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異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第1章 創成期 髪結い組合編
18/80

カラーについて

ギルドマスターのバッカスさんが来店した。


「おう!ジョニー来てやったぞ!」

相変わらずの迫力である。

それに声がデカい。

この人絶対冒険者ギルドのギルマスの間違いだよね?


「バッカスさん!いらっしゃいませ!」


「おうよ、マリオの奴が俺がむさ苦しいから美容院で髪を切って来いと煩くてな」


「そうなんですね」

そう言いつつも、カット台にバッカスさんを誘導する。

首にタオルを巻いて、カットクロスを掛けながら会話を続ける。


「そういえば、マリオさんとは古い仲なんですか?」


「ああ?マリオか・・・まあな、あいつとは古い友人でな。お互い駆け出しの商人の頃に出会ってな。切磋琢磨し合う間柄だったんだ」


「へえー」

だからああも親し気にしていたんだな。


「あいつとは腐れ縁みたいなもんだ」


「なるほどね」

バッカスさんは店内を見渡すと、ほうほうと感心していた。

そして鏡越しに俺に問いかける。


「それで、どんな髪形にしてくれるってんだ?」


「そうですね・・・」

バッカスさんの髪質は太くて、逆立つ性質だ。

これは切り易そうだ。

俺はヘアーカタログを見せた。


「これなんかどうですか?」


「ほお、こんな本があるのか、これは分かり易いな」


「どうでしょう?」


「よく分からん、任せる」

要は丸投げだな。

意外にこういう人は一定数いる。

おそらく決められないのか、面倒臭いのかのどちらかだろう。

自分に合った髪形を知らないという事もある。

まあお任せください。


俺は思案した後にカットを始めた。

選択したのはソフトモヒカンだ。

ひと昔前の人はベッカムヘアーと言えば分って貰えるだろうか?


「今日来たのは髪を切って貰うだけじゃなくてな」

俺は鏡越しに受け答えをする。


「何でしょうか?」


「商人ギルドに申し立てがあったんだ」

それはいったい・・・


「申し立てですか?」


「そうだ、髪結い組合だ」


「ああ・・・」

遂に来たか・・・

噂の髪結い組合。

良い噂は聞かないが・・・


「この店は髪結い屋だから組合に入る様に説得してくれとの話だ」

だからこの店は美容院だっての!

ふざけんな!

これはいけない、心を落ち着けよう。


「・・・」


「俺はあのお店は美容院であって、髪結い屋じゃないから組合に入る必要はないと言っておいたんだがな、それに実際お店の申告も美容院だっただろ」


「ありがとうございます、本当にそうなんですけどね」

分かっているとこちらに眼を向けるギルマス。


「でもな・・・結構しつこくてな・・・直にこの店にも組合の者がやって来ると思うぞ」


「はあ・・・」


「その警告も兼ねてな・・・」


「そうですか・・・」

髪結い組合になんて絶対に入らないけどね!

噂を聞く限り、まったくこちらにメリットは無い。

というかデメリットしかない。


これまで聞いた噂を羅列すると。

組合に加盟すると、様々な制限を受けることになる。

先ずカット金額は決められた金額にしなければならず。

毎月会費を支払わなければならない。

そしてお店の備品は決められた商店から仕入れなければならないという制限がある。

カットの講習があるみたいだが、はっきり言って俺には不要だ。

他にもいくつもの制限が設けられる事になる。

唯一のメリットは組合に入っていると税金が売上の5%になる事だ。


すまないが、まったく話にならない。

そもそも組合に加入する人達の目的は、組合の幹部になると、貴族や王族の髪結いが出来るようになるという側面があるのであって、俺にはまったく不要なのだ。

逆に貴族や王族になんて会いたくもないのが本音だ。

下手をすると不敬だなんだと言われかねない。

特に俺はお店の中では、相手が誰であっても跪くことはない。

いちお客として扱うと決めている。

それに育ちが良くないのでね、礼儀や作法なんて知りませんての。

困ったものだ。


こんなデメリットばかりの組合に入る理由が思いつかないよ。

それに何かと制限されるのは自由の剥奪としか感じない。

競争を無くして何が生れるっていうんだ。

人を蹴落とすのはあり得ないが、人より努力して勝ち残ろうとすることはあるべき姿と俺は思う。

切磋琢磨するのは当たり前だろうに。


そうなると主張されるのは平等性だ。

耳障りの良い言葉ではあるが、本当の平等とはこういった事柄ではなく。

スタート時点が一緒であるとかでは無いだろうか?

これすらも現実的に叶うことでは無いのに。

どうせ力がある特定の誰かが、自分に都合の良い様に仕組んだに決まっている。

仕入れ先を限定するのも、キックバックを受けているに違いないだろうし。

好きに操れる仕入れ先に限定しているのだろう。

仕入れ先からしてみても、こんな団体とは付き合いたくはないだろうに・・・

でも大口の顧客になるから付き合わざるを得ないのだろう。


もしその枠に『アンジェリ』が捉えられたらもう美容院は閉店だな。

だってこの国にはシャンプーすらも存在しないんだからさ。

この国のどの商人から仕入れればいいの?

話にならないよ。




カットを終えたバッカスさんは満足そうに帰っていった。

ソフトモヒカンの髪形を気に入ったみたいだ。

ちゃんと忠告のお礼は出来た様だ。

相当気に入ったのか来月の予約も入れていた。

ありがとうございます。

また起こし下さい。




最近はシルビアちゃんの修業も次の段階に入っている。

本当は最初にシャンプーだけでは無く、ブロッキングやロッド巻も並行して行うものなのだが、どうしてもお店の状況がそれを許さなかった。

すまないとは思っているよ。


要は一日でも早くシャンプーマンとしてデビューして貰う必要があったのだ。

シルビアちゃんがシャンプーマンとして現場に入れる様になると、それだけで予約が倍以上取れる様になるからだ。

現場に入れる頭数で予約をこれまで1本にしていた所をやりくり次第では3本に出来る。

此処だけはシビアにならざるを得ない。

売上として倍以上のインパクトがあるからだ。

どうせ同じ時間を働くなら時間効率を求めるのは商売の基本。

どうしてもお店の都合が優先される。

ここは目を瞑って貰うしかない。

その為、シルビアちゃんの美容師修業は日本でのものと、スケジュールと順番が大きく違う。

どうしても現場重視になってしまう。

申し訳ないとは思うが、頑張って貰おう。




さてシルビアちゃんの修業も、ここからはちょっとした座学も行う事になっていた。

それは主に色についてである。

要はカラーの勉強だ。

お店の現状を勘案すると、シャンプーの次にカラーのお客さんが圧倒的に多い為、パーマやカットよりもこちらを優先することになった。

シルビアちゃん、すまんな。

それを口にせずとも理解してくれているようではあるのだが。


先ずは光の三原則だ。

小学校の美術の授業で学ぶ内容だ。

基本は赤、青、黄色。

信号の色だね。

実に懐かしい。

これを分かり易く、絵の具を使って説明した。

シルビアちゃんはメモを取りながら真剣に学んでいた。

このメモ用紙やボールペンは俺からプレゼントした。

シルビアちゃんは家宝にすると言っていたが、全力で頼むから使ってくれと説得しておいた。

だって使う為にあげたんだからさ。

頼むから使ってくれよ。

あげた意味ないじゃない。

前にもこんな事がなかったっけ?


そして何故だかマリオさんとイングリスさん、そしてライジングサンの面々も俺の授業を受けていた。

お前達には不要だろうが・・・

でも全員が真剣に話を聞いていた。

なんなんだいったい・・・

どうしてこうなった?

座学を行うと宣告した俺が間違っていたのか?

ていうかこいつらは暇なのか?

特にライジングサンよ、お前達『アンジェリ』に遊びに来過ぎだろう。

ライゼル!お前はほとんど毎日だろうが!

別にいいけどさ。


「ということは、最終的に全ての色を混ぜていくと黒色になるということですかな?」

マリオさんからの質問だ。


「そうです、その通りです」


「なるほど」

マリオさんはうんうんと頷いている。


「なあジョニー、この絵具ってのは面白いな。それに黄色と青を混ぜると緑になるってのはなんだか不思議だな。黄色が土として、青が水ってことか?」

ライゼルのコメントにリックが反応していた。


「ああ、全くだ。昔に聞いた魔法の原理に近いと感じるな」

リックが興味をそそるコメントをしていた。


「魔法の原理?」

これは面白くなってきたな。

こんな授業も悪くはないかも。


「俺は詳しくはないけど、昔、俺の住んでいた村に魔導士がいてな。そいつから魔法の事を少し教えて貰った事があったんだ」


「ほう」

楽しくなってきたよ。

そういうファンタジーな話は大好物ですよ。


「その魔導士が言うには、魔法には相性であったりがあるらしく、今の話にあった通り混ぜ合わせるという事も出来るみたいなんだ」


「なるほど」

それでそれで。


「例えば、今の話にあった土の魔法に水を混ぜると泥になって、実践では敵の足止めに成ったりするということだ」


「ほうほう」

理に敵っているな。

要は泥を作って足止めをするということだな。

ここに来て異世界感がグッと迫ってきたか?

ワクワク。


「他にも火に風を混ぜると業火になるらしい」

でしょうね。

まあ当たり前の原理だな。


「教えて貰ったのはこれぐらいなんだけどな」


「そうか・・・」

うーん、少々物足りない。

もっとくれ!

これでは腹一杯にならんぞ。


グウウウー!!!

急に大きな音がした。

音の発信源はモリゾーである。

モリゾーは下を向いて恥ずかしそうにしていた。


「モリゾー・・・お前なあ・・・」


「お腹が減っただで・・・」

はあ・・・しょうがない。

今日はこれぐらいにしておこうか。

俺も腹減ったし・・・違う意味で。


「お前達、いい加減肉を減らさないといけないからバーベキューにするぞ、皆手伝う様に、いいな!」


「やったぜ!」


「バーベキュー!最高!」


「待ってました!」


「おでは沢山食べるだで!」

好きに騒いでいる。

はあ、もう少し魔法を知りたかったな。




俺はバーベキューコンロを庭先に二つ準備して、火をくべる。

実は何度もライジングサンのメンバーや、シルビアちゃんとバーベキューを行っていたのだ。

最早こいつらにしてみれば手慣れた作業だ。

ライジングサンの狩ってきた獣の肉を消費するにはこれが手っ取り早いのだ。

もういい加減肉は要らないと言っているのだが、しょっちゅうこいつらは持ってくる。

そろそろセカンド冷蔵庫もパンパンなのである。

この大量の肉をどうしろってんだよ。

俺は肉屋になんてならねえぞ。


そして雪崩式に宴会が始まる。

ここでたくさんの調味料が活躍する。

先ずはマ●シムだ。

これはある意味万能調味料だ。

野菜、肉、魚。

何に掛けても旨くなる。


そして肉にはサン●フェステーキスパイスだ。

これを掛けるだけでグッと味がダンチになる。

このスパイスはなんだってんだよ。

旨すぎるだろう。


そして俺はこっそりとニンニクパウダーを掛けている。

目聡く気づいたライゼルとシルビアちゃんにはしょっちゅう強請られている。

気持ちは分かるよ。

ニンニクの匂いが食欲をそそるよね。


更に味に飽きた頃に生姜醤油を準備する。

すると最後の加速と肉がどんどんと減っていく。

要は生姜焼きの要領だよね。

これを知るのは俺のみである。


そして俺の調子が乗った時にはこれが提供される。

それは・・・サッ●ロ一番である。

飯盒を使ってサッポロ一番を二食分作るのである。

シルビアちゃんとライゼルの大好物である。


「シルビア!塩ラーメンだぞ!」


「ライゼルさん!塩ラーメンだね!」

いつの間にかライゼルは、シルビアちゃんを呼び捨てにする仲になっていた。

別にいいけどね。

二人は奪い合う様にサッ●ロ一番塩ラーメンを食べていた。

おい!他の者達にも食べさせてあげてくれ!

お前らだけで食べるんじゃない!


そしてワインが提供される。

リックもモリゾーもメイランもとにかくよく飲む。

ライジングサンはのんべえだらけだ。

ペットボトルの安物ワインが各自1本は飲む。

1本千円もしないから許せるのだが・・・

千円を超えたら考えものだな。

そうなったら遠慮なくお金を取ってやろう。


マリオさんは残念ながら下戸である。

それに合わせてか、イングリスさんも飲まない。

シルビアちゃんも当然飲まない。

聞くとシルビアちゃんはまだ17歳だ。

でもこの世界では16歳で成人らしい。

シルビアちゃんはアルコールは飲んだことは無いみたいだ。

一度ライゼルに勧められていたが、断っていた。

飲まないならそれに越したことは無い。

それに若い子が酔っぱらってへらへらしている姿なんてあまり見たくはないな。

心配しかないしね。




シルビアちゃんのカラー講習は続く。

カラーは実に理詰めである。

始めはこうだ。

先ずは白髪染めなのかお洒落染めなのか?

ここで大きく二つに分かれる。

フローチャートがあると分かり易いか?

カラーの色の選定はお客さんのどうしたいと言う要望をじっくり聞かないといけない。

単純にこの色でとはならない。

というのもだいたいお客さんは漠然としたイメージを持っているからだ。

ここはしっかりとカウンセリングしなければならない。


ポイントを説明すると、白髪染めの場合はしっかりと染まって欲しいのか、ぼけて欲しいのかで分かれる。

しっかり染まって欲しい場合は、明るいのかはたまた暗いのかを決めて貰う。

そしてぼけて欲しい場合の色の決定はこちらで受け持つ。

ぼかすのはお客さんにイメージさせる事は難しいからだ。

ちょっと分かりずらいか?


そしてお洒落染めの場合は重要になるのがカラーチャートだ。

カラーチャートとは、そのカラーで染まった時の目安になる見本である。

そのカラーチャートに則って仕上がる髪色を決めていく。

ほとんどの人の髪色は段階的には5トーンから始まる。

トーンとは色の濃さである。

地毛の明るい人は6トーン。

数が上がるほど明るくなるということだ。


7になると光の下や外で染めたことが分かる印象だ。

9になると完全にこいつ染めたなと分かってしまう。

因みにトーンは最高で18か19だ。

ここまで来ると完全に人が変わってしまっている。

全く印象が違うということだ。

ちょっと専門的になっているだろうか?

分かりづらかったらごめんね。




どの色にするのかは意見が分かれる処だが、先にも述べた通り、色の選定についてはヒアリングを行う必要がある。


簡単に目安を言うとこうなる。

ナチュラルな色合いは茶色。

大体はこれで纏まり易い。

でもここは異世界だ、そうともいかない。

でも説明としては日本を基準に話そうと思う。

でないと本当に分かりずらいからだ。


赤みがある色は可愛いとか温かい雰囲気を与える。

青色の寒色系は大人っぽいのとクールなイメージ。

後は個々のパーソナルカラーと、季節に分類される。

季節とはその時々で決まる物である。


この様にカラーは実に奥深い。

色の原則を知りつつも、ヒアリングを重ねて本人にとって理想とするカラー、そして似合っているカラーを選定することから始まる。

そしてその理想にどこまで近づけるのかという事になる。

カラーは一筋縄ではいかないのだ。

でもこれがバッチリ決まった時の満足度は測り知れない。

モリゾーの金髪が正にこれだった。

モリゾーはもうこれ以外の髪色にはしたくないと公言していたぐらいだ。

そんなこと言わなくてもいいのにね。

だって・・・10年後には・・・美意識は変わってるよ?・・・たぶん・・・流行りだって・・・

まあ好きにすればいいさ。



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