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異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第3章 黎明期 フェアリーバード編

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パーティーその2

拡声器を手にしたシルビアちゃんが、パーティーの参加者に話し掛けた。


「皆さん、遂に私!美容師に成りましたぁ!やったーーー!!!」

今一度拍手喝采が巻き起こった。

会場の一体感が半端ない。


「いいぞー!」


「シルビア!最高!」


「おめでとう!」

手を振ってシルビアちゃんは答えている。

会場は笑顔で溢れていた。

皆が皆、シルビアちゃんを祝おうと祝福の表情だ。


そしてマリオさんの大号泣に釣られてライゼルも大号泣しだした。

ハハハ、こうなると思っていたよ。

シルビアちゃんは、女性陣一行から羨望の眼差しで見つめられていた。

美容師免許は絶大だな。

国王が認めたんだ、そうなって当然だろう。

俺はシルビアちゃんから拡声器を奪った。


「シルビアちゃん!おめでとう!さて、ここからは君は正真正銘の美容師だ!現場でも全ての施術に入って貰うよ」


「はい!」

気合の入った一言を言い放っている。

うん!良い返事だ!


「ここからは自分の美容師スタイルを模索していく事になる、やっとスタート段階に入ったんだよ。ここで終わりではない、それは分かっているよね?」

神妙に頷くシルビアちゃん。


「そこで質問だ」

シルビアちゃんの表情が引き締まった。

良い表情をしている。


「君はどんな美容師を目指すんだい?」


「それは・・・」

視線が揺れていた。


「俺の真似事はもう必要ない、シルビアちゃんらしい美容師を目指すんだ!」


「はい・・・」

下を向いているシルビアちゃん。


「美容師の基礎は教え込んだ、これからはシルビアスタイルを極めていってくれ!」

表情を改めるとシルビアちゃんは言い放った。


「分かりました!全力で頑張ります!」

この言葉に拍手が巻き起こった。


「さあ!ここからはパーティーを始めよう!皆!飲み物を配ってくれ!」

参加者全員が動き出した。

順次飲み物が配られていく。

俺はこの日の為に準備したシャンパンを手にした。

今日はそれなりに奮発している。

こんな時ぐらい散財してもいいだろうってね。

いくら使ったのかのかは・・・言えませんねえ・・・まあ察してくださいな。


さて、乾杯の音頭は伯爵夫人ことマリアベルさんにお願いしている。

マリアベルさんはしれっと壇上に登壇していた。

飲み物が配り終わった事を確認したマリアベルさんに、俺は拡声器を手渡した。

お願いしますと軽く頭を下げる。

軽く頷くと、意味深に俺を見つめてから正面に向き直ったマリアベルさん。


「飲み物は行き渡ったかしら?」

グラスを掲げて返事する一同。


「僭越ながら、私しマリアベルが乾杯の音頭を取らせていただくわね」

これに参加者達が答える。


「よっ!マリアベル様!」


「スピーチお願いします!」


「今日もお綺麗です!」

今度はマリアベルさんに声援が送られていた。

皆、妙にテンションが上がっているな。

それにしてもこの人も人気者だねえ。


「シルビア!美容師免許取得おめでとう!」

シルビアちゃんがマリアベルさんに対して、深くお辞儀をした。


「遂にこのメイデン領に、ジョニー店長以外の美容師が誕生したわ、この日を待ちわびていたわ」

軽く拍手が起こった。

それを手を挙げて咎めるマリアベルさん。


「始めて美容院『アンジェリ』に足を踏み入れた時には、もうシルビアはお店のスタッフとして働いていたわね、よく覚えているわよ」

本当は違う、あの時はボランティアだったからね。

細かい事はどうでもいいか。

それにしてもシルビアちゃんは照れているな、顔が真っ赤になっているぞ。


「受付のカウンターに腰掛けて、予約の受付を行っていたのを覚えているわ、そうよね?クロエ?」

クロエちゃんがウンウンと頷いている。


「おぼこい子が、しっかりと受付業務を熟している事に少々戸惑ってしまったわ、覚えている?シルビア?」

確かにそんな感じだったな、俺も覚えているよ。


「でもそこからのあなたはメキメキと修業を重ねて、美容師の技術を取得していったわね、私はちゃんと見ていたわよ」

そうなのか?と少々驚いているシルビアちゃん。


「始めてあなたのシャンプーを受けた時には驚いたわ、とても気持ちよかったわよ」

ちょっと待て、今日一の語りになってないか?

主役はあなたじゃないですよ、分かってますか?


「そこからのあなたの努力は誰もが認めているわ、頑張り屋のシルビア。その二つ名はあなたの物よ!」

この発言に賛同の者達が騒ぎ出した。


「そうだ!」


「その通りだ!」


「頑張り屋のシルビア!」

照れを通り越して変なテンションになっているシルビアちゃん。

両手を挙げて腰を振っている。

何なんだこれは?

それに感化されて数名が同じ動きをしていた。

だからそれは何なんだ?どうにも分からんぞ。

そして、マリアベルさんが締めに入る。


「シルビア!今後も期待しているわよ!では、御唱和下さい!乾杯!」

グラスを一気に上に掲げた。

それに続く一同。


「乾杯!」


「乾杯!」


「乾杯!」

そこらじゅうでグラスが打ち鳴らされる音がした。

これは幸せの音だな。

ほぼ全員がシャンパンを一気に飲み干していた。

そして声が零れる、万遍の笑みと共に。


「旨い!」


「旨っまー!」


「シュワシュワ最高!」


「何だこれ!アホ程旨いぞ!」

フフフ、キンキンに冷えたシャンパンも悪くないだろう。

でも、これはめでたい時にしか出しませんからね!

結構お高いんですよ。


食事もかなり豪勢になっている。

調理は温泉同好会とシェフにお任せしているが、材料は俺が何かと仕入れさせて貰ったよ。

和牛や伊勢海老、そして鮑や蟹等、高級食材をこれでもかと取り揃えたよ。

ええ!ガッツリ散財しましたよ!ええ!

いいじゃないですか!こんな時ぐらいさあ!


地味にこの世界にどっぷりな所為か、お金の使い処がないんだよね・・・

愛弟子を祝うんだからさ、浮かれさせてくれよな。

心配しなくとも調理方法はちゃんとシェフには伝授していますよ。

彼もこんな食材があるのかと驚いていたよ。

まあ日本の食材だからね。

知らないに決まっているよね。


そして食事が始まるとライゼルからクレームが入った。


「おい!ジョニー!お前やり過ぎだろう!今日の為に久しぶりに狩りに出たってのに・・・ボア肉が霞んでるだろうが!」


「フフフ・・・」


「フフフじゃねえ!」

にやけ顔でライゼルを見つめてやった。


「くそう!」

まあそう言わなくとも俺はボア肉も好きだぞ。

そう拗ねるなっての。

でも・・・俺の勝ちだな・・・


パーティーの参加者は食事にがっついていた。

ある者は黙々と、ある者は感嘆の息を漏らして。


「はあ・・・何なんだよこれ・・・」


「旨すぎる」


「フォークが止まらん!」


「新食感!」


「何とも・・・美味ですなあ・・・」

いやいやいや、これで喜ばれてもねえ。

まだまだ美味しいがありますよ。


俺も食事を楽しむことにした。

そして案の定シルビアちゃんは、嬉しいよりも食い気に走っていた。

こうなると思っていたよ、若いねえー。

期待に応えてくれるねえ。

バクバクと食事を口に運んでいた。

食事をシャンパンで流し込んでいる。

こら!ちゃんと噛みなさい!

気持ちは分からなくもないけれど、身体に良くないよ。


誰もが食事に舌包みを打っていた。

猛スピードで食事が無くなっていくが、シェフと温泉同好会の方々が頑張って食事の提供を行っていた。

そしてシャンパンが飛ぶ様に無くなっていく。

既に酩酊状態の者もいた。

シャンパンはそれなりにアルコール度数が高いからね。

がぶ飲みする物ではありませんよ。

加減を間違えないでくださいね。




調子に乗ったマリオさんが何を勘違いし出したのか、拡声器で語り出した。

それは俺との出会いや、俺への感謝についてだ。

相当アルコールが周っているのか、珍しく妻のイングリスさんまで隣に立って頷いている。

それをシルビアちゃんが心配そうに見つめていた。

ありゃりゃ・・・何をやってんだか・・・


正直言って聞いてられないよ。

恥ずかしいったらありゃしない。

ここまで賛辞を聞かされると返って引いてしまうぞ。

そんな俺の感想を無視して、語り尽くすマリオさん。

そしてシルビアちゃんが美容師に成れたこと、それを国王が認めたことが嬉しいのだろう。

この会場に居る全員に感謝の言葉を述べていた。

ひとしきり語り尽くしたマリオさんは最後に大号泣していた。

それを全員が温かい眼で見つめていた。

父親とはこういうものなんだろう、最初は俺も恥ずかしくてしょうがなかったが、最後の方はウルっとしてしまったよ。

マリオさん、おめでとうございます!




会場は一段落ついてきた。

でもシルビアちゃんの周りには常に誰かがおり、シルビアちゃんにおめでとうと声を掛けていた。

人気者だねぇ、人望があるのがよく分かるよ。

さあ、そろそろ時間だな。

俺はクロムウェルさんに合図を送った。

彼は頷くとしれっと会場を後にした。


数分後、クロムウェルさんが、大きなホールケーキを抱えている数名を引き連れて会場に現れた。

そのケーキはまるで高級ホテルのケーキを彷彿とさせるほどの品物だった。

十号のホールケーキが五個。

イチゴのケーキに、チョコケーキ、チーズケーキにアイスケーキ、そしてシルビアちゃんが大好きな巨大な今川焼だ。

今川焼はケーキでないが、これはご愛敬。

こんな巨大な今川焼は見たことはない。

この今川焼はこの世界で造って貰った一品だ。

その為にメイフェザーにそれ専用の魔道具を造らせたのだ。

材料は俺が準備したが、なかなか豪快な一品だよ。


その巨大な今川焼を見て、目を蘭々とさせているシルビアちゃん。

既に食う気満々だ。

今川焼を前に肩を回すシルビアちゃん。

相当に気合が入っている。

それを遠巻きに参加者全員が眺めていた。

拡声器を片手に勝手に仕切り出すリック。


「シルビア、準備はいいか?」

フォークとナイフを手に取り、臨戦態勢のシルビアちゃん。

待て待て待て!フードファイト会場になってんじゃねえよ!

どうしてこうなった?


「シルビア・・・ファイト!」

リックの掛け声に一気に今川焼に貪りつくシルビアちゃん。

だから何でこうなってんのよ?

そんな俺を無視して、シルビアちゃんの今川焼を食べ尽くせるかファイトが始まった。

そこいらで声援が飛んでいる。


「シルビア!いけるよ!」


「全部食っちゃえ!」


「お前ならいける!」


「いっちゃえ!」

そんな掛け声を掛けつつも、好きにケーキを取り分けて食べている一同。

何なんだよいったい、もう好きにしてくれ!


そして巨大な今川焼を食べ尽くすシルビアちゃん。

おいおいおい!マジか!あり得んだろう!

お腹を擦りながら満足そうな笑顔のシルビアちゃん、悦に浸っている。


なんにしても、これでシルビアちゃんの美容師人生の始まりだな。

ここはおめでとうと言っておこう。

でもここからだな、やっとスタート位置に立てたということだ。

そう美容師はここからが肝心なのだ。

でも今は最大限に祝ってあげよう。

おめでとう!シルビアちゃん!




宴会を終え、何となく飲み足りないと感じた俺は一人、美容院『アンジェリ』のカウンターに腰掛けて、ワインを開けることにした。

随分と飲まされたが、明日は定休日の為、泥酔してもいいだろう。

それにしても・・・シルビアちゃんが美容師成ったな・・・

本当に良かった・・・

始めて会った時は赤ずきんちゃんだったよな・・・

発火木って・・・笑えるよ・・・

オープン後のシャンプー屋の頃は、シルビアちゃんに支えられたな・・・

あの子抜きでは、こう上手くはいなかっただろうな・・・

商人ギルド後の酒場で、弟子になりたいと言われた時には度肝を抜かれたよ・・・

ここからシルビアちゃんの努力の毎日が始まったんだよな・・・

本当に良く出来た愛弟子だよ・・・

俺には勿体ないぐらいだ・・・


まるで走馬灯のように、シルビアちゃんとの出会いからを思い出していた。

心地よい酔いと、嬉しさで身体がフワフワしている。

俺は幸せ者だな・・・出会いに恵まれている・・・

ああ・・・眠い・・・

俺は意識を失った。


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