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異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第1章 創成期 髪結い組合編

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マッチ売りの少女

見たところ十代半ばの少女が俺を見上げていた。

全身を雪が覆っており、身体を諤々と震わせていた。

これはいけない!

考えるよりも先に身体が動いていた。


「早く入りな!」

手招きしそう叫ぶと共に、ドライヤーをコンセントに繋げてタオルを取りにいく。

諤々と震えながらぎこちなく動く彼女にタオルを渡して、後ろに回り込んで頭に被っている頭巾に付いた雪を払う。


「早くそのタオルで雪を払って、身体を拭くんだ!さあ早く!」


「はい・・・」

少女は震えつつも、訳も分からず俺の指示に従う。

可哀そうに・・・びしょ濡れじゃないか。

早く乾かして上げないと。

よく見ると手があかぎれていた。

俺はドライヤーを手にして彼女の手に温風を当てる。

そのことに少女は驚いていた。


「ああ・・・温かい・・・」

温風が手に当たり、声を漏らしていた。

目を細めて気持ちよさそうにしている。


「急に温めると痒くなるかもしれないが我慢してくれよ」


「はいぃ・・・」

少女は細めた目を開けると、今度はドライヤーをまじまじと眺めていた。

そんなに珍しい物でもないだろうに。

上着を脱がせて、持っていた籠と一緒に一端カット台に置いた。

これで少しは温まるだろう。


そういえば、確か保湿クリームが有った筈だ。

俺は受付に向かい、戸棚を開けて保湿クリームを探しだした。

よし!あった!


「どこかに怪我はないか?」


「ええ・・・」

少女は未だ戸惑っている。


「そうか、良かった・・・これを手に塗ってくれ、ふう・・・」

思わず声が漏れる。

ここで俺は始めてちゃんと彼女を見ることが出来た。


彼女はとてもおぼこい印象だった。

田舎にいる少女。

少々あどけなさがある。

その顔立ちは西洋の出で立ち。

ブルーの瞳に、髪色は赤髪。

どうしても職業病が出てしまう。

最初に髪の毛や髪形を見てしまう。

あまり手入れをしていない髪だな。

これはもったいない。

少々脂ぎって見える。


その着ている衣服も、何世代前の物なのかと疑ってしまう。

所々に継ぎ接ぎが有る。

これは・・・中世ヨーロッパの衣装?

そして頭を真っ赤な頭巾で覆っている。

それに持っていた籠にはマッチの様な物が入っている。

まさかのマッチ売りの少女か?

マッチ売りの少女ほど幼くはないか・・・

にしても・・・今時こんな衣服を着ているなんて・・・何かのコスプレか?

それにしては何のコスプレなのかと戸惑ってしまう。

コスプレの意図が読み取れないぞ。


「ああ・・・この薬はよく効きそうです」

想いの外甲高い声であった。


「薬?」


「はい・・・」

マッチ売りの少女は保湿クリームを手に持っていた。

彼女の寒気は収まった様で、身体の震えは止まっていた。


「ああ・・・それは保湿クリームだよ」


「保湿クリームですか?・・・」


「ああ・・・」

ん?保湿クリームを知らない?

随分と田舎の子なのか?

にしてもいくら田舎の子でも保湿クリームぐらい知っているでしょうが。

相当な世間知らずなのか?

そうとは考えられないのだが・・・


「それにこの温かい風が出る魔道具は見たことが有りません、私なんかに申し訳ありません」

ん?・・・魔道具とは?

あれ?

・・・

まさかな・・・

違っていて欲しいのだが・・・

俺は切に願う。

違っていてくれよ・・・

お願いだ!


「ねえ、魔道具って・・・何なんだい?」


「えっ!・・・魔道具はこの温風の風を出すような道具のことですが・・・」

ああ・・・否だ・・・勘弁してくれ・・・俺の念願のお店が・・・

なんでこんなことに・・・

俺は絶望の表情を浮かべていたのだろう。

少女がたじろいでいた。


「こんな事を聞いて申し訳ないが・・・この国の名前は?」

聞きたくはないが、聞かざるを得ない。

お願いだから日本と言ってくれ!

頼む!


「・・・ダンバレーですが」

なんでこんなことも知らないのかと、眉を顰めて少女が俺を見つめていた。

やっぱりか・・・

聞きたくなかったよ・・・

嫌な予想が当たってしまった・・・


「そうなんだ・・・」

確定してしまった。

このお店ごと異世界に来てしまったということが・・・

なんでだよ!

俺は異世界でお店を持ちたいんじゃなくて、日本の地元の地方都市で美容院を開きたかったんだよ!

罰当たりな事はした覚えはありませんが?

こんな罰ゲームないでしょ?

違う!違う!

こんな事は望んでいない!

・・・

あれ?

不味いぞ、いろいろ不味いぞ!

どうなっちまうんだ?


これは先ずはいろいろ確かめなければいけない。

でも・・・

俺の眼の前にマッチ売りの少女がいるんだよな・・・

どうしたものか・・・

自分勝手に行動出来無いぞ!

今直ぐ帰れとは流石に・・・


グウウー!

大きなお腹の鳴る音がお店に響き渡っていた。

それもマッチ売りの少女からだ。

実にマッチ売りの少女は恥ずかしそうにしている。

下を向いて肩をすぼめていた。

マジか・・・このタイミングで?

聞くしかないよね、こちとら大人なんだし。


「お腹が減っているのかな?・・・」

感情を表に露わさ無い様に心を沈める。

動揺を見せる訳にいかない、これ大人の嗜みってね。


「・・・はい」

マッチ売りの少女は目を合わせてはくれない。

下を向いて恥ずかしそうにしている。

はあ・・・しょうがない。

自分でもそれと分かるぐらい肩を落としていた。

確かインスタントラーメンがあったはずだ。

まだ流石に食材等は購入してないからな。

非常食しか揃えていない。

今はこれでいいだろう。




突然だが、俺は結構料理が得意だ。

動揺しているのに何を余裕な、と思うかもしれないが主張だけはさせて欲しい。

タイミングが違うって、まあいいじゃないか。

少し持ち直してきたのかもしれない。


実はこのお店にはキッチンが・・・否、厨房と言ってもいいかもしれない設備がある。

美容院なのになんで?と思われるかもしれないが。

簡単な食事やスイーツ等を気ままにお客に提供しようと考えていたのだ。

というのもカラーや、パーマの放置時間は意外に長い。

そこにちょっとしたサービスで、少し本格的な食事や飲み物を楽しんで貰おうとね。

これちょっとした拘りです。

そんな美容院が有ってもいいじゃないか?ってさ。

そう考えた訳ですよ。

自由気ままにね。

ゆっくりと和気あいあいとしたお店をやりたかったんです。


「簡単な物でいいかい?」


「えっ!滅相も無いです!」

マッチ売りの少女が驚いている。


「・・・そうもいかんだろう」

あれだけの腹を空かせた音を聞かされたんだからさ。

放置とはいかんだろうよ。

これでも紳士のつもりなんでね。

簡単な食事ぐらい出させて貰うよ。

だってお湯を注ぐだけだし・・・


「本当に大丈夫です!雨宿りだけさせて貰えればいいんです!」

雪で雨宿りはないだろう。

細かい事はいいか。

でも雪宿りとは聞かないよな。

宿りから離れようか。


「いいから、暖をとってくれ。此処を押せば温かい風が吹くからさ」

俺はドライヤーをマッチ売りの少女に手渡した。

すまなさそうに受け取るマッチ売りの少女。

そんな彼女を尻目に俺はバックルームに向かった。




このバックルームは戸棚や休憩できるスペースがある。

それなりに広い。

美容院のバックルームはだいたい狭い。

そんな処で寛げる訳が無いだろう。

だからこれも俺の拘りの一つである。

オンとオフはきっちりと分けて欲しい。

その為にはバックルームもちゃんとしたスペースの部屋であるべきだ。


俺は戸棚にあるカップラーメンを二つ取り出し、瞬間湯沸かし器に水を入れて、スイッチを押す。

まだ先程使用してから余り時間が経過していない為、瞬間湯沸かし器は暖かい儘だった。

カップラーメンの蓋を開けて、沸騰するのを待つ。

たぶん箸は使えないだろうな・・・

箸はアジア圏の文化だからね。

ここは異世界みたいだし・・・

はあ、異世界・・・嫌になる。

フォークを準備するか・・・

どうしてこうなった?


お湯を注いでから3分が経過した。

フロアーに戻ると、カップラーメンの匂いに反応して、マッチ売りの少女は期待と困惑の表情を浮かべていた。

カップラーメンぐらい気にするなっての。

というよりこんなんでごめんな。

本当はちゃんともてなしてやりたいが、そうともいかないからさ。

今は余裕がありませんての。


「さあ、食べてくれ!」

俺はカップラーメンとフォークをマッチ売りの少女に差し出した。


「でも・・・お金は持っていません・・・」

気にする処かねえ?


「お金なんて取らないよ、気にせずに食ってくれよ」


「そんな・・・」

ちょっと恐縮し過ぎじゃないか?

この世界はそんなにお金にシビアな世界なのかい?


「いいから・・・俺の奢りだ。遠慮は要らない」

俺はカップラーメンとフォークを少女に押し付けた。

こうでもしないと受け取ってくれなさそうだった。


「はぁ・・・本当にいいのでしょうか?」

俺は無下に答える。


「いいから、さあ早く。温まるよ」

マッチ売り少女はやっとカップラーメンとフォークを受け取ってくれた。

遠慮され過ぎるのも疲れるな。

立った儘では如何な物かと、待合に誘導する。

ソファーに一緒に腰かけて、俺はカップラーメンの蓋を開ける。

それに倣ってマッチ売りの少女も蓋を開ける。


「では、いただきます」


「・・・はい」

食べる前にこう言う風習がないのだろう。

少女が戸惑っていた。


「さあ、気にするな。遠慮なく食ってくれ。熱いから気をつけるんだぞ!」

敢えて元気に振舞ってみた。

これぐらいでいいだろう。


俺はカップラーメンに齧りついた。

いつもの味が俺の口の中に広がっていく。

うん!旨い。

安定の味だな。

カップラーメンはやっぱり日●食品だろう。

シーフードもカレーも旨いがやはりレギュラーに限る。

俺のその様を見定めてから、少女がフォークをカップラーメンにつき刺した。

フウー、フウーと息を吹きかけている。

ラーメンを啜る事が出来ずにいたが、ちゃんと麺を食べているみたいだ。

よかった、よかった。


すると、

「美味しい・・・」

少女の表情が揺れる。


「初めての味・・・感動・・・」

そう呟くとこれまでとはうって変わって、一心不乱にカップラーメンを食べだした。

露がそこいらに飛び散っている。

●蘭かよ・・・

衝立は無いが。

ああ・・・後で掃除しなければ・・・

それに臭いも気になる。

俺は立ち上がって換気扇のスイッチを押した。

すまないね、美容院にとって匂いは大事な要素なんでね。

待合であれど、ここは気に掛けなければいけない。

少々細かいか?


少女が興奮気味に話し出す、

「本当に美味しいです!・・・こんなに良くして頂いて・・・私・・・」

おいおい、興奮したと思ったら、今度は泣き出しそうなんだが・・・


「気にするな、袖振り合うのも何かの縁ってな」

お道化て見せてみた。


「・・・」

少女は首を捻っていた。

どうやら分かってないみたいだ。

そりゃあそうか、袖のある着物の様な衣服が有るとは思えないからな。

まさかの異世界だし・・・


「まあ、これも何かの縁ってことさ!」

俺は笑ってみせた。

マッチ売りの少女がやっと少し笑顔になった。


「これは何という食べ物なのでしょうか?」

マッチ売りの少女が話し出したが、食べるペースは止まらない。


「ん?ああ、これか、これはカップラーメンだよ」


「カップラーメン?」

口を動かした儘、興奮した様子であった。


「そうだ、この器がカップ、そしてその中にあるのがラーメンだよ」


「ラーメン・・・」

少女がフォークを止めてカップの中を覗き込む。


「ああ、ラーメンだ」


「凄い・・・」


「凄い?」


「はい、だってものの数分で出来上がっていましたよね?」

この子結構ちゃんと観察出来ているみたいだ。

舐めてはいけないのかもしれない、観察力は高いのかもしれないな。

そうです、カップラーメンの良さはその速攻で出来るタイムパフォーマンスにあるんです。

現代の者達には常識である。

でもこれが異世界ともなるとそうでは無いということなんだろうな。

ちょっと異世界マウントを取ってしまったか?

これは俺の技量でも何でもないんだけどね。

ただの日本の技術です。

日本人って凄いよね。


俺は前に見た朝ドラを思い出していた。

このカップラーメンを造るのに紆余曲折していたよね。

日●食品さん、ありがとう。

異世界でもウケてますよ。

萬平さん!


「それにこのラーメンという食べ物も凄く美味しいです!こんな美味しい食べ物は始めて食べました!」

でしょうね。

ラーメン文化は独特だからね。

気持ちはよく分かるよ。

ラーメンは偉大だ!

人を幸せにする。

おっと、この辺にしておこう。

止まらなくなりそうだ。


なんなら俺のラーメンを造ってあがたいが、今はそれだけの余裕は無いしな。

俺のラーメンはもっと旨いよ、フフフ。

しっかりと出汁を取るからね。

チャーシューも自家製だからね。

今はいいか?


「ああ・・・もう無くなっちゃった・・・」

マッチ売りの少女は汁まで飲み干していた。

なかなかの食いっぷりでしたね。

いいよ!俺は好きだよ!食いっぷりの良いのはね!

俺は汁は飲まないけどね。

だって塩分が・・・齢相応の気遣いだよ。

分るだろう?


「足りなかったか?」

若い子にはあと一つぐらいはペロリだよね。


「否!滅相も御座いません!魔導士様!」

いやいやいや、俺は魔導士ではありませんが?

只の美容師ですよ。

ここはもう一杯必要かな?

止めとこう・・・これ以上のサービスはやり過ぎだろう。

それに俺はこの子の事を知らなさ過ぎる。

これまでは成り行きに任せていただけに過ぎない。

ここはちゃんと名前ぐらいは知っておきたい。


「それで・・・君のお名前は?」

マッチ売りの少女が立ち上がり、俺に全力で頭を下げた。

いきなり律儀だな。

少々面食らったよ。


「申し訳ありません!名前すら名乗っておりませんでした!」

顔を上げると名乗り出す。


「私はシルビア・・・シルビア・レイズと申します!」


「シルビアちゃんね」

やっぱり横文字か・・・でしょうね。


「そうです」


「で?君はマッチ売りなのかい?」


「えっ!マッチとは?」


「それは・・・」

マッチでは無いのか・・・であればあれは何なんだ?

俺は籠を凝視していた。

それを察したシルビアちゃんが俺に教えてくれた。


「あれは・・・発火木です」

・・・だからマッチだよね・・・まあいいか。

ここは郷に要れば郷に従えだよね。

名詞違いかな?

よく分からんのだが・・・

やはり世界が違うと固有名詞は違うということなんだろう。

てかさ・・・なんで話が出来るのさ?

今はいいか・・・

色々矛盾するけど・・・異世界ってこんなものなんだろうか?

いつか慣れるだろう。

たぶん・・・


「要はその枝の先に発火する砕いた鉱石なんかが混ぜ合わせられていて、これを擦ると熱が生れて火が発生する、そしてそれが枝に引火して燃え上がるということかな?」

マッチ売りの少女が驚愕の表情を浮かべていた。

鼻から汁が出そうな顔をしていた。

なんでなんだ?

驚き過ぎだぞ。

急に劇画タッチになっていますがな。

漫☆●太郎の珍●記かっての。


「その通りです・・・」

はい、常識ですよ。

何年前の科学だろうか?

意外な表情を浮かべるシルビアちゃん。


「まさか言い当てられるとは思いませんでした。これは私の一家の発明品なのに・・・流石は魔導士様です!」

何でそうなるの?

魔導士・・・どうしたもんかね。


「いや、俺は魔導士じゃないって」

ほんとに違いますって。


「えっ!こんな見たことも無い魔道具を持っておられるのにですか?」


「いや、だからそれは・・・」

説明出来無いよな。

だってまだこの世界の事を俺は全く知らないし。

どうすればいいのだろうか?

正解が見つからない。

なんでこうなった?


「いずれにしても俺は美容師であって、魔導士ではないよ」

これ有りの儘です。


「そうなんですね・・・それで美容師ってなんですか?」

俺はずっこけそうになってしまった。

ここは言葉の響きで分るでしょうよ。

いくら異世界でもさあ。


「美容師ってのは、髪を切ったり、髪を洗ったり、髪を染めたりとかいろいろな髪などに関する事をする仕事をメインにした職業だよ」


「はあ・・・」

いまいち的を得ていないみたいだ。

なんで?

もしかしてこの世界には美容師はいないのか?

でもどう見てもこの子は髪を生やしているぞ。

であれば髪を切ることは必須でしょうが。

伸びっぱなしとはいかないでしょうよ?

違うかい?


「あっ!分かりました。髪結いさんですね!」

そうそう髪結いさんです、って無茶苦茶古い言い方だな。

昔は美容師をそう呼んでいたみたいだけど、何年前なんだ?

昭和以前だよな・・・たぶん。

髪結いさんの旦那は髪結い亭主なんて呼ばれて、働かなくても食べていけるみたいな蔑んだ事を言われていたみたいな。

もしかして今では差別用語か?

髪結い亭主ってね。


「そうそう、髪結いさんの事を美容師って言うんだよ」


「へえー、そうなんですね。それで店長さん、いつからこのお店を?」

髪結いさんから店長さんに格上げしたみたいだ。

レベルアップなのか?


「実はまだオープンしてないんだよね・・・」

そう、まだこのお店はオープンしておりません。

まだ絶賛準備中です。


「どういうことですか?」

マッチ売りの少女は不思議がっている。


「だから、まだ準備中ってことさ、オープン前の準備をしている段階なんだよ」


「ええ!そうなんですか?」


「ああ・・・まだこのお店は完成していないんだよ。お客様を受け入れる段階ではないんだよ」


「そうなんですね・・・」

何とも言えない表情を浮かべていた。

どうしてとも言いたげだが言葉にはしないみたいだ。


俺は外を見た。

というのも、そろそろ申し訳ないが退散して欲しい。

だってまだ何も俺は理解出来ていないのだから。

そろそろ一人にして欲しい。

考えを纏めたい。

自己問答の時間をください。

有難い事に雪は降り止んでいた。

今がチャンス!


「雪が止んだみたいだな」


「そうですか・・・」

何だか物足りない表情をマッチ売りの少女はしていた。


俺はバックルームに行き、傘を取ってきた。

この傘はコンビニで買える70cmの傘だ。

しょっちゅう借りパクされる代名詞的な傘だね。

俺は一度も借りパクなんてしたことはないが、されたことは何度もある。

する側の気持ちなんて全く分からない。

いくら安物と言えど他人の物ですよ?

なんで勝手に持っていけるのだろうか?

これ一端の窃盗ですよ!

犯罪ですよ!

捕まりますって!

今直ぐ止めてください!


俺は少女に傘を手渡した。

「これは何でしょうか?」


「これは傘だよ、知らないのかい?」


「傘は知っていますが、こんな素材の傘は知らないです」


「そうか・・・」

やっぱりビニールはこの世界ではオーバーテクノロジーなのかもしれないな。

そりゃあそうか・・・石油由来だからね。

まあいいや。

ここはしれっと見逃そう。


「いいからさ、これはあげるよ。大事に使ってくれ」

コンビニ傘だけどね。


「そんな!そこまで甘えられないです!」

少女は必死に抵抗しようとしていた。

でもそんなことはどうでもいい。

てか、すまんが早く帰ってくれ。

自問自答の時間を俺に下さいよ!


「もういいから!雪がまた振り出す前に早く帰りな!ご両親も心配しているだろうしさ!」


「でも・・・」


「いいから!さあ早く!今がチャンスだよ!」

俺は少女を追いやった。

すまんな、マッチ売りの少女よ。

俺は身勝手なんでね。

特に今は構ってられないんでね!


「分かりました・・・後日改めてお礼に参ります」


「ああ・・・」

来なくていいのに・・・とは言えないな・・・

俺はマッチ売りの少女を見送った。

はあ・・・なんだってんだよ。

てかさ、異世界ってどうなってるんだ?

勘弁してくれよ・・・

何とも言えない気持ちを、俺はどうしようも出来なかった。

俺は整理できるのだろうか?

マリアナ海溝以上に深いため息を付くしかなかった。



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