はいない。
天使の存在を覚えているのは自分だけ。
そのお陰で瓶の中の光は随分弱くなっている。
そして、最後に残った自分もいよいよその時が迫る。
視界がぼやけ、手に力が入らなくなってきた。
いよいよ天使は消滅する。
机の引き出しを開ける。
あの日捕まえたオオクワガタの剥製が大事にしまわれている。
それを優しく手で包み、今まで書き留めて来たノートを暖炉に投げ入れる。
パチパチと燃えるその様を見ながら、僕はゆっくりと目を閉じた。
皆様こんにちは。
宗徳と申します。
非常に拙い文章でありながら、
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。
命の海が亡くなる。
これはつまり、死んだあと自分がどうなるのか?
というのがわからなくなったということでもあります。
現代に行ける人間が、異物の干渉を受けることは
なくなったわけですが、死生観という視点で見た時、
果たしてそれは幸せなのかどうか。
哲郎や道也、ボスがどう考えているのか気になるところではあります。
さて、話は変わりますが何か本を一冊分書き上げる
というのは人生初の試みだったので
お見苦しいところもあったかと思います。
ですが、忙しいながらもちゃんと最後まで書きあげられたこと、
本当に良かったなと思っています。
ただのサラリーマンでも頑張れば一作品ぐらいは
完成させることができるんだなと、自信になりました。
非常に思い出深い作品になったと実感しています。
いや~しかし!
素人作品の割には読んでくれた人は結構多い方だと感じられました!
なんたってユニークアクセス数が300ですからね!
全く無名の人間の作品を300人も読んでいる人がいる。
これは非常に嬉しく思っています!!
本作品は、当初言っていた通り記念に製本して家に飾ろうと思います。
何か作品に対して聞きたいことや感想があれば遠慮なく
メッセージやコメントを頂けると嬉しいです!!
是非お待ちしております!
それでは皆様またどこかでお会いしましょう!!
メリークリスマス!
&
良いお年を!!




