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異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第3章 黎明期 フェアリーバード編

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王妃の目線

翌日の早朝にはライゼルと一緒に、王妃と皇太子が庭先を見学していた。

どうにも絵になる。

王家の所為か気品が滲み出ている。


ライゼルは喜々として庭先の草花の説明をしている。

俺はしょうがないので、この人達の分の朝食も準備する事にした。

俺とライゼルだけ朝食とはいかないだろう。

ああ、面倒臭い。

それにしても俺もお人好しだな。

でも放置ともいかないでしょうが。

隣で腹を鳴らされた日には、聞かなったふりをしないといけないしね。

これぐらいのサービスはさせて頂きますよ。


トーストに薄切りのハムにチェダーチーズを乗っけた物を、四斤トースターに突っ込むと、コーンスープを準備した。

肉にはチェダーチーズが一番合うと俺は考えている。

チェダーチーズはどんな肉にも合う。

そう想いません?

たまに上顎に張り付くのが気になるが・・・


適当な所でライゼル達に声を掛けると、そのままカウンターに座らせる。

焼けたトーストを皿に乗せて、王妃と皇太子にも差し出す。

そして着席を促す。

こんがり焼けたトーストの匂いに皇太子は期待の眼差しを向けていた。

王妃も口元が緩んでいる。

それを見てライゼルはニンマリ顔だ。

こいつにとってはいつもの事だからな。


「さあ、召し上がって下さい。トーストとコーンスープです。食後はコーヒーでいいですか?」

ハッと顔を上げる皇太子。


「噂のコーヒーを飲ませて頂けるのか?これは嬉しいな」

皇太子は万遍の笑みを浮かべていた。


「ウフフ、私はミルク入りでお願いね」

おっと、これはちゃんと情報共有されているな。

食の情報は共有されているぞと・・・

うーん、まあいいでしょう・・・


「了解、ライゼルはいつも通りだな」


「おう、よろしく!」

要はブラックだ。

トーストに齧りつくと声を漏らす皇太子。


「これは・・・美味しい・・・」

ビックリしてトーストを何度も眺めていた。


「そうね・・・パンが格段に違う・・・外はカリッ、中はフワフワ・・・」

王妃も満更でもないご様子。

こちらも繁々とトーストを見つめていた。

コーヒーを準備する俺を尻目に、トーストにがっつく二人。

それを満足そうに眺めるライゼル。

これが俺の日常だと自慢げだ。

それにしても、ライゼルは皇太子と打ち解けて何よりだな。

あのビンタはなかなかの迫力だったしね。

俺も胸を撫で降ろしたよ。

兄弟仲直り出来て良かったな。




一息付こうとコーヒーを飲みだした一同。


「これがコーヒー・・・なるほど・・・とても香ばしい・・・」


「いいわね・・・落ち着くわ・・・」

ほっとして表情が崩れている二人。

リラックス感が半端ない。


「気に入っていただいて何よりです」

表情を改めると俺を真っすぐに視線に捉える王妃。


「それにしても、このお店は見事なことこの上ないわね」


「それはどうも」

褒められて嬉しくない訳が無い。


「あの人から、散々あなたや美容院『アンジェリ』の事を聞かされたけれど、寸分の違いもないわね、天晴だわ」

両手の掌を上に挙げて降参のポーズをとる王妃。


「本当ですね、どんな髪形にして貰えるのか楽しみです」

へえー、皇太子も髪形が気になるのか・・・

そうなると遊んでやりたくなるな。

この皇太子が王冠を引き継ぐことになるけれど、王冠の呪いはもう存在しない。

そうなると皇太子も髪形で遊ぼうってか?

良いじゃないか、好きですよ俺は。


「さあ、そろそろお店の準備と、家のスタッフの練習の時間です。お帰り下さい」

この一言に苦い顔をする二人。


「・・・本当に遠慮が無いな」


「我等は王族だというのに・・・」


「はあ?今何か言いましたか?」

ビビッて首をすぼめる皇太子。

だから王家特権はありませんての。


「いえ・・・何も・・・」


「ふう・・・」

やれやれと首を振る王妃。

ライゼルは苦笑いしていた。

だから特別扱いはしませんての!




美容院の営業を開始した。

予約の時間になった為、王妃と皇太子が再び来店してきた。

期待の眼差しの皇太子と意味深な視線を投げかける王妃。

さて、どうしたものか・・・


皇太子に関しては決まっている。

これ以外にはあり得ない。

先ずはオゾンシャンプーをしなければならない。

頭皮の汚れを取って、育毛に努めて貰いたい。

血統的に禿げる事はないとは思うが、ここは念のために入念に毛穴の汚れを落とす必要があるだろう。

当人もそのつもりであった為、話が早かった。


「先ずはオゾンシャンプー!」

とやる気満々だった。

ご機嫌でなによりです。


シャンプーの担当はクリスタルちゃんだ。

クリスタルちゃんも手慣れたもので、相手が皇太子であっても通常営業だ。

いつもの聞くスタイルの接客が板に付いている。

これは俺の影響か?

だとしたら鼻が高いな。

相手が誰であれど、態度やサービスは変えてはいけないよ。

一お客さんに変わりは無いからね。

これは不変の『アンジェリ』の理念です!


問題となったのは王妃だった。

だってこの先一ヵ月間も通い詰めるのだからさ。


「今日は初日ですので、トリートメントにしましょうか?」

無難なチョイスだとそうなる。

だが・・・


「いや、それには及ばないわ。先日トリートメントはしているわ」

おっと!そう来ますか・・・やっぱりか・・・

だからあの意味深な視線だった訳ね・・・なるほど・・・


「そうですか・・・」

どうしようか?

これは困ったぞ・・・

やってくれるな・・・

さて、袖捲りをしようか!

スイッチを入れるぞ!


「よし!今日はセットにしましょう!」

通常ではあり得ない選択だが、俺は打って出ることにした。

ここは攻めるに限る。

守りの選択を選ぶタイミングではない。


「へえー、なるほど・・・」

王妃は俺の選択にニンマリとしていた。

ちっ!楽しんでやがるな。

まあいいでしょう。

ここは唸らせてやるぞ!


「お任せで良かったですか?」


「それは勿論」

フフフ、言質は貰いましたからね。

さて、気合を入れましょうか!

やってやりましょうかね!


今日のセットはポニーテールからの三つ編みにした。

それもエクステを混ぜ込んだ三つ編みを五束造った。

エクステの色は赤、青、黄、そしてピンクと紫だ。

意外なチョイスだが、攻めるとこうなる。

この世界初のエクステチョイス!

特別ですよ、王妃様!


このセットに唸る王妃。

してやったりの俺。

そして警護の者達の視線が痛い。

羨望の眼差しが王妃と俺に刺さっている。

何なんだこの髪形はと・・・

斬新でこれまでに見たことが無いだけでは無く、余りに似合っている。

そう言っていると俺は勝手に感じた。

たぶん・・・間違ってない・・・


満更でもない王妃は鏡に映る自分を楽しんでいた。

良し!まずは一勝!

ん?俺は何と戦っているんだ?

これは戦いのか?

違うよな?

でも一勝!だよね?


いきなりの変化球だが、俺はこの世界の人達の美意識を把握している。

奇抜な髪形が好きなんですよね?ってね。

俺は得意なんでね、奇抜な髪形は。

でも明日は趣向を変えようと思う。

これを続けるのは俺の趣味ではないしな。

何気に基本が好きなんですよね、俺は・・・




そんな王妃はいいとして、オゾンシャンプーを終えた皇太子は、自分の頭皮の汚れを見てガッツリと引いていた。

いや、マジであなたの頭皮の汚れですから。

そんなに引かれてもさあ・・・

食生活を反省して下さい。

詳しくはシュバルツさんに聞いてくださいよ。

しっかりとレクチャーしましたからね。

顔面の引き攣った皇太子が俺に告げていた。


「ジョニー店長・・・私も育毛剤が必要であろうか?」

もはや顔面蒼白と言っても過言ではないだろう。

それぐらい顔色が変わっていた。

やっぱり禿げたくは無いってことね。

気持ちは分かるよ。


「あったに越したことはないでしょうねえ」

ここは無難に答える。


「五本ほど頂けるだろうか」

鬼気迫る皇太子。

顔が引き攣っている。


「はい!喜んで!」

折角だ、ここはしっかりと稼がせて貰おうか。

フフフ・・・五本もいらねえだろうに、ガハハハ!

しめしめだな、しっかりと金貨を落としていって下さいな!

おっと、良くない商売人の顔が出始めているぞ。

悪代官になってしまいそうだ。

良きに計らえってか?




王妃と数名のお付きの者を残して皇太子達は帰っていった。

どうやらメイデン領の視察に伯爵邸に行くらしい。

この後は伯爵とメイデン領の見学なのだとか。

ちゃんと仕事はするみたいだ。

どうせ格好だけだろうけどさ。

仕事してますアピールってか?

もう国王で見慣れたからね。

でも何もしない訳にもいなかないんだろうね?

王家は大変だねえ、世知辛いねえ・・・知らんけど。


王妃はお店の見学がしたいらしく、

「ジョニー店長、今日は終日お店を見学してもよいか?」

面倒臭い事を言われてしまった。


思わず嫌ですと即答しそうだった自分を押し殺したよ。

なんでそんな事をするのさ?と聞きたくなったよ。


本当は断りたかったが、そうともいかず。


「警護の人達は店外でもいいなら大丈夫ですよ」

百歩譲るとそうなる。


「ふむ、その様にせよ、よいな」

王妃は警護の者達にそう告げた。

あー、そうなるんだ・・・

お客さんが恐縮するから本当は嫌なんだけどね。

見学の目的は分からないが、何かしらの意図があるのだろう。

この王妃が無意味にこんな行動に出るとは思えないしね。

本当は遠慮して欲しかったな・・・まあいいか。

さあ、いつも通りの営業を始めましょうかねえ。

全く・・・




王妃の見学に俺や家のスタッフは通常営業だが、お客さん達は恐縮してしまっているので、ブラックサンダーを配っておいた。

なんの足しにもならないけどね。

当の王妃もブラックサンダーに舌鼓を打っていた。

皆な好きだよね?ブラックサンダー。

多少は馴染んだかもしれないね・・・どうだろうか?


王妃はにこやかに店内の様子を眺めている。

数時間も経つとお客さん達も通常運転になっていた。

いつもの事と平然としていた。

このお店の雰囲気がそうさせているのかもしれないが・・・相手はこの国の最重要人物ですよ?

要らない事は口にしないで下さいね。

いつものウィットに飛んだ会話を楽しみましょうね。


このお店のお客さん達にとっては、国王だったり伯爵だったりがよく来ていたから、慣れてきているのかもしれないな。

これも俺の影響ってことなのか?

よく分からんよ・・・

どうでもいいか・・・




カットの予約の女性が来客してきた。

彼女を意味深に眺める王妃。

その視線は鋭い。

黒髪でお下げの三つ編み、二十代半ばの女性。

多少の化粧を施してはいるが、印象としてはおぼこく見える。

身なりとしては町娘といった具合だろうか?

纏っている雰囲気もそんな感じだ。


彼女の表情は明らかに沈んでいた。

こうなってくると否でも察する、これは何かあったな?

自然とその一挙手一足等に注目してしまう。

これは職業病だな。

どうしてもお客さんの表情を読んでしまう。

美容師とはこんなものだろう。


先ずは受付で手荷物やらを受け取り、おしぼりを手渡す。

いつもの手慣れたルーティーンだ。

彼女は待合のソファーに座る王妃に一瞬驚いていたが、何かを思い出したのか、再び表情を曇らせている。

これは根深そうだぞ・・・どうしたものか・・・


「こちらにどうぞ」

俺は彼女をカット台に誘導した。

それに従うお客の女性。


「今日はカットでよかったですか?」

敢えていつものテンションで問いかける。


「ええ・・・はい・・・」

彼女は下向き加減であった。


「どうかしましたか?」

さて、ここからはヒアリングの時間だな。


「あ・・・ええ・・・ちょっと・・・」

その視線は定まっていない。

ドギマギとして、目線が泳いでいた。


「良ければ話を聞きましょうか?その後に施術内容は決めましょうか・・・急いで決めなくてもいいですよ」

俺の一言に彼女は鏡越しに俺を見つめると、恥ずかしそうに表情を改めた。

恥ずかし気にしている様が可愛らしい。


「あの・・・実は・・・昨日彼氏にフラれまして・・・他に好きな子が出来たって・・・はあ・・・」

ほう、そうきましたか。


「なるほどね」

意味深に頷く俺。


「そのことばかり考えちゃって・・・」

でしょうね、それでは・・・こうしましょうか。


「じゃあ、今直ぐ可愛くなって、その元カレを悔しがらせましょう!逃がした魚は大きいぞってね!」

俺は大きな声でお客さんに言い聞かした。

その言葉にハッとするお客さん。

その眼は見開き、期待の眼差しに満ちていた。


「ジョニー店長!デカい魚って、失礼ですよ!」

シルビアちゃんからツッコミが入る。


「そうか、ごめんごめん」


このやり取りにお客さんが、

「大丈夫です!大きな魚で結構です!私を可愛くして下さい!」

可愛くしてくれ宣言をしていた。


よしよし!こうでなくっちゃね!

そうなるとカットでは済まないぞ。

気合を入れなおそうか!

オーダーは変更になるな!

チーム『アンジェリ』で挑もうか、行くぞ!


「オーダーを変更するよ!ここは可愛くなりましょうよ!施術内容は俺達に任せて下さい!いいですよね?」


「はい!」

羨望の眼差しで俺を見つめるお客さん。

良し!言質は捕ったぞ!

ここは腕の見せ所だ!

さあ、やろうか!


「カラーカットに、緩くパーマもあてましょう。シルビアちゃん、マリアンヌさん、クリスタルちゃん、予約ずれ込むけどよろしくね!」


「了解です!」


「はい!」


「OKです!」

これはいつもの事と笑顔で返答する家のスタッフ。

これは最早阿吽の呼吸である。

さあ、可愛くなりましょうかね!




数時間後。

このお客さんは軽い内巻きパーマに、エアリー感が感じられ仕上がりになっていた。

おぼこい印象は可愛いに変化していた。

そして可愛さを強調する前髪を造り、長かった髪も、肩に触れる長さに変わっている。

黒髪は明るめのブラウンヘアーとなっていた。


垢抜けた感が半端ない。

人が変わったのではないかと疑う程に、可愛さが増し増しになっていた。

あり得ないぐらいに人が変わっていたのだ。


彼女は笑顔に溢れていた。

鏡に映る自分に酔い知れていた。

付き合っていた彼にフラれた事等どこへいったのやら。

今はマリアンヌさんから化粧の指導を受けていた。


可愛くなった自分に自信を取り戻したのだろう。

背筋が伸びて、晴れやかな笑顔に満ちていた。

俺はこの笑顔が大好きだ。

これが美容師の本懐ってね。

写真に収めたいぐらいだ。


こんなやり取りを片肘を付きながら、微笑ましく王妃は観察していた。

軽くウンウンと頷いている。

しかし時折、その眼に真剣な眼差しを宿していた。

それを気づけた者は少ない。

その胸に去来する想いは如何に・・・

それは王妃のみぞ知るである。



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