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異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第3章 黎明期 フェアリーバード編

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ララ

ララが現れた当日。

あれよあれよという間に大所帯になっていた。

ものの数時間でそうとう噂が広まっていたようであった。

ライゼルは至る処で騒ぎまくったみたいだ。


営業時間終了後に、関係者一同が集まってきていた。

それはチーム『アンジェリ』以外にも伯爵一家やマリオさん達まで。

更にタックスリーさんまでいた。

何気に珍しいな・・・今日もズラが良い仕事をしている。

いいねえタックスリーさん、似合ってますよ。

最近のタックスリーさんのお気に入りのズラはオールバックのズラだ。

強気なヅライフを楽しんでいる。

おでことの分け目が分かりずらくて最高の一品だ。


全員が説明してくれとその視線に書いてあった。

ここまで大挙されるとちょっとビビるぞ・・・

大勢となってしまった為、また温泉宿の宴会場に場を移す事になった。

有難い事にクロムウェルさんが食事と飲み物を準備してくれていたよ。


まさかのビュッフェ形式。

なんという気遣い、胸に染みるよ。


お礼を述べると、

「何を仰いますのやら、ジョニー店長の執事としては当然のことですねえ」

いつもの発言をしていた。

だから俺の執事ではありませんよね?

でも、いい加減もう慣れてきたよ。

分かりました、そうしておきましょう。

はいはい、俺の執事ですね!

いい仕事してくれていますよ!

あざっす!


俺達は適当に食べ物を摘まみ、飲み物を飲んでいる。

そしてライゼルが早々にぐいっと前に出てきた。


「ジョニー、いい加減説明してくれよな!」

ふう、飯ぐらい食わせろっての・・・早いって・・・。

そう焦んなって・・・


「ああ、で?何から聞きたいんだ?」

一気に注目を浴びることになってしまった。

全員が聞き漏らさないと、聞き耳を立てている。

おお!・・・凄い目立っているぞ俺・・・


「まず、ララってそもそも誰なんだ?お前にとっては思い入れのある名前だってのは知っているが」

やっぱりそこからだよな。

ふう、語ろうか。


「しょうがねえなあ・・・」




ララとの出会いは今思い返すとあの神社だった。

こうなってくるとあの神社とは因縁めいた物を感じるよ。

やっぱりあの神社には神様が居るってことなんだろうね。

氏神様の祭られている神社。

この世界に来る前に祝詞を挙げて貰い、その後に立ち寄った神社だ。

思い出したよ・・・よく子供の頃に遊んだ場所だったな・・・忘れていたなんて・・・俺も年かな?


俺は小学校二年、美幸は幼稚園の年長さんだった。

当時の俺達は、母を失い、途方に暮れていた。

悲しさと後悔の毎日だった事を覚えている。

全てが手につかず、無気力な日々を過ごしていたよ。


そして俺達は母親に対して何も出来なかった自分達を責めた。

まだ子供だってのに・・・

何かが出来たはずだと断じて疑わなかった。

俺が何か出来れば・・・一瞬でも母は命を長らえられたのかもしれないと・・・

今思うと家族との死別とはこんなものなのかもしれない。

誰にとっても・・・

本当に心にポカンと穴が空いた気がしたよ。

もうあんな気持ちには二度と成りたくはない。

心の底からそう思うよ・・・


日に日に弱っていく母を、俺は何も出来ず、ただ手を握ることしか出来なかったのをよく覚えている。

そんな無力な自分を責めた。

そして母の手はどんどんと弱っていった・・・

非常なまでに・・・


母は癌だった、その病名は子宮癌。

恰幅の良かった母が、ものの数ヶ月でみるみると痩せ細っていき、見るも絶えないほど痩せ細っていった。

正直見て居られなかったよ・・・でも眼を背けることは出来なかった。


でも当の本人は、

「痩せて綺麗になったでしょ?」

そう強気の発言をしていた。


それを困った表情で苦笑いするしかなかった俺達。

母は心配させない様にと、気遣ってくれていたことは分かっていた。

そう感じた俺は随分と大人びた子供だったのかもしれない。

でも、余りに急な出来事に俺だけでは無く、家族全員が戸惑っていたよ。


特に親父の動揺は激しかった。

あの筋骨隆々の親父が、頼りないワナワナする弱々しいお爺さんに見えたぐらいだったよ。

実際仕事も手につかず、何日も休んでいた様だった。

美幸はいつも泣いていたな・・・


それぐらい俺達は追い込まれていた。

そして、遂にその日がやってきてしまった。

母親は旅立ってしまったのだ。

享年三十五歳、余りに早すぎる生涯だった。

まだ小さな俺と美幸、そして意気消沈する親父を残して、母はこの世を去ってしまった。

本当に急なお別れとなってしまった。


葬儀を終え、数ヶ月経っても俺達は母の死を受け入れる事が出来なかった。

母親が居なくなった事を・・・余りに早すぎる別れを・・・ただただ茫然と日々を過ごしていた。

悲しみに満ちた毎日を過ごしていたよ。

家族全員が塞ぎ込んでいた。

誰一人、前を向く事なんて出来なかった・・・

家の中は常に暗かったよ・・・




ある日、学校から家に帰ると、美幸に誘われて神社に行くことになった。

本当はそんな気分では無かったが、何となくそうすべきだと想ったからだ。

理由は分からない・・・


この神社は所謂俺達兄弟と友人達の遊び場となっていた場所だった。

近くに公園はあったが、公園は高学年の子供達に占拠されており、遊べる状況になかったからだ。

神社ではボール遊びは禁止されていた為、遊びとは言っても鬼ごっこや、影踏みぐらいしか出来なかった。

本当はキャッチボールがやりたかったけど・・・


この日は友人達はおらず、俺と美幸しか居なかった。

特に何をすることも無く、持て余していた俺達は、いつも座る神社の脇にある木製の椅子に腰かけていた。

視線は下を向き、何とも言えない悲しい感情に左右されていた。

今思うと、母の面影を何処かに探していた様な気がする・・・

ふと振り返ると、母親が迎えに来てくれるみたいな・・・

もう帰る時間だよと声が掛けられるような・・・

悲しみと後悔の時間を過ごしていたよ。


すると不意に聞き馴染みのない声がした。


「クゥーン・・・クゥ、クゥーーーン・・・」

とても弱々しい鳴き声だった、か細くてよく集中して聞いて無いと聞き逃すかもしれない鳴き声だった。

ハッとなって声のする方を見てみると、見慣れない段ボールがあった。

どうしてこんな所に段ボールがあるんだろう?そう思った事を覚えている。


興味を覚えた俺は段ボールを覗き込んだ。

すると、其処には可愛らしい子犬がこちらを見て泣いていた。

とても愛らしい子犬だった。

舌を出して、キラキラした眼で俺を見ていた。

俺は一気に心を奪われていた。

これが俺とララとの出会いだった。


この時代はこういった、無責任に子犬を捨てる様な事もざらにあった。

案の定、段ボールには。

可愛がってください。

そう無機質な文字で不躾に書いてあった。

今思うと正気の沙汰では無い、もし誰も気づかなかったら、子犬はどうなるんだろうか?

人情味の無い、無責任なあり得ない出来事である。


ララは俺を見上げると、

「クゥーン・・・クゥーーーン・・・ハッハッハ!」

何かを訴えかける視線を投げかけてきた。


この瞬間、俺は運命を感じた。

俺は絶対にこの子犬を飼わなければいけないと。

遅れて覗きにきた美幸も目尻を緩めていた。

そして美幸はララの可愛さに興奮していた。


「可愛い!!!お兄ちゃん!この子無茶苦茶可愛いよ!」

を連呼していた。

その気持ちはよく分かった。

俺もそう全身で感じていたからだ。

こうして運命の出会いを果たしたのだった。


しかし、俺達は実はペットは飼ってはいけないと、前に親父に咎められたことがあったのだった。

その理由は父親が動物に対してアレルギーがあったからだ。

この時代には、まだアレルギーという言葉は存在しだしたぐらいの頃だったと思う。

でも親父はこれまでの自分の経験から、動物が苦手だという意識が芽生えていたのだった。

犬を飼うと言っても簡単には認めてはくれないだろう。

それを分かっている美幸もどうしたものかと表情を曇らせていた。

だが、ここは見過ごせない。

拒絶されても何としてでも俺はこの子犬を飼うと腹を決めた。

絶対家族に迎え入れると。

決心した俺は美幸に宣言した。


「美幸、この子を飼うぞ!」


「でも・・・」

不安そうに俺を見つめる美幸。


「おとうは嫌がるかもしれないけど、絶対にこの子を飼うんだ!だって見て見ろよ、無茶苦茶可愛いぞ!」


「うん!そうだね!」

不安はあったが、何となく今の親父なら認めてくれる様な気がした。

だって、親父は立ち直ろうとしては項垂れるを繰り返していたからだ。

俺達と大差なかったのだ。

変化が欲しい、そうではないかと勝手に思い込んでいた。


そしてそれは案外すんなりと受け入れられていた。

俺の勝手な思い込みが正解だったのかは分からない。


「丈二、美幸、お前達で面倒をみるんだぞ・・・ヘックション!・・・ヘッ・・・ヘッ・・・フウ・・・」

好きにしろと親父は投げやりであった。


「「分かった!!!」」

そして子犬は無事俺達の家族の一員となった。


名前はララ、この当時流行っていたアニメのフィアンセの名前がララだったこともあり、俺が勝手に名付けた。

ララは雑種犬、たぶん中型犬だと思う。


始めはある程度無関心だった親父も、数か月後にはアレルギー症状が出なくなったこともあり、ララを家族と受け入れていた。

もしかしたら抗体が出来たのかもしれない。

心を病んでいた俺達にとっては、ララは最高の癒しだった。

ララは本当に可愛く、そしてムードメーカーだった。

ララは本当に犬なのか?と疑う程に賢かった。

とにかく空気を読むのだ。

その時一番弱っている者に寄り沿い、時に甘え、最高の癒しになった。

ララが隣に居るだけで不思議と心が軽くなったのだ。


ララは沈んでいた神野家を変えた存在となった。

それを理解できたのは数年後なのだが・・・


そしてララは時折、驚くような事をした。

例えばこんな事があった。

俺と美幸は学校に行こうと準備を終えて、玄関でいつもの様に挨拶をして出かけることにした。

すると当然の様にララが付いて来ようとしたのだ。

待て待て待てと咎めると、私も行くと吠え出すララ。

どうにも譲る気は無いらしい。

困った親父がララを捕まえて何とか事無きを得た。

かと思ったがそうはいかなかった。


なんとララはこっそりと家を抜け出し、学校にまでやってきたのだった。

学校は大騒ぎ、そしてララは匂いで辿ったのか、俺の教室にまでやってきたのだ。

あまりの出来事に学校中で後日話題となった。

中には忠犬ララと勝手に呼ぶ者までいた。


どうしたものかと困った教師は、ララを追い出すことも出来ず、結局ララは俺と一緒に授業を受ける事になった。

それも一度の話ではない。

ララは何度か家を抜け出しては学校にやってきた。

とにかくララは俺の隣に居たがったのだ。


その為、よく友人に。

「今日は忠犬はこないのか?」

と冷やかされる事もあったぐらいだ。


正直恥ずかしくもあったが、嬉しくもあったのを覚えている。

ここまで懐かれる事なんてないだろう。

そんな話しは聞いたことも無い。

こんな毎日が、母親を亡くした寂しさを拭い去ってくれたよ。

今思うと感謝でしかない・・・

ララ・・・ありがとう・・・


他にも神社に遊びに行く際には必ず付いてきた。

一緒になって遊びまくっていたよ。

鬼ごっこで真剣に逃げるララは無茶苦茶速かった。

勝てっこねえだろうが・・・それでも俺は本気でララを追いかけていたよ。


寝る時も一緒で、ララは俺の布団にしょっちゅう潜り込んできた。

時々美幸の布団にも。

とにかくララは俺の側を離れなかった。

そしてララは言う事をちゃんと聞いた。

特に躾た覚えはないが、言葉を分かっている?と疑う程に聞き分けが良かった。

俺だけでは無く、美幸や親父の言う事もちゃんと聞いていた。

そんなララを俺達は家族の一員と受け止めていた。




そしてララと急に別れを迎える事になってしまったのだった。

余りに突然の出来事に俺は何も考えられなかった事を覚えている。

強烈な悲しさに、俺は二度とペットは飼わないと誓った。

ララの替わりになる家族なんて存在しないと思ったからだ。



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