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異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第1章 創成期 髪結い組合編

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決着!

表情を豹変した伯爵が、頭を抱えて蹲りだした。

悶絶して床を転がっている。

これは只事ではない。

何が起こったってんだ?

嘘だろ?

あまりの出来事に誰もが固まっていた。

俺も身体がいう事を利かない。


「ああ!・・・頭が痛い!・・・ああ・・・ああ!」

伯爵は態勢を起こすと、今度は座り込んでしまった。

その表情は苦痛で歪んでいる。

相当な激痛なんだろう。

今にも泡を吹きそうだ。


警護兵とお付きのバトラーが慌てふためく。


「伯爵様!」


「どうなさいましたか?」


「何が起こって・・・」

誰も事態を把握出来ていなかった。

慌てふためいて、あたふたするばかりだ。

観衆達も身を固めている。


でも俺は何となくピンと来てしまった。

ははーん、もしかして・・・このお店のチート能力に当てられたか?

それ以外に何があるというのか・・・

フフフフフ・・・俺のお店は最強だからね!

最強美容院『アンジェリ』で合っているのか?

違うか?


「痛い!ああ・・・痛い!・・・ああ、でも・・・スッキリする様な・・・はあ・・・おお!・・・おおおおおお!!!」

そう叫ぶと急に立ち上がった伯爵。

辺り一面を眺めると、挙動不審に歩き回り出した。

表情は一変して健康そうな顔色に変わっている。

そして身体を伸ばしたり、肩を回したりしていた。

いきなりのラジオ体操?

何してんの?この人・・・


「ちょっと、あなた!どうしたってのよ?」

慌てふためくフェリアッテ夫人。

お付きの者達は呆気に取られていた。

何も出来ず微動だにしない。。


「ああ・・・はっきりしている・・・くっきりしている・・・おお!」

目を見開く伯爵。


「あなた・・・いったい・・・」

伯爵は俺を見つけると、ずかずかと歩み寄ってくる。

それなりのプレッシャーだ。

そしていきなり俺に向かって右手を指しだしてきた。

思わず握り返してしまった。

これは条件反射だ。


何も考えず右手を握り返していた。

その後、思った。

これでいいのか?

でも握っちゃったよな・・・


「ありがとう!ジョニーとやら!やっと頭がはっきりしたぞ!」

そうか・・・

やっぱりな、だと思ったよ。

長年患ってきたチャームの効果が消えたのだろう。

やっと頭がはっきりとしたに違いない。


「それにずっと続いていた片頭痛が治ったみたいだ、視界も明るいぞ!」

それはよかったね。

まあ、口にはしないけど。


俺はほくそ笑んでいた。

さて、どう料理していこうかな?

こうなってしまえばこっちの物だ。

こちらのターン、いらっしゃーい!




いきなりの出来事にフェリアッテ夫人は戸惑っていた。

でしょうね!

しめしめだ!

さあ、反撃開始だ!


「そうですか、それは良かったですね。どうやらチャームの効果が消えたみたいですね」


「・・・チャーム?」

不思議がる伯爵。

首を傾げている。


「はい、魅惑の魔法ですよ。知りませんか?」


「魅惑の魔法?・・・」

バトラー風の執事が隣に並んだ。

フェリアッテ夫人がしまったと顔を顰める。


「伯爵、聞いたことがあります、そんな魔法があるという事を」

凛と背筋の伸びたバトラーが答えていた。

このバトラー、存在感が半端ない。

何者なんだよ。


「そうなのか?ギャバンよ」


「はい、しかし希少な種類の魔法です。我らの抱える魔導士でも使えると聞いたことはありません」

顎に手を当てて、考え込んでいる。


「ほう、して、どうしてジョニーはそれを知っているのだ?」

当然の疑問だな。

お答えしましょう。


「どうしても何も・・・俺も掛けられましたからね、チャームの魔法を」


「なんだと?!一体誰に?!」

俺は無言でファリアッテ夫人を見つめた。

フェリアッテ夫人は目を見開く。

そしてその表情がどんどん崩れていく。


「何じゃ・・・ジョニーよ・・・」

この婆あ・・・まさか逃げるつもりか?

そうはさせねえよ!


「何じゃだと?しっかりと俺にチャームの魔法を掛けようとしてくれましたよね?!」

しらばっくれて右上を見ているフェリアッテ夫人。

ふざけやがって!


「そうだよな!眼鏡!」


「うう・・・」


「ううじゃねえ!眼鏡カチ割るぞ!はっきりと答えろ!」


「はいぃ!そうで御座いますー!」

やっぱりこいつはドMだ。

罵倒すればどうとでもなる。


「なんだと?」


「まさか・・・」

狼狽える伯爵とギャバンさん。


「間違いありませんよ、そうですよね?マリアンヌさん?」


「そうで御座います」

ここぞとばかりに胸を張るマリアンヌさん。

どうやら夫人に対して思う処があるみたいだ。

ここは乗っからなければと、他のフェリアッテ夫人のお付きの者達も俺の擁護に周った。

手の平返しとはこの事だ。


「そうでございます」


「夫人はチャームの魔法の使い手であります」


「仰る通りかと・・・」

血相を変えるフェリアッテ夫人。


「何を言っておる!お前達!わらわを裏切ると言うのか!」

凄んでいるが全員が目を合わす気はないみたいだ。


「伯爵様・・・これは・・・」

ギャバンさんが呟く。


「ああ・・・合点がいったな・・・」

どうやら思い当たる節があるみたいだ。


「その様ですね・・・」

伯爵がフェリアッテ夫人に向き直る。


「フェリアッテ・・・私のお前に対する愛情は偽物であったようだ・・・残念でしかたがない・・・」

視線が揺れるフェリアッテ夫人。


「そんな・・・」


「フェリアッテ・・・何年にも渡って私を操ってくれたみたいだな・・・その罪、決して軽くはないぞ」

膝から崩れ落ちるフェリアッテ夫人。


「・・・」

悲しみに染まった伯爵が告げる。


「・・・捉えよ」

伯爵は唇を噛みしめていた。

複雑な想いを噛み殺しているみたいだ。


その言葉に反応して、護衛兵達がフェリアッテ夫人を取り囲んだ。

立ち上がり、身構えるフェリアッテ夫人。

その眼はまだ死んではいない。

ゆらゆらと身体を揺らし、鬼気迫る表情をしている。


「ええい!わらわを捉えるじゃと?ちゃんちゃら可笑しわ!ナハハハハ!出来る物ならやってみせよ!」

この後に及んでまだ反抗の姿勢を見せるフェリアッテ夫人。

それなりの強心臓だ。

いや、もうこうなっては只のフェリアッテだな。

近づこうとする護衛兵に手を翳してフェリアッテが唱えた。


「チャーム!」

フェリアッテは勝気な表情を崩さない。

フェリアッテの眼が怪しく光る。

しかし、魔法は発動しなかった。

それはそうだろう。

このお店の中で魔法が発動できるとは思えない。

そんな事も分からないのか?

哀れだな。

これでフェリアッテがチャームを使えることが確定したな。

婆あめ!ハハハハハ!

チェックメイトだ!

その様を悲し気な眼で伯爵が眺めていた。


再び膝から崩れ落ちたフェリアッテは、後ろ手に縛られていた。

口だけは達者で、ギャーギャー騒いでいたが後の祭りだ。

警備の兵士に連行されて、フェリアッテは馬車に押し込まれていた。

一連の騒動に観衆のざわつきは収まらない。




はあ・・・やっと終わったな。

申し訳なさそうにモジモジしている伯爵。


「すまなかったな、ジョニーよ」

俺に対して頭を下げていた。

それをみて観衆がざわつく。


「ええ、ほんと疲れましたよ・・・」

これ本音です。

でもちゃんと頭を下げるとは、それなりの傑物だな。

偉そうな貴族様ではあるが、常識は持ち合わせているみたいだ。


「そうであったか・・・」


「まあ、これで俺も、このお店も安泰ということですね?」


「そうなるな・・・」


「ふう・・・もし良かったら、日を改めてお店にお越し下さい。美容院を堪能してみて下さい」

目線を挙げた伯爵。


「そう言ってくれるのか、ありがとう・・・」


「これも何かのご縁ですね」


「すまないな・・・では早速予約をしていこうか。ギャバン!後は任せる!」

こう告げると踵を返して帰ろうとする伯爵。

こうなってしまっては早くこの場から離れたいよね。

こう言ってはなんだが、俺としても早く帰って欲しい。

疲れてしまったのでね。


「ハッ!」

ギャバンさんが仰々しくお辞儀をしていた。

実に様になっている。


気さくに手を振ってお店を後にする伯爵。


「ではまたである!ジョニー!」


「「ありがとうございました!」」

俺はシルビアちゃんとハモっていた。

あれ?一瞬伯爵がライゼルに目礼したような・・・

気の所為かな?


にしても・・・やっと勝負がついたようだ。

それにしても、なんでこうなった?

怒涛の展開だったな。

疲れたー!




店内は活気に沸いていた。

賛辞と偉業を称える声が後を絶たない。

特に警護の冒険者達や、見学に訪れた者達が騒いでいた。

フェリアッテはこんなにも嫌われていたんだな。

そう改めて感じた。

そりゃそうか。

あんな身勝手な輩はこれまでに会ったことが無い。

それにしても・・・伯爵は可哀そうだな。

これまで向けてきた愛情は偽物で、ましてや子供までいるし。

この先フェリアッテと間の子供はどうなるんだろうか?

俺の知ったことではないが・・・

子供に害はないが、無理だろうな・・・

廃嫡もあり得るのかもしれない。

俺が心配することでもないか・・・


さて、ライゼルが期待の眼差しを俺に向けている。


「ライゼル・・・バーベキューコンロを用意しろ」


「よっしゃキター!おい、お前達準備するぞ!」

勝手知ったるライゼルが冒険者達を指揮っていた。

バーベキューコンロが庭先に並べられる。

そして先日ホームセンターで購入した、庭先用のテーブルがセットされた。

ライジングサンは手慣れた作業で火を熾す。

この炭も冒険者達の手に寄って揃えられていた。

どうやら勝手にライゼルが手を回していたみたいだ。

今日に関しては助かる。

無茶苦茶疲れたからね。

もう、動きたくないよ。


それにしてもライゼルは食事の事になると頭が周る。

現金な奴だ。

肉も野菜も元はと言えばこいつらが持ってきた物だ。

安上がりで助かるよ。


俺達はバーベキューを楽しんだ。

そしてワインがグビグビと飲まれている。

全員遠慮など皆無だ。

勝利の美酒は旨かった。

モリゾーに至っては、既に2本目を飲みだしている。

底なしかよこいつは。

ライゼルも良い感じで酔っぱらっている。

珍しくリックまでペースが速い。

そしてライゼルからリクエストがあった。


「ジョニー!サッ●ロ一番を食わせてくれ!」


「私も!」


「俺も!」


「おでも!」

ほぼ全員が手を挙げていた。

身体に鞭打って最後の仕事をしましょうかね。

こうなると飯盒でちまちまとは作っていられないな。

ここは荒業に出るしかない。


「味は何がいいんだ?塩か?味噌か?」


「うーん、俺は塩!」


「私は味噌!」


「俺は塩!」

次々と要望が伝えられてくる。

聞くんじゃなかった・・・

間違ってしまった。


「よし、ここは両方を混ぜてしまおう!」


「おお!」


「そんな事が可能なのか?」


「あり得ねえ!」

これは一人で食べる分には出来ない芸当だ。

複数人で食べるからこそ出来る技だ。

そしてサッ●ロ一番は、塩と味噌を混ぜた味が一番旨いと俺は感じている。

少々贅沢だけどね・・・今では無理だが、20代の頃にはガッツリ食べたい時には時々行っていた。

若気の至りだな。

俺は鍋を準備して袋ラーメンをふんだんに作った。

簡単で助かる。

さあ食ってくれ!


「旨い!」


「最高!」


「深みのある味わい・・・」


「こんな旨い物がこの世にあったのか・・・」


「幸せの香り!」

やっぱりサッ●ロ一番は最強だな。

異世界でも通じる様だ。


こうして激動の一日は幕を下ろした。

明日は休みにしたい気分だ。

でも予約が入っているからそうともいかないんだよね。

人気店の悩みだな。

なんてな。

はあ、にしもて本当に疲れたよ。



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