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異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第2章 成長期 王冠の呪い編

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晩餐会その1

晩餐会の入念な準備が進められていった。

俺はドレスに似合う髪飾りを3人にプレゼントした。

全員が喜んでくれたよ。

この一週間は練習も程々に、様々な髪形を試すことになった。

全員がノリノリだ。

結構な数のヘアースプレーを使ってしまったよ。

これは全部経費だな、自腹なんてあり得まへんがな。


ふざけてシルビアちゃんをリーゼントにしたら、無茶苦茶ウケてしまったよ。

それもいい意味でだ。

ん?なんでだろうか?

そしてシルビアちゃんは満更でもないご様子。

どうしてだろうか?

鏡に向かって決め顔をしている。

はいはい、よく似合っていますよ。


クリスタルちゃんには工●静香ばりの前髪を立たせ捲った髪形にしてみた。

そして前髪以外はソバージュだ。

ひと昔前のキャバ嬢みたいだ。

こちらもなぜか気に入ってしまったご様子。

鏡から離れようとしない。

もしかしてこの世界ではありなのか?

まさかね・・・

でもこの違和感は・・・

あり得るぞ・・・

ここは修正が必要かもしれないな・・・


マリアンヌさんはクルリンパで巻き込んだ髪を上に挙げるスタイルだ。

もうふざけるのは止めよう。

そして髪飾りが絶妙に似合っている。

うん、この髪形は着物に合わせるべきだろう。

ちょっと成人式に引きずられているかな?

でもドレスにも似合っている。

マリアンヌさんは大人の色気を漂わせていた。

よっ!貴婦人!

でも・・・


結局の所、楽しい準備期間となった。

それにしても初めての晩餐会。

どうなることやら。

ちょっと楽しみだな。




晩餐会当日。

晩餐会の準備が進められていた。

今はまだ早朝の時間だ。

こうなると成人式を彷彿とさせる。

朝の早い時間から着付けや髪形のセットを行い、成人式の準備を行う。

この日ばかりはアラームに頼るしかない。

だって早朝の五時前に起床しなくては間に合わないからね。

お客さんが来店してくれた時に、ちゃんとお店が温かい様にエアコンのスイッチも入れておかないといけないしね。

残念ながらお店のエアコンにはタイマーがないのだよ。

お店のエアコンともなるとそんなものである。

ああ・・・タイマー入りの業務用エアコンが欲しい。


成人式は美容院にとっては大事な年に一度の行事である。

またはお祭りとも言う。

ある意味年間を通じての最大の行事となる。

成人式の予約は、早ければ一年前から受け入れていたりもする。

この日に向けて、様々な準備を年間を通じて行っている。


成人式の着付けの予約数によっては、お店のスタッフだけでは捌ききれない為、協力店に応援を依頼したりもする。

それに提携している着物屋さんや、写真館からの予約もあったりする。

この日ばかりは日常とはいかない。

非日常がそこにはあるのだ。

そして様々な者達の想いや思惑が介在する。

因みにものの半日でその売上は大きな金額になる。

通常の営業で得られる金額でいえば、一週間分に匹敵する。

正に掻き入れ時なのである。


ここで問われるのは着付けの技術だけではない。

その髪型のセットには一生に一度の装いである事を象徴とする、豪華なセットが成されることになる。

普段ではあり得ない髪飾りや、髪形。

これに全てが凝縮されている。

皆が皆、注目を浴びたい。

そして自分が一番輝きたいと想起する。

その想いをどれだけ受け留め、表現できるのか。

そこに美容師の意識は集中する。

自分の持てる力の全てをここにぶつける。

人によっては記念写真やらを撮り、一生の記念日となる。

成人を迎える子をもつ親にとっては、感慨深い一日となるのだろう。

何度も打ち合わせを行い、それを自らの力で最大限のサポートをする。

力が入らない訳が無い。

この日は正に祭りである。


成人式は美容師にとっては力が試される場となる。

一生に一度を最高のものに出来るのか?

その想いを叶えられるのか?

お客さんにとって満足のいく一生に一度に出来るのか?

その存在意義が試される。

ある意味年に一度の腕試しとなるのだ。


成人式そのものは昼前に開催される。

でも準備に時間がかかるのは必然だ。

施術を受ける側も大変である。

これはある意味成人式を迎える通過儀礼だ。

受ける側も我慢が試される。

速い人は早朝前の四時には起床しなければならない。

でもこれは一生に一度。

誰もがここに努力を惜しまないということだ。

その想いは最高の一日にしたいからである。




今日開催の晩餐会は18時からだ。

であるのに既に準備は始まっている。

早朝の6時にはお店の準備が成されており。

この後に参加する者達の、晩餐会用の髪形のセットと衣装合わせが整えられていくのだ。


実にジョニーは大忙しの一日となる。

ジョニーは肩を回しているが、既にお疲れさんと言いたくなる。

その理由は噂を聞きつけたライジングサン一同と、マリオ夫妻も髪をセットし、施術することになったからだ。

晩餐会は夜からだというのに。

通常の営業とは訳が違う。

ここは施術のほとんどがジョニーにしか出来ないことだ。

その為この様な時間配分となる。

でもシルビア達弟子も、出来る事がしたいと全員が特別シフトであったりもする。

学ぶ姿勢を崩さないジョニーの弟子達は天晴だ。

普通はなかなかこうはいかないものである。

頭の下がる思いであった。


真っ先にお店に訪れたのはシルビアだ。

マリオとイングリスを伴って来店してきた。

マリオとイングリスは嬉しそうにしている。

その表情は晴れ晴れとしたものがあった。

愛娘と共に晩餐会に参加できることが誇らしいのだろう。

イングリスは緑色のドレスを着こんでいた。

妖艶な大人の女性の魅力を演出している。

マリオは黒のモーニングに似た衣装であった、燕尾服にも似ている。

紳士的な装いが板に付いていた。

二人にはお似合いの衣装だった。


「今日はお世話になります」

マリオはジョニーに頭を下げる。


「よろしくお願いします」

イングリスもそれに倣う。

それを慇懃に受け入れるジョニー。

既にスイッチが入っているのだろう。

その視線は鋭い。


実はマリオとイングリスもこの晩餐会に参加することになっていた。

これは美容院『アンジェリ』というよりも、マリオの功績が大きい。

マリオは今では王族のお抱え商人となっている。

その筋からのお誘いであった。

マリオは誇らしげだ。

優雅に口髭を触っている。

今日は定番のハットは被っていない。

マリオはもう頭を隠す必要はないからだ。

まるで貴族の様な装いをしている。

胸を張ってとても自慢げだ。


さっそくジョニーはイングリスの髪型を作っていく。

その視線には余念が無い、既に高い集中力が漲っている。

迷いなくその施術が行われていくのだろう、そう思わせる程気合が入っている。


シルビアも見逃さないと真剣にジョニーの手元や姿勢を凝視している。

その視線には学ぼうとする熱意が込められていた。

ジョニーは櫛とヘアースプレー、そしてヘアードライヤーを駆使して施術を行い始めた。

集中と緊張の時間が開始されていた。


そこに遅れて申し訳ないと、マリアンヌが駆け込んできた。

よほど急いできたのか、冬場であるのに汗をかいている。


「マリアンヌさん、手伝ってもらえるかな?」


「はい!今直ぐ!」

マリアンヌは挨拶も程々に、荷物と衣装をバックルームに投げ入れると、ジョニーの指示を受けて手伝いを開始した。

マリオも唸りながら、真剣にジョニーの施術を見学していた。

施術を受けるイングリスは笑顔だ。

いつもとは違う髪形になる事を嬉しく受け留めている。

目尻が緩んで微笑ましい。


店先ではライゼルが雪を掻き分けて、庭先の手入れしていた。

こんな時でもこいつのマイペースは変わらない。

それを無視してライジングサン一行は店内に入ってきた。

全員が既に着飾っている。

リックはライゼルを一瞥する、いい加減にしてくれとその表情が語っていた。




店内は熱気に溢れていた。

ジョニーは神業の如く手を動かし続けている。

それに反応して、弟子達がサポートに入る。

これは何なんだと、一瞬狼狽えるリックであったが、気を取り直すと自分に出来る事を始めた。

こいつの視野は広い。

今自分に出来る事を即座に考える思考の持ち主だ。

メイランは期待の眼差しでジョニーの施術を眺めていた。

この後自分が施術を受けるのだからそうなるのだろう。

モリゾーに関しては意味もなく右往左往している。

まるで挙動不審者だ。

こいつはどうでもいいだろう。




昼を迎える頃には、半数以上のセットが完成していた。

でもまだまだこれからだ。

ジョニーの施術を待つ者は半数要るのだ。

ジョニーの手が止まる事はない。


ジョニーは一度肩に手を置くと、流石に疲れたと昼食を摂る事にした。

そんなことになるだろうと、リックが先回りして昼飯を準備していた。

とは言っても、冷凍食品を電子レンジで温めていただけに過ぎない。

味●素のザ★チャーハンだ。

これがジョニーのお気に入りだったりもする。

既にマリオとイングリス、そしてライジングサン一同は昼食を済ましている。

ジョニー始め、弟子達はチャーハンを搔き込んでいた。

まるで飲み込む様に食べきると、颯爽と席を立つ。

ハーフタイムを終えたサッカー選手を彷彿とさせる。

全員がやる気に燃える視線を漂わせていた。


「メイラン!お待たせ!」

ドレスを着こんでいるメイランをカット台に誘導するジョニー。

緊張の面持ちでカット台に座るメイラン。


「よし、始めよう!」

気合満々のジョニーが気勢を上げる。


「「「はい!!!」」」

弟子達がそれに続く。

ここに最高の師弟関係が存在した。

もうこうなると留まる事等あり得ない。




日が傾き、灼熱の太陽がもう一日の終わりを告げようとしていた。

この季節の日暮れは早い。

まだ午後の5時に成ろうかという時間であった。

既に世界は暗闇が覆い尽くそうと、その影を伸ばしていた。

そしてその世界を見守ろうと半月が空に姿を現す。

まるで夜の女神がその美貌を曝け出すかの如く。

この時期の世界の夜は深々と、その音を刈り取ったかの様な世界に染まるのだが、今日だけはそれを許してはくれない。

情熱と、熱気が、まるで大地を覆う一面の白雪を溶かすかの様に、現存していた。


マリオが準備した馬車が美容院『アンジェリ』に到着していた。

これは四頭立ての立派な馬車だった。

本来であれば伯爵からの迎えの馬車が来る予定であった。

でもここは私がと、マリオが馬車を用意した。

マリオの譲れない処である。

それはその筈で、今では馬車といったらマリオ商会とその名を轟かせていたからだ。

相手が伯爵であったとしても、ここは譲れないということだろう。

マリオは鼻高々に馬車に乗り込んだ。

実に三台の豪華な馬車が乗り付けている。

その馬車に颯爽と乗り込む一同。

全員が自信満々の表情を浮かべていた。

まるで一騎当千の戦士達が、戦場に向かうかの様に。


そしてジョニーと弟子達はたくさんの紙袋を携えていた。

これはいったいなんであろうか?

とても興味がそそられる。

ここにマリオの声が響き渡る。

「伯爵邸にいざ参らん!」




時を遡り、数日前のこと。

こんな秘密のやり取りがあった。

オゾンシャンプーを受け終わった後の国王が、やっと産毛が生えだした頭頂部に視線を向けながらジョニーのブローを受けていた。

これまでの国王であれば、気持ちよさそうに解けた顔をしているのだが。

その国王の様子がいつもと違い、塞ぎがちである事をジョニーは感じ取っていた。

そんな国王にジョニーが話し掛ける。


「国王様、何か悩みでも?」


沈んだ表情の国王が徐に、

「ジョニー店長・・・実はな・・・王妃から便りが届いたのだよ・・・」


「便り?手紙ですか?」


「そうである・・・」

国王は視線を落として、落ち込んでいる。


「それで?」

ジョニーは話を促す。


「余は離縁を言い渡されるのやもしれぬ・・・」


「はい?どうして?」

これは只事ではないと眉を寄せるジョニー。


「王妃はおかんむりなのだよ・・・」


「はあ・・・」


「余はこのお店の事を知ってから、無我夢中でこの地を目指した・・・」

みたいだねえと頷くジョニー。


「・・・」


「それを怒っておるのだよ・・・」


「ん?」

意味が分からんと眉間に皺を寄せるジョニー。


「王妃に言わせると、自分を差し置いて美容院に行くとはけしからんということであるのだよ・・・」


「なるほど」


「以前から余の禿げを王妃は気にし過ぎだと咎めておったのだ・・・」

ああ・・・そういうことか・・・と納得しているジョニー。


「・・・」


「このお店のこと知った王妃は自分を差し置いて美容院『アンジェリ』に、余が一目散に向かった事が許せぬとの事だ・・・」


「でしょうね」

だから先日女性用の化粧品やらを大量に買い漁っていた訳だな、とジョニーは頷く。

得心がいきましたよとその表情が語っていた。


「余が王城を離れてしまった故、王妃は王城を出られぬ・・・やってはいけない事をしてしまった・・・」

国王不在の王城を、皇太子だけに任せておくのでは心許ないということだろう。

万が一の時を想定するとそうなるのは必然。

まだまだ王位を継いでいない皇太子では、その権限は限られている。

そこにサポートする形で王妃が居なければ、万が一の時に事を成す事等出来ない。

そんな処だろう。


やっちまったね、国王。

今にもこう言い出しそうなジョニー。

不敵な笑みを浮かべている。


「そこでだ・・・ジョニー店長・・・どうすればいいだろうか?」


「はあ?・・・」

なんで俺を巻き込むのかとイラっとしているジョニー。

もうこの男は国王相手でも本心を隠そうとしていない。

まるで親戚のおじさんを対応している様な雰囲気すらもある。

全く遠慮は感じられない。


こう言ってはなんだが、少々雑な扱いをしている。

相手が国王であるのにだ。

これはジョニーだからこそ許されている態度だ。

国王の肝を掴んでいるジョニーだからこそである。

他の者がこの様な態度を取った日には、不敬であると言われかねない。

それ処か、不敬罪だと投獄されるだろう。

それを知ってか知らずか、ジョニーはその対応を楽しんでいる節すらもあった。

大胆不敵と言わざるを得ない。


「うーん・・・何かプレゼントするしかなさそうですね・・・」


「やはりそうであるか・・・」


「そうなると・・・」


「ん?何か良いものがあるのか?」

鏡越しに期待の眼差しでジョニーを見つめる国王。


「ちょっと考えさせて下さい」


「おお!頼りになるでは無いか!流石はジョニー店長!歴戦の猛者よりも頼りになるではないか!オホホホホ!」

表情の向け落ちた顔で国王を見つめるジョニー。

いい加減にしろと言い出しそうである。

あっ!頭をペシッとしそうだ。

それは止めておけ、ジョニーよ。




馬車の中ではやっと一息付けたと、ジョニーは肩を落としている。

相当お疲れのご様子。

その他のメンバーは全員が喜々としている。

バッチリときめ込んだ髪形に、衣装が煌びやかだ。

意気揚々としている。

全員がいつもとは違う出で立ちを楽しんでいた。


そして馬車に揺られる事40分。

遂に馬車が伯爵邸に到着した。

馬車が停止する音が木霊する。

御者が警護の者に要件を告げると伯爵邸の中に誘導された。


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