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異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第2章 成長期 王冠の呪い編

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日常その3

営業中のトークは続く。

このトークだが、俺は基本的に話すよりも聴く事に重点を置いている。

その理由はいくつかあって。


まずは手を動かしながらであることが挙げられる。

このながらであることは重要で、鏡越しではあるものの、会話中に視線を合わせることは、接客する上では大事な要素である。

簡単な話、目線を合わせることで、ちゃんと聴いていますよ。

または聴いていますか?を確認しているのだ。


でも髪に集中しなくてはならない局面においては、視線を鏡に向けることは出来ない。

どれだけ熟練の美容師であっても、手の感覚だけで髪をカットすることなど不可能だ。

それに俺はそんな美容師を目指してなんかいない。

不確かな施術なんて出来なくてもいい。

ちゃんと自分の眼で確認しながら施術は行いたい。


人とは不思議なもので、自ら話す時には相手の眼を見ようとする。

中には照れや、罪悪感や自信の無さでそれをしない人も居るが、大半の人は相手の眼を見てしまうものだ。

でも聴くに関しては、相手の眼を見たにこしたことは無いが。

何かをしながらであった時には、視線が合わなくても許されるものである。

特に自分の髪を施術して貰っている時にはその傾向は顕著に表れる。

逆に会話に集中し過ぎて手が止まっていたら、仕事をしてくれと言いたくなる。

それに話を聴いていますよのサインは、何も目線に拘る必要はない。

それは頷いたり、相槌を打つことでも聴いていますよのサインになるのだ。


そう言った理由があって、俺はオープンクエスチョンを多用する事にしている。

オープンクエスチョンとは、イエスかノーで答えられない質問のことである。

逆に、イエスかノーで答えられる質問はクローズドクエスチョン。


例えば、

「マッサージは気持ちいいですか?」

の質問はクローズドクエスチョン。

これはイエスかノーで答えられる。


「今日はどんな髪形にしたいですか?」

の質問はオープンクエスチョンとなる。

イエスかノーで答えられない。


オープンクエスチョンを用いることで、話の主導権を相手に渡すことになる。

実はこれがトークの秘訣であったりもする。


次に人は話をよくする人よりも、よく話を聴いてくれる人を良い人だと感じる傾向にある。

よく話をする人は面白いと思われることもあるが、逆に胡散臭いであったり、何か隠して無いかと疑われる事すらもある。

それにおしゃべりな人は単純に煩いなあと感じるものだ。

いい加減黙ってくれよと言いたくなる。


でも、不思議なもので話を聴いて貰うと人は嬉しくなる。

話を聴いて貰う事に幸せを感じてしまうのだ。

自分の事を知って欲しいという願望が人には強く存在するのだ。

そして共感して欲しいという想いも本能的に持っている。

この様に聞く事に重きを置く事に価値があるのだ。


使い古された言葉ではあるがこんな言葉がある。

「口はひとつ、耳はふたつ。話すよりもよく聴きなさいという、人を創った神のメッセージであると」

その言葉を真に受けている訳ではないが、実際に接客する上では重要な事であると、俺は心得ている。


そして話の主導権を相手に渡すことによって、会話をしたくない事を察知する為でもあったりする。

美容院で話をしたくない人、もしくは聞きたくない人は一定数いる。

実際にそれを売りにしている美容院すらもある。

気持ちは分からなくもない。

考え事があったり、単純に話したく無い時だって俺にもある。

何も話し掛けてくれるなと言いたい時だってある。


コミュニケーションが面倒臭いであったり、苦手な人もいる。

そこに配慮したいからである。

話したくない人は、話の主導権を与えると、その態度や仕草に今日は話したくないが現れるのだ。

それを慮ることにしている。

俺は最大限お客さんを尊重したいのだ。

こちらの良かれや、価値観を押し付けたくはない。

俺は気分で対応はしたくないのだ。

ここに俺は接客のプロ意識を置いている。

逆に俺がこれをやられてしまったら、イラっとする事は明白だ。

自分がされて嫌な事は他人にはしたくないという事だよ。

これが接客の極意である。




この様な俺の接客姿勢を、家のスタッフの3人には語って聴かせたことがある。

話すつもりはなかったのだが、接客の重要性に気づいたクリスタルちゃんから。

「ジョニー店長、接客とはなんでしょうか?」

そう問われてしまったのだ。


そもそも求められたら教えようと考えていた俺は、それを実行したということだ。

偉そうに語らせて貰いましたよ。

柄にもなくさ。


三人は真剣に話を聴いていたよ。

クリスタルちゃんはちゃんとメモをとっていた。

シルビアちゃんは頷き続けていたし。

マリアンヌさんは相槌を打っていたよ。

そうそう、そうやって人の話を聴くんです。


最後に話を聴くようにしている理由はこの世界を知る為でもある。

まだまだこの世界の常識や価値観、道徳観等を俺は持ち合わせてはいないのだ。

ここは謙虚に頭を垂れておくべきだろう。

存外不要と感じる世間話も、そういった角度でみて見ると、様々な発見があったりもするからだ。


例えば、この世界には日本ではあり得ない魔法がある。

この魔法は実に万能で、一定の限られた者のみが所有しているらしいのだが、電話擬きが存在する。

それを可能としたのは魔法があるからだ。

通信の魔法という、そのまんまのネーミングの魔法ではあるのだが、それが遠距離での通話を可能としている。

緊急性を必要とする施設には備わっているらしい。


逆をいえば、この世界には電力が存在しない。

厳密には発明されていないだけなのだが。

その為、科学的な側面は見かけないし、耳にもしない。

おそらく科学的な要素を魔法で代用しているのだと思う。

だが圧倒的にその数は足りていないのだが・・・

こういった両世界間の違いを知ることはまだまだ必要であると感じる。


他にも冒険者達が正にそうであるのだが、貯金するなどの価値観がほとんど無い。

商人は話が別だが、他にもその日暮らしな生活を行っている人達は結構多い。

日本では考えられない価値観だ。

おそらく経済の違いから生まれる価値観なのでは無いかと想うのだが・・・

どうだろうか?

まったく貯金を持ち合わせていないなんて、俺には想像も出来ないよ。

まあ、とは言っても俺も駆け出しの頃は似た様なものだったのだがね。

でも今と成っては急な事故などにあった時に、生活が困窮するなんて嫌だからさ。

多少は俺も貯金をしているよ。

額は公表はしないけどね。




そして夕方を迎えると店先が騒がしくなる。

18時頃にはライジングサンの一行が、勝手にバーベキューの準備を始めている。

本当に困った奴らだ。

でもお客さん達の評判では、ライジングサンはこの領内では最強の冒険者パーティーであるらしい。

意外にもライゼルは人気者で、ファンもいるとのこと。

俺は眉唾ものだと睨んでいるがね。

だってライゼルだよ?あり得んでしょうが?

ライゼルが人気者?フン!

ここは鼻で笑ってやろう。


そしてこいつらは無遠慮にバックルームに入ってきては。

業務用冷蔵庫から肉やら野菜やらを持っていく。

まあそもそもこの肉や野菜を持ってきたのはこいつらなんだから、文句は無いのだけれどもね。

俺も勝手にこの肉や野菜を使っているからさ。

お互い好きにやっているという事だよ。


使い慣れたバーベキューコンロに薪を並べて火を燈す。

もはや手慣れた作業だな。

特に困っていないから別にいいけど、稀にまだいるお客さんには気遣ってくれと言いたくはなる。

それを察知してか、リックがフォローに入ってくるものしばしば。

リックは苦労者だな。

頭が下がる思いだよ。

ある意味この冒険者パーティーのリーダーはリックである。

俺はそう睨んでいる。

決してライゼルでは無い。


そして19時前にはドM眼鏡が混じって来る。

来なくてもいいのにね・・・

何しに来ているのだろうね?

毎回さあ。

こうして夜の異世界バー『アンジェリ』がオープンすることになる。




それを尻目に家のスタッフに俺は賄いを作る。

正直言えば最近は手抜きが多い。

というのも俺は最高の手抜きを覚えてしまったからだ。


そう、冷凍食品である。

無茶苦茶助かるー!!!

もはや救世主だよ!

レンチンだけで全てが終わる。

ああ・・・これは神の御業だ。

最高の贅沢だよ。


特に喜ばれているのはから揚げだ。

特●らから始まり、味●素のザ★から揚げ、他にも後を絶たない。

なんなんだよ冷凍食品ってよう。

無茶苦茶上手いじゃねえか。

もうこうなったら料理をする必要は無いんじゃないかい?

そう思ってしまうよ。


それにチャーハンだよ。

ふざけんな!

旨すぎるだろう!

どれだけのラインナップで顧客を惑わすってんだよ!

どれも旨すぎるだろうが!

もう今ではどれが一番旨いのかランキングをスタッフ内で行っているよ。

無茶苦茶白熱しているし。


特に吉●家の牛丼、お店の味をご家庭にって・・・

もう来店しなくてもいいってことですよね?

違いますか?

もう俺はお店には行きませんよ!

家庭でこの味を堪能させて貰いますよ!

それでいいんですよね?

間違っていますか?


こうなってくると感覚はバグってくる。

料理の正解なんて分かりませんての。

俺達大衆は只単に、旨い物を安く簡単に短時間で食したいだけである。

まあ美容師に限った話しかもしれないけどね・・・

だって、ここで俺達は終わらないからさあ。

短時間で食べる事に手慣れているのだから。

ある意味ここからが本番なのだ。


でも俺から言わせると。

良い手抜きが見つかったな・・・

という話である。

手抜き・・・好きですよ。

否、大好物ですよ!

もっと俺に手抜きをさせて下さい!

って言ってもいいのかな?

いいよね?


いずれにしても冷凍食品の破壊力は半端なく。

お店の冷凍庫には何かしらの冷凍食品が常にあって。

自由に食べていい事になっている。

ほんと重宝しているよ。

これを喜んだのは言わずもがなのシルビアちゃんだ。

だって彼女はまだまだ成長期なのだ。

それに冷凍食品は主食に限った話しではない。

そう、スイーツの冷凍食品もあるのだ。


彼女のお気に入りは今川焼だ。

別名ぶんちゃん焼きともいう、円盤焼き?

よく分からんよ・・・

地方で呼び名が違うのは勘弁して欲しい。

言葉って難しいな。

やれやれだよ。




そんな話はいいとして。

ここからは自由な時間と熱気の時間が融合する。

どういう事かというと、夜のバーの営業は俺達は殆どノータッチに等しい。

ここはライゼルというよりリックに俺は任せている。

リックは優秀だ。

前面的な業務だけに留まらず、後方系もちゃんと行っている。

それに常に全体感を把握している。


時にシルビアちゃんと日計表を基に売上を計算しているぐらいだ。

この夜の営業の支配人は実はリックだったりもする。

でなければ俺は夜の営業を認めたりはしない。

リックは優秀だ。

俺はそのバックボーンを知っているが、家のスタッフ達はそれを知らない。

でもそれを知らなくともこいつの優秀さが群を抜いているのだから、認めざるを得ないのが現実だ。

ある意味この時間の店長はリックだったりもする。

ライゼルになんて任せられない。

そうなってしまっては、ぐずぐずになってしまうだろう。

それはあり得ない。


夜のバーの営業。

いいんじゃないですか?

そういうのも、嫌いじゃないですよ俺は。

時間帯によっては変貌するカメレオン店舗ってね。

好きですよ。

悪くないんじゃない?


冒険者達だけでは無く、最近では商人なんかもこの時間に店先に訪れて、ビールやワインを楽しんでいたりもする。

稀に家族連れがやってくることもあったりする。

その時は子供達にはジュースが提供されている。

リックが捌いているのだ。

俺に意見などないよ。

よっ!支配人!

後は任せた!


それにしてもライゼル達は分かるのだが、ドM眼鏡はいったい何がしたいのだろうか?

さっぱり意図が読めないのだが・・・

バーの店員がやりたかったということなんだろうか?

でも、時々お手伝いの手を止めて、シルビアちゃん達の練習を真剣に眺めていたりもする。

実はこっちが本命だったりして・・・

ならばそう言ってくれればいいのにな。

まあ他っておこうか。

こいつだけは意味不明だ。

さっぱり分からんよ。


最近ではここに国王が混じってきているのだが、詳細は省くことにするよ。

でも折角だから簡単に話をすると。

結局の所、ライゼルと国王が再会を果たしてからは、ライジングさん一同はこれまで通り夜の営業を行っており、これまでと変わらない日常が戻ってきている。

それを知ってか、これまでバーの営業時間に訪れていたお客さん達も戻ってきたということだ。

でも国王が居る事もあってか、その表情は緊張感で溢れている。

ならば来なければいいのにね。

そんなにビールが飲みたいのだろうか?

気持ちは分からなくはないが・・・


最近では簡単な軽食も提供されている。

とは言ってもおつまみなんだけどね。

一番簡単なのは冷凍食品の枝豆だ。

だって、水で洗い流すだけなんだもんね。

これは料理とはいえないな。

ただ提供しているだけである。

であるならばライゼルやモリゾーにも出来ることだ。

ライゼルは未だしも、モリゾーは本当に不器用だからな。

それに驚くほどにおっちょこちょいだ。

でも水洗いぐらいは出来て当然。

これぐらい誰でも出来るでしょうよ。

それでもたまに枝豆を落としたりしている・・・

俺は知らんぞ・・・リック、お前に任せたからな・・・


そして人気が高いのは冷凍食品のピラフだ。

これも電子レンジで温めるだけだから、モリゾーでも扱える。

このピラフに関しては、どのメーカーのピラフが一番旨いのかというグランプリが、人知れず開催されていたりもする。

どれも全部美味しいよ、なんて俺は言えないよ。

それ程までに熱を帯びている時もあるからだ。

他にも冷凍食品が様々あるのだが、言い出したら限が無いのでまた後日としておこうか。


あとはお菓子だ。

ポテチや駄菓子を紙皿に盛り付けて提供している。

そしてポテチは恐ろしい程に人気が高い。

バックルームにはビックバックが所狭しと並んでいる。

こうなるだろうなと予想は出来ていたので、俺は塩味しか準備していない。

本当はコンソメもと考えていたが止めておいたよ。

ここは余裕が出来てからだな。

だってバックルームのスペースがさ・・・


他にも煎餅や柿の種が振舞われている。

要は俺の買い出しを必要とする物だ。

これでコ●トコに通う意味を分かってくれるよね?

それなりに大変なんですよ。


でも日本での倍以上の金額で販売しているのだから何も文句はない。

詰まる所、夜のバーの営業はリックに丸投げなのである。

まあこいつらにしてみても、良い息抜きとバイトになっている様だ。

給料計算なんかも全てリックに丸投げだ。

それにちゃんと利益が出ている。

俺は買い出ししかしていないのにだ。

だってシルビアちゃん達の練習に俺は付き合わないといけないからね。

丸投げって最高だな!

ナハハ!


国王には食べすぎ注意を言い渡してある。

毎回シュバルツさんに咎められては下を向いている。

時々ここに伯爵が混じっている時もある。

流石にここでは伯爵も息抜きになるみたいで、笑顔の花が咲いている。

気が付くと、国王とライゼルが仲睦ましくしているのをちょいちょい見かける。

お互い笑顔でなによりだ。

この様な日常が『アンジェリ』では繰り広げられていた。



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