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異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第1章 創成期 髪結い組合編
16/80

シルビアの頑張り

シルビアちゃんのシャンプーマン修業に入るに当たり、俺はシルビアちゃんにプレゼントをした。

それは爪切りと、爪やすりである。

まずは身だしなみからってね。

美容師は爪の手入れは必須ですよ。

欠かす訳にはいかない。

基本中の基本です。


「本当に貰ってもよろしいのでしょうか?」

謙遜しているシルビアちゃん。


「ああ、勿論だよ」


「家宝にさせて貰います」

いや、普通に使ってくれ。

じゃないとあげた意味が無いからさ。


「シルビアちゃん、気持ちは嬉しいがちゃんと使ってくれよ」


「え?」

何を驚いているんだい?


「いや、これからシルビアちゃんはシャンプーマンになる特訓を始めるだろ?」


「はい」


「伸びた爪の儘だと、お客さんの頭を傷つけかねないし、何より爪の手入れを怠ると、髪に爪が引っかかる原因になるからね」


「なるほど」

ウンウンと頷いている。


「美容師は爪の手入れを怠ってはならない。いいね?」


「畏まりました」

そして俺は爪切りの使い方を教えた。

こうして、こう。


「おおー!」

なんで驚くの?


「こうやって反対にして使うんですね」

シルビアちゃんの眼が輝いている。

え!そこから?


「この国ではもしかして爪切りがないのかい?」


「はい、始めて見ます」

マジかよ・・・


「これまでどうやって爪の手入れをしていたんだい?」


「この様なやすりを使ってました。でもここまで出来の良いやすりもこれまで見たことが無いです」

だから家宝にするって言ってたのか・・・

なんだかなあ。

この爪切りと爪やすりもドラッグストアーで買ってきた物で、大した業物でもなんでもないんだけど。

こうなると爪切りと爪やすりも美容材料屋さんから仕入れて販売しようかな?

これはセーフかな?

美容院で爪切りって売ってるか?

無い事はないか・・・

まあいいや、今度考えよう。


「わあ!凄い!こんなに簡単に爪が切れるだなんて」

シルビアちゃんが興奮している。

どうしたものかね。


「深爪しないようにね、白い部分だけ切る様に」


「はい!」

念の為、爪やすりの使い方も教えておいた。

こちらも研ぎやすいと高評価だ。

なんとも言えないな。

まあ大事使ってやって下さいな。




前回話したシャンプーのポイントを教えながら、シルビアちゃんのシャンプーマンになる特訓は始まった。

そしてシルビアちゃんは有言実行だった。

毎日5名近くのモニターを集めていた。

素晴らしい!

これはなかなか出来ない芸当だ。


でも種明かしをすると、友人知人に噂のシャンプーが無料で受けられると宣伝しまくったみたいだ。

それもマリオさんとイングリスさんだけに留まらず、サンライズの面々にまで宣伝させていたらしい。

特にライゼルは必死になって手伝っていたみたいだ。

ん?なんでだ?

まあいいか。

あいつも暇だなあ。

仕事しろ!仕事!

さっさと狩りに行って来い!


そして漏れなくこのモニター達にはスイーツが配られていた。

シルビアちゃんの要望で、シュークリームとエクレアをふんだんに買い揃えていたのだ。

もう家の近くのコンビニの店員さんに俺は顔を覚えられてしまったよ。


「今日もシュークリームとエクレアですか?甘い物が好きなんですね」

なんて言われてしまった。

この店員にとっては俺は只のスイーツ好きのおっさんなんだろう。

別にいいけど。

甘味は嫌いじゃないし。


ちゃんとこの費用は給料から天引きさせて頂いた。

これを見過ごす程俺は甘くは無いのでね。

甘味なだけに・・・

いまいち、減点5だな。

掛ってはいるよね?


そして味を締めたライゼルは、ほぼ毎日モニターとしてシャンプーを受けていた。

そういうことかこの野郎!

そしてこっそりとライゼルは俺にワインをねだった。

はあ?

気分の乗った時以外は飲ませなかったですよ。

要は殆ど飲ませなかったということだ。

俺はこいつにどれだけ奢ればいいのだろうか?

もういいよね?

充分でしょうよ!


そう思っているとライゼルは仕留めた獣を持参し出した。

こいつは変な所で空気を読みやがる。

ラビットや、ボアや時にはバイソンまで。

いい加減にしろ!

俺は獣を捌くことは出来ねえよ!


毎回、

「肉にして持ってこい!」

こう言うしかなかった。


言われなくでも分かるだろうが。

俺は美容師であって、獣の解体なんてできっこねえよ。

髪を切るハサミで解体しろってか?

あり得ないだろ!


獣を持参した時にしかワインは飲ませなかった。

バイソンの時にはライジングサン全員で飲むはめになった。

こいつらはほんとに・・・無茶苦茶飲むよな。

特にモリゾー!お前いい加減にしろ!

どうしてワインをボトルごとガバのみしてるんだよ!

まあ1本800円の安物ワインだから許すけどさ。

でもこいつは一人で3本は空ける。

飲み過ぎだろう。

肝臓が壊れても知らねえぞ。


それを分かってか、モリゾーは翌日にはカラーカットの予約を入れていた。

こいつも要らない空気を読みやがる。

冒険者とはそんなもんなのだろうか?

そういった人種?

もしかして俺が露骨だった?

紳士的な俺がそんなことは・・・

ちょっとは気にかけておこう・・・

大人の嗜みとしてね。


そしてモリゾーはカラーカットを行い。

今では坊主頭の横を左右2本の稲妻ラインが入った髪形に変わっており。

更には上部のラインの髪、全てが金髪になっている。

なかなかの迫力だ。


モリゾーに言わせると、

「最高のお洒落さんになっただで!おではお洒落さんだで!」

ということらしい。


満足そうなモリゾーを見てライジングサンのメンバーも唸っていた。

それを見て、リックとメイランも予約を入れていた。

憎めない奴らだな。


そんな事もあり、バックルームの冷蔵庫には結構な肉が溜まっている。

どうしようか?

もうパンパンです。

セカンド冷蔵庫が必要だろうか?

どこかでバーベキューパーティーでもしようかな?


ていうか、業務用の冷凍庫を急遽購入する羽目になってしまった。

まあ・・・これは先行投資だな・・・たぶん・・・

先が思いやられる。


そしてシルビアちゃんはシャンプーマンに成ろうと無茶苦茶頑張っていた。

こう言ってはなんだがこの子にはセンスがある。

ちゃんとシャンプー終わりに感想や心地よさなどをヒアリングしていた。

ここまで出来る子はまずいない。

それも遠慮なく本気で答えてくれと真に迫っていた。

こうなると受ける側も本気でシャンプーを受けるしかない。

気軽にとはいかない。

彼女の本気に、モニターの全員が神経を集中してシャンプーを受けていた。

それを俺は腕を組んで偉そうに眺めていた。

よしよしってね。


うーん、何も言う必要は感じないな。

この子はあれだな、マネジメントでいう処の放置型だな。

おっと!これは失礼。

少々要らない事を言ってしまったみたいだ。

マネジメントに関しては後日詳細を話そう。

要はシルビアちゃんは外っておいても伸びるタイプということだ。

実にありがたい。

俺はそれとなくサポートするだけでいいのだ。

それだけでこの子は成長する。

この巡り合わせに感謝だ。

こうしてシルビアちゃんの修業は進んでいった。




何度か手が荒れてしまったシルビアちゃんに、俺はハンドクリームをお勧めした。

始めて彼女に会った時に手に塗ってあげた代物だ。

彼女は嬉しそうにハンドクリームを購入していた。

「これを塗ると良い臭いがすんですう」

なんて言っている。

臭いよりも手荒れを気にしてくれ。


因みに従業員は店販商品をほぼ仕入れ値で購入可能だ。

それはハンドクリームに限った話ではなく、シャンプーなども含まれる。

シルビアちゃんは纏まったお金が用意できたら購入したい物が沢山あると話していた。

何が欲しいのだろうか?

まだまだハサミは先の話だからね。

おそらくトリートメントとかだと思うけど。

モニターに配っているスイーツが案外負担になっているかもしれないな。


まあ駆け出しの美容師なんてこんなものだろう。

お客が取れる様になったら、給料はアップするから頑張ってくれ。

ちゃんと技術料で支払わさせて貰いますよ。


俺の駆け出しの頃もこんな感じだったよ。

食っていくので精一杯。

時々お客さんから頂く差し入れが贅沢だったりする。

貯金なんて皆無だ。

真面になったのはスタイリストとして現場に入れる様になってからだった。

他のお店の事は知らないが、以前俺が務めていたお店は技術料に段階があって、店長やオーナーにテストをして貰って昇給するシステムだった。

後は一定の金額を超えた売上の数%を歩合としてプラスアルファとして頂く。

店長に言わせると俺は成長が早い方だったらしい。

同期などいないからよく分からないのだが。

おっと、俺の昔話はまた今度にさせて貰うよ。

長い話になりかねないのでね。


話を基に戻すと。

「アンジェリ」はオゾンシャンプーの為、手荒れはしずらいものだが、どうしても連続でシャンプーを行うと手がふやけてしまう。

そして毎度毎度乾かす為、嫌でも手が荒れてしまうのだ。

手荒れとは手の油分が減ってしまうことが原因で起きてしまう症状だ。

美容師の職業病だな。

美容師になる上での最初に訪れる試練でもある。

中には指の付け根がひび割れてしまったり、痒みがでてしまうなんてこともざらにある。

指紋が無くなるなんてよくあることで、これは勲章だと先輩に教えられたもんだよ。

全く、どんな勲章だっての。

幸いシルビアちゃんはそこまでの事にはなっていないのだが、手荒れはもはや慣れてしまったみたいだ。

俺はだいぶ慣れているのだが、それでも指の皮は薄い方で。

よく紙で切ってしまったりする。

後は熱いお皿などは持てない。


一番かわいそうなのはアレルギーを発症してしまうケースだ。

これはどういうことかと言うと、シャンプーやリンスのボトルの裏側の成分表記をよく見て欲しい。

その中に化学薬品の表記があるのが分かるだろうか?

アルファベットなどの記載が見てとれると思う。

化粧品のほとんどには何かしらの科学成分が含まれている。

それは保存料であったり、着色料や乳化剤であったりとかだ。

それが多く含む物もあれば、微小であったり、中には全く含まれていなかかったりする物もあったりする。


ここで間違って欲しくないのは、科学成分が無い方がいいという極端な考え方だ。

勿論無いに越したことはないのは事実だ。

しかしアレルギーという物は、何に反応しているのかチェックしないと分からないという側面がある。

どういうことかと言うと、例えば卵の成分が入った保湿クリームを使った時にアレルギー反応が出たとする。

そのアレルギーは卵に反応したのか、化学成分に反応したのかは皮膚科で調べて貰わない限り分からないということだ。

そしてこの科学成分だが、元を正せば自然界の物である。

世にある薬品にしても石油製品にしても元は自然界の物質である。

薬品や石油製品を、あたかも自然界にない異物の様に捉えている人が実に多いと感じる。

科学薬品は草や木、鉱石に特定の加工ないし、抽出を行って得ている物質だ。

ここを勘違いしないで欲しい。

自然な物に拘りたい気持ちは充分に分かるし、口にする野菜も農薬を使っていない物を口にしたい気持ちもよくわかる。

でもこれを拘りだすと俺の経験上、限の無いブラックホールに陥る可能性が高い。

その辺の匙加減を間違っては欲しくない。


そのアレルギーをシャンプーをやり過ぎることで発症してしまった場合には、最悪美容師を諦めなければならない。

かつて同じ美容学校に通った俺の友人がそうであったように。

正直見てられなかった。

でもここは受け入れるしかない。

アレルギーは場合によっては命に係わることすらあり得るのだから。


実はそう言った側面を考えてのオゾンの導入だったりもする。

オゾンは皮膚を守る効果や殺菌作用もあるのだ。

正に美容院には無くてはならない設備なのである。

分かって貰えたかな?




早いもので、シルビアちゃんのシャンプーマン修業が2カ月目を迎えている。

今月からは夜の練習だけに留まらず、早朝の練習も行う様になっていた。

本当にこの子は凄いと思う。

先月も実は休日にも関わらず、お店に来てシャンプーの練習をしていた。

こちらが心配になってしまう程に熱を帯びている。

その熱に当てられてか、モニター達も肩を回していた。


先日分かりもしないのにライゼルがシルビアちゃんに。

こうしたら良いんじゃないか?

ああしたら良いんじゃない?

もっとこうグッと。

要らない事を言っていた。


案の定。

「ライゼルさんは美容師じゃないんだから黙ってて!」

シルビアちゃんに叱られていた。


ライゼルなりに何かしら力になれたらという気持ちであったのは分かるが、これは良くない。

要らない世話は焼かないに限る。


よくバッティングセンターにいる、勝手にバッティングを教えたがるおじさんと一緒だ。

こちとら遊びでやってんだから黙ってろっての。

今更メジャーリーグなんて目指してねえっての。

気持ちは分からなくはないが褒められたことではない。

ゴルフの打ちっぱなしにしてもそうだ。

やれこうスイングした方がいいだの。

もっと内股に構えろだの。

煩せえんだよ!

好きにやられてくれっての!


シルビアちゃんは、たぶんシャンプーに関しては、俺以外の者の言う事は聞かないと思うよ。

それだけでなくとも、最近のシルビアちゃんは俺のシャンプーする姿をガン見しているしね。

瞬きしてる?って言いたくなるぐらいだよ。

事情を知るお客さんが大半だから誰も文句は言わないけど、程々にね。

みんな若い子の頑張りに目尻が緩んでいるのである。

ありがとう御座います。

客がおじさん達が多くてよかったよ。




そして・・・

シルビアちゃんはあろうことか、ものの三ヶ月でシャンプーマンとしてデビュー出来るまでに成長していた。

これは異例の話である。

これまでにシャンプーを500回近くは行っていた。

本当によく頑張りました!

俺、感動してます!


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