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異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第2章 成長期 王冠の呪い編

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VIPが御来店

あの不思議なヘンリーなる人物の予約の時間を迎えていた。

店内はいつも通りなのだが、どうにも先ほどから店先が騒がしい。

いつもとは違う慌ただしさがある。

なんだってんだよ、いったい。

あれ?伯爵?

なんで伯爵が・・・

店内から外を見ると、伯爵が馬車から降りて来て、後方を眺めていた。

隣にギャバンさんが並び立ち、同様に後方を眺めている。

ん?何やってんだ?あの人達?

すると軽く頭を下げる二人。

それに倣ってお付きの者達も頭を下げる。

樹でよく見えないが、俺から見て右手奥の方から、豪華絢爛な馬車らしき物が現れた。

しっかりとは見えないが、存在感の塊の様な気配を感じる。

嘘だろ?!・・・

これは只事ではないぞ。

どうなっているんだ?


店先の道路に伯爵の馬車の倍近くはある馬車が停車した。

おいおいおい、王様でも来るってか?

聞いて無いぞ!

ヘンリーって・・・王様なのか?

いや、まさかな・・・

只の偽名だろう?


馬車の裏側の扉が開き、執事らしき人物が回り込むと馬車の扉に手を掛けていた。

ん?あの執事って・・・ギャバンさんに似て無いか?

気の所為か?・・・

いや待てよ、確かギャバンさんのお兄さんって・・・

国王の執事だった筈・・・

マジか?


「えっ!嘘でしょ?」


「そんな・・・」


「あり得ない・・・」

お客さん達が一様に声を漏らしている。

俺も流石の出来事にハサミを持つ手が止まっていた。

シルビアちゃん達スタッフ一同も、何事かと手を止めている。

全員が馬車に注目していた。


そして徐に馬車の扉が開かれた。

すると更に頭を下げる伯爵一行。

それに倣ってお客さん達まで軽く頭を下げている。

そして王冠を被った国王らしき人物が、執事に手を取られて馬車から降りてきた。

嘘だろう!

まさかの本物?!

この世界を未だ理解していない俺でも、国王ぐらい見れば分るぞ。

だって周りの人達の接し方や、向けている視線。

その佇まいや雰囲気まで。

それに何と言っても伯爵が頭を下げる人物なんて、国王以外にいないだろう。

ギャバンさんに似ている執事が控えているしさ。

更には王冠らしき物を被っているからね。

ヘンリーは偽名だろうが、王様が来ちゃったよ。

あらまあ・・・


国王らしき人物は、店先を眺めると鷹揚に頷いていた。

杖を突いてゆっくりとお店の外観を眺めている。

随分と余裕があるな。

蓄えられた髭が年齢を感じさせた。

柔和な目尻が緩んでいる。

微笑ましい視線をこちらに投げかけていた。

少し眩しそうに眼を細めて。

ガラスに映る光が眩しいのだろう。

そしてゆっくりと店内に近寄ってきた。

辺りは騒然としている。

それを気にすることなく執事が入口の扉に手を掛けると、仰々しく扉が開かれた。

そして陽光をバックに国王が店内に入ってくる。

後光の様な眩しさが目を焼く。

眩し!

国王が美容院『アンジェリ』に現れた。


店内を見渡すと再度鷹揚に頷く国王。

余裕の表情で店内を見回している。

その存在感が半端無い。

隣に並ぶ執事が当たり前の様に言葉を発した。

そう、それが当然の様に。


「予約しているヘンリーで御座います」

その第一声に店内が凍り付いた。

全員の時間が止まる。

誰もが手を止めて、呆気に取られていた。


執事が俺を見定めるとこう告げた。

「あなたがジョニー店長ですね?」

しっかりとした目線を送ってきた。


その視線のお陰で俺は我を取り戻していた。

有難い、流石に呆気に取られていたよ。

これはいけない、いつもの俺に戻らなければ。

俺は一度大きく息を吐く。

要らない緊張をその呼気に乗せて吐き去る。

よし!

周りを瞬時に見回して、敢えて大きな声でこう答えた。


「いらっしゃいませ!美容院『アンジェリ』にようこそ!!」


その声に当てられて家のスタッフ達が反射的に、

「「「いらっしゃいませ!」」」

挨拶の掛け声を上げていた。


よし、いつもの日常が返ってきたな。


「ヘンリー様で御座いますね。お待ちしておりました」

俺は軽く目礼を送ると、いつものお客さんに接する様に、先ずは待合のソファーを勧めた。

その動きに再度我を取り戻したスタッフ一同。

呼吸を整えて、自分達の仕事を再開する。

俺はそれを確認した後に、ソファーに座った国王に声を掛けた。


「今日はシャンプーで宜しかったですね?」

しっかりと目線を交わして、気軽に声を掛ける。

その眼線を当然の如く受け止める国王。

まだ、店内の緊張感は緩みきってはいない。

不意に横から執事に声を掛けられた。


「ジョニー店長始めまして、こちらはヘンリー・ミラルド・ダンバレー14世国王様で御座います」

仰々しくお辞儀をしながら執事が国王の名を告げる。

嘘ッソ!

偽名じゃないじゃん!

本名じゃないか!


「へえー、国王様で御座いますか、美容院『アンジェリ』にようこそ。私は丈二・神野と申します。通称ジョニーです。是非ジョニーとお呼び下さい」

俺も返す刀で名乗りを上げる。


「ふむ、ジョニー店長じゃな」

俺を真っすぐに見定めて、国王が言葉を繋ぐ。


「そうです。その様子、何か私の噂でも聞いていますか?」

口元を緩めた国王。


「ホホホ、察しがいい様じゃな。聞いておるよ」

優しい視線で俺を見つめる。


「へえー、そうですか。ではご存知だとは思いますが、俺はこのお店の中では相手が誰であっても跪かないし、特別扱いはしませんからね」

この発言に緊張感が一気に高まる。

周りの者達が身構えたのが気配で分かった。

国王と俺の視線が絡む。

バチバチと火花を散らす程の緊張感が場を支配する。

俺は自然と口元を緩めていた。

それを見定めて国王がこう告げた、


「かまわんよ、余は只の客である。ジョニー店長に従おうぞ」

このやり取りを伯爵とギャバンさんが緊張の面持ちで眺めていた。

冷や汗を流しているが分かる。

その他の者達は手に汗を握っていた。

何も見逃さないとの空気感が感じられる。


「どうやら話の分かる国王様でなによりです」

そんな事はお構いなしにと、俺はいつもの調子で話し掛ける。


「ホホホ、そう言ってくれるか?」


「ええ、さあ、シャンプーを始めましょうか?シャンプーはシルビアちゃんが担当しますので、よろしくお願いしますね」

前に出てきたシルビアちゃんが、ガチガチに緊張して、


「よ、よ、よ、よろしく、おねげえ、します!」

しっかりと噛んでいた。

一気に場が和む。

全員がツッコもうと身構えた。

それを聞いて爆笑する俺と国王。


「シルビアちゃん!緊張し過ぎだって!」


「ホホホ!可愛いのう。ホホホ!」

それを受けて顔を真っ赤にするシルビアちゃん。

今直ぐにでもバックルームに控えてしまいそうだ。


「す、す、す、すいませんー!!」

堪えたシルビアちゃんが答える。

それを聞いて更に爆笑する俺と国王。


「ちょっと、国王さん止めてくださいよ。家のスタッフを虐めないでもらえます?」


「ホホホ、そう言ってはくれるなジョニー店長!可愛らしいではないか!」


「ハ、ハハハ・・・」

シルビアちゃんは俺と国王を無表情で交互に眺めていた。

余りの出来事に感情が無くなっている。

ここで伯爵から横やりが入る。


「ジョニー店長・・・すまぬが、シャンプーを受けるというのは建前なんだ・・・」

ん?建前?


「どういうことですか?伯爵?」


「申し訳ないジョニー店長、このお店を観たいとの国王様の申し出を叶えるための予約だったのだよ」

ああ・・・そういうことね。

ならそう言ってくれればよかったのに。

そんな仲でしたっけ?

別に見学ぐらい構いませんよ。


「そしてすまんが、近く時間を貰えないだろうか?どの時間でも構わない!無理を承知でお願いする!」

おおー!

なんかちょっと読めてきたんですけど・・・

要するに・・・

俺との面談の時間を確保したいというのが本命で。

このお店の予約は只のきっかけに過ぎなかったと・・・

そういう事ですね。

だったら回りくどい事をしないでくださいよ。

そんな間柄でしたっけ?伯爵よ?

俺はそれなりに打ち解けていたと思っていましたけど?

違いますか?

でも・・・いや、相手は国王だ。

ここは伯爵を責めてはいけないな。

彼にも立場がある。

俺達の親交は脇に置いて置かなければいけないのかもしれない。

相手はこの国の最高権力者だ。

間違いがあってはならない相手だ。

伯爵であれど気は遣うということだろう。

そういうことなんだろうね?

俺達の日常の平行線の上とはいかないということだ。

であれば頷ける。


伯爵も板挟みにあってしまったのかもしれないな。

これはすまなかったね。

でもこういう事に俺を巻き込むのはどうなんだろうか?

前から俺はこういう形式ばったことは苦手で、取り合わないと言っていたと思うのだが?

伝わっていたと思っていましたよ。

でも相手が相手だからそうとは言っていられなくなったのか?

よく分からんが、そう受け止めるしかなさそうだ。

にしても、この執事・・・意味深な目線をずっと送ってきているな。

絶対ギャバンさんのお兄さんだよね!

だったらそう言って下さいなっての!

それに見合った対応をさせて貰いますけど?

ギャバンさんから話は聞いていますよ!

兄が国王の執事だってね!


「では、早くということでしたら、今日の営業時間終了後はどうでしょうか?晩御飯後となると8時ぐらいが助かりますね」


「そうして貰えると助かります」

ギャバンさんのお兄さんがそう告げた。


「分かりました、8時にお待ちしております」


「ふむ、再度伺うとしようか」

国王はソファーから立ち上がり、杖を突いていた。


店内を見回した後に。

「では後ほど、ジョニー店長」


「ありがとうございました」

俺はお辞儀をして国王を見送った。

しまった!料金を請求するの忘れてた!

キャンセル料・・・無念だ。




国王の馬車が店先から離れると、店内の緊張感が緩和した。

ため息と、大きく息を吐く声が響き渡る。


「緊張したー」

シルビアちゃんが漏らしていた。


「私も・・・」


「同じく・・・」

マリアンヌさんとクリスタルちゃんも肩を撫で降ろしていた。

お客さん達も同様の反応を示していた。

なんだか申し訳ない。

俺は悪く無いよ。

文句は伯爵にでも言ってくれ。

冒険者のお客さんから声を掛けられた。


「それにしてもジョニー店長はかっこよかったなー」


「ん?」


「だって国王相手にも一向に引いて無いんだからさ。凄えな!店長は」


「そうですか?」


「相手が誰であっても特別扱いはしない!なかなか言える事じゃないぞ」


「これは俺のポリシーなんでね」


「ポリシーか・・・って、何だ?」

俺はずっこけそうになってしまった。


「要は行動指針みたいなものですよ」


「なるほど・・・ポリシー・・・いいね」

シルビアちゃんがにじり寄ってきた。

聞きたいことは分かっている。

ブラック●ンダーだ。


「いいよシルビアちゃん、お出しして」


「畏まりました」

シルビアちゃんはバックルームに消えて行った。

また箱買いしておかないといけないな。

困ったものだ。




営業時間を終えて、賄いを作ることにした。

そして今日は珍しくライジングサン一同とドM眼鏡が来なかった。

というよりビール目的の冒険者達も誰一人として来店しなかった。

たぶん街中で国王が来店したことが既に噂になっており、8時に来店される事も広まっているのだろう。

流石のあいつらもここは遠慮したということだろうね。

逆に来ても追い返すけどさ。

店先でビールをガバガバ飲まれても困るしね。

ていうか、警備の者達に追い出されてしまうだろうし。


それにしても今日はまだ気が抜けないな。

本来であれば、此処で一息つきたい処だ。

国王が来店するといっても俺は身構える気はないが、他の者達はそうはいかないだろう。

シルビアちゃん達の表情を見ると、明らかに緊張し出しているのが分かる。


そうなると簡単に喉に通る食事が良い訳で。

お米は止めておこうと思う。

こうなると賄いは限定される。

いっそのこと手抜きにしよう。

それに限るな。

と言う事でど●兵衛にする事にした。

日●さん、大変助かっております。

緑の●ぬきを五人前だ。

最近はクロムウェルさんも賄いは一緒に取っている。

クロムウェルさんは一気にそばを搔き込むと、一目散に帰っていった。

どうにも巻き込まれたくはないみたいだ。

気持ちはよく分かります。

俺達も食事を終えて、シルビアちゃん達は今日は練習は行わず。

お店の掃除を始めた。

帰るものかと思っていたが、そうでもなかった。

まあ好きにしてくれればいいさ。

裏予約表の予約者は、今日はライジングサンのメンバーだったので、おそらく来ないだろう。

さて、国王様を迎え入れましょうかね。

それにしても何の話があるのだろうか?

俺は美容師ですからね。

出来る事には限りがありますよ。

その辺、分かってますよね?

伯爵?



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