店先完成
なんとか6割方の作業は終えることが出来た。
ライゼルには感謝だな。
実際ライゼルの体力は目を見張るものがあった。
休みなく鍬を振るい続けている。
ライゼルは意気揚々と作業を行っていた。
「いい鍛錬になるぜ!」
とか言いながらガンガンと土を耕していた。
実にありがたい、ココ●チだけでここまでの労働力を得れたのだからさ。
俺一人であったらこうはいかない。
出来て2割だろう。
愛着が沸いたのかライゼルが庭先を丹念に整えていた。
土に触れる事は有意義だ。
こいつにとっても何かしらの学びになったのかもしれない。
既に日が暮れていた。
「よし、ライゼル。今日はこれで終わろう」
これぐらいでいいだろう。
「そうか、日も暮れたしな。明日もやるのか?」
まだまだやる気満々のライゼル。
「なんだ?明日も手伝ってくれるのか?」
当たり前だとその表情が雄弁に語っていた。
「いいぞ、でもまたあれを食わせてくれるのならな」
そんな駆け引きは要らんだろう。
普通に食わせてやるさ。
レトルトカレーぐらい。
「カレーライスのことか?」
「カレーライスというのか?あの幸せの食べ物は?」
「そうだ、俺の居た国での国民食みたいなものだ。そんなんで良ければ手伝って貰おうか?」
「本当か?よっしゃー!やったるでー!」
ハハハ、これは助かる。
一日の労働力を買えるなんて、カレーは偉大だな。
カレーの神様に感謝だな。
居ればだけどね。
「でも本当にカレーライスでいいのか?他にもいろいろあるぞ?」
「他にもって言われても、俺はカレーライスがいいんだよ!」
「分かった、分かった」
安上がりでいいじゃないか。
「じゃあせっかくだ、晩飯も食ってけよ」
「いいのか?」
「お前そもそもその気だったんだろ?」
「バレたか・・・ハハハ!」
笑って誤魔化してやがる。
憎めない奴だな。
今度は手抜きとはいかないな。
でも簡単な物にしよう。
さて、何にしようかな?
ここの処インスタントに偏り過ぎているから、今回は流石に造ろうと思う。
でも冷蔵庫の中にはあまり食材がないんだよな・・・
どうしようか?
簡単でいいかな。
確かパスタがあった筈。
よし!あれだな。
先ずは鍋に水を張ってお湯を沸かす。
その隙にニンニクを細かく刻んでおく、それも多めに。
後は鷹の爪と胡椒、オリーブオイルを準備する。
更にベーコンを刻んで、缶を開けてマッシュルームを用意した。
フライパンを準備して加熱する。
そうこうしているとお湯が茹で上がる。
鍋にパスタを投入する。
ここから3分間が勝負だ。
加熱したフライパンにたっぷりのオリーブオイルと、多めのニンニクを入れて香り立つまで焼き上げる。
そしてベーコンを投入する。
程よくベーコンが焼けた処に、マッシュルームを入れて焼き上げる。
それにしても最近のパスタ麺は実にありがたい。
ひと昔前だったらこうはいかない。
パスタを茹で上げるのに10分はかかったからね。
今ではものの3分で茹で上げることが出来る。
最新の技術に感謝だ。
茹で上がったパスタを一本取り出して、茹で加減を確認する。
よし!いい茹で加減だ。
ザルをシンクに置いて茹で上がったパスタを入れる。
軽く湯切りをしてフライパンに入れる。
フライパンを回しながらパスタをオリーブオイルと具材に絡めていく。
最後に鷹の爪を入れて、胡椒を一回し。
よし、ペペロンチーノの出来上がりだ。
実に簡単なパスタ料理である。
ニンニクの匂いが食欲をそそる。
本日も良い仕上がりです!
お皿にペペロンチーノを盛りつけ、フォークを準備した。
カウンター前にある座席に肩肘をついて座っているライゼルに、ペペロンチーノを手渡す。
「ライゼル、お待たせ。ペペロンチーノだ。どうせお前は沢山食うだろうから二人前だ」
「かあー!ジョニーは分かっているな、嬉しいぜ!それにこれも無茶苦茶良い臭いじゃねえか!もう幸せだぜ!」
「ハハハ!それはよかったな。ほれ、フォークだ」
「サンキューな、へへへ・・・旨そうだな・・・」
ライゼルは舌なめずりをしていた。
フォークを手にして、早速ペペロンチーノを食し出したライゼル。
一口食べると、何故だかライゼルはフォークを置いてしまった。
ん?もしかして口に合わなかったか?
腕を組んで考え込みだしたライゼル。
もしかしてニンニクが駄目とか?
「これは困った・・・」
「何がだ?・・・」
「明日はカレーライスするか、それともこのペペロンチーノにするか?・・・これは選べないぞ・・・」
俺はずっこけそうになってしまった。
なんてお気楽な奴なんだ。
どっちでもいいだろうが・・・
「はいはい、好きにしてくれ。いいから早く食べろライゼル、冷めるぞ!」
「おお!そうだった。これは失敬!」
ライゼルは勢い勇んでペペロンチーノを食べていた。
何とも困った奴である。
ひとしきり食べ終えるとライゼルが質問を投げかけてきた。
「なあジョニー、お前髪結いさんなんてやってないで、料理人になった方がいいんじゃないか?」
なんだと?
髪結いさんなんてだと?
聞き捨てならないな。
これはお仕置きが必要だな。
美容師の本気を身体に教え込んでやる。
「おい!ライゼル・・・お前髪結いさんを舐めているのか?」
俺の威圧にライゼルはたじろいでいた。
「い、いや・・・そんな気は・・・」
「この国での髪結いさんがどんな扱いなのかは知らないが、俺はプロの髪結いさんだぞ。それに俺は正確には髪結いさんでは無くて美容師だ!舐めんな!」
「おお!・・・言葉の意味はよく分からんがとにかく凄い自信だ!」
お前はアデランス中野さんか?
殴るぞ!ここは筋肉バスターか?
「せっかくだ、お前に美容師の何たるかを体験させてやろう」
「・・・」
俺の勢いに腰が引けているライゼル。
今にも鼻水が垂れそうだ。
「いいからこっちに来い!」
俺はシャンプー台にライゼルを座らせた。
美容師の本気を思い知らせてやる!
喰らいやがれ!
ライゼルにオゾンシャンプーを喰らわせてやった。
ライゼルは始めこそはビビッていたが、気持ちよくなったのか声を漏らしていた。
「おお・・・おおお・・・おおおおお!」
「フフフ・・・ライゼル・・・これが美容師だ・・・」
「美容師・・・凄げえ・・・無茶苦茶気持ち良い・・・はあ・・・」
フフフ・・・勝ったな!
その後骨抜きになったライゼルに自分の頭皮の汚れを見せると、冷や汗を流していた。
もしかしたら俺の、
「お前このままだとハゲるぞ」
の一言が効いたみたいだ。
「すまない事を言ったジョニー、悪気は無いんだ・・・」
反省している様子のライゼル。
「まあ、分かってくれたならいい」
「でもな、ジョニー・・・この国での髪結いさんはあまり褒められた商売ではないんだ」
「どういうことだ?」
正面に座り直すと真面目な眼つきでライゼルは話し出した。
「この国での髪結いさんは先ず、女性しか居ない」
「ほう」
それは何となく分かっていた。
「そして髪結いさんは野心家が目指す職業なんだ」
野心家が?いまいち分からんが?
「ん?どうしてだ?」
「髪結いさんのほとんどが、王族や貴族のお抱えになる者が大半なんだ。髪結いさんはメイドや執事と違って、直接髪や身体に触れることが唯一許された職業なんだよ」
へえー、そうなんだ。
「・・・」
「中にはそれを上手く使って、妾や第二夫人に登りつめた者までいたんだ。こう言ってはなんだが、夜の蝶以上に策略家や功名心の高い者が多いんだ」
「なるほどな、言いたいことは分かった」
「でもお前は髪結いさんではないみたいだな」
「ああ、俺は美容師なんでね!」
そうです!俺は美容師です!
何度でも言いたい!
俺は美容師です!
しつこいかな?
「そうみたいだ・・・美容師は凄えな。感服したよ」
「ならいい」
「すまねえな」
「もういいって事よ」
そうだったんだな、何となく髪結いさんが風下に立っている様に感じたが、こういうことだったんだ。
これ以降は俺は髪結いさんではなく、美容師を名乗ろう。
元よりそうなのだがね。
俺は美容師だー!!!
「それにしてもなんなんだ!このサラサラの髪はよう!」
ブローを受けたライゼルはニコニコしていた。
「これなら俺も彼女の一人ぐらい出来るかもしれないな!ガハハハ!」
この野郎・・・まあいいか。
調子に乗るなよ。
「でもな、ジョニー。一つだけ忠告だ」
「なんだ?」
「髪結い組合だ」
「ん?」
美容組合みたいなものかな?
「奴らは良い噂を聞かねえ、注意する事だな」
「そうか、でも俺は髪結いさんではないんでね!俺は美容師なんでね!」
「それは分かったけど・・・」
なんであろうと俺は自分の道を突き進むまでだ。
俺の美容師道に迷いはない!
心配そうに俺を見つめるライゼル。
「じゃあまた明日も頼むぞ」
「ああ!任せとけっての!」
「ハハハ!」
こうしてライゼルは帰っていった。
剣を置いてきぼりにして・・・
翌日。
俺は店先にライゼルの剣を放り投げておいた。
いい加減にせいよ!
この阿呆が!
庭先に現れると小さくなったライゼルが俺に滲みよってきた。
「ジョニー・・・すまねえ・・・」
「お前・・・馬鹿なのか?」
「・・・俺はどうにも忘れ物をしてしまうんだ、もう病気だ・・・」
「剣が泣くぞ?」
「・・・だよな」
「剣に謝れ!」
「ごめん・・・リリス・・・」
リリスって・・・女性かよ・・・
お前はリリスに切られろ!
否!ぶった切られろ!
なんなら俺がリリスでお前を斬ってやろうか?
「お前、次は無いからな・・・次にこの様な事があったら問答無用で捨てるぞ!」
「止めてくれ!」
「だったら忘れるな!リリスに謝れ!」
「すまない!リリス!」
ライゼルはリリスに抱きついていた。
とは言っても剣なのだがね。
アホらしくなってきた。
時間がもったいない。
「いいから作業を始めるぞ!ライゼル!」
「おっ、おお!任せてくれ!」
涙を拭ってライゼルが答えていた。
「今日で完成させるからな!」
「おうよ!」
返事は良いんだよな、全く!
はあ・・・本当に手の掛かる奴だ。
俺達は作業を進めた。
多く採れた砂利や石で歩道を造る。
そして耕した土に俺は種を植えた。
ライゼルはレンガで畑の外堀を造っている。
更に俺は見栄えの良い箇所に花の苗を植えた。
後は時間がこの庭園を充実させてくれるだろう。
出来上がったな。
家庭菜園レベルではあるが、立派な店先だ。
「ライゼル、完成だ!」
「よっしゃー!」
俺達は握手を交わした。
「まさか2日で完成するとはな、後は備品を置くだけだな」
「へへへ!俺が本気を出せばこんなもんよ!」
ライゼルが偉そうに胸を張っている。
でも実際こいつの働きは目を見張るものがあったからな。
ここは素直に感謝だな。
「ライゼル、ありがとうな」
「どうってことねえよ、それより・・・」
「ああ、分かっている。皆まで言うな、今日は特別な一品を造ってやる!」
「おお!ジョニーの本気!期待値爆上がりじゃねえか!」
ライゼルが拳を突き挙げている。
「ハハハ」
俺達は連れ立ってお店に入った。
ライゼルは当たり前の様に、カウンター前の椅子に座って、ふんぞり返っている。
「ちょっと待ってろよ」
「ああ、早く頼むぜ!」
そんなライゼルを無視して、俺はバックルームに入った。
さて、始めようか。
因みにこれは晩飯である。
昼飯はライゼルのリクエストで再びのカレーライスになった。
ライゼル曰く、
「どっちにするか決められなくて、余り寝られなかった・・・」
ということらしい。
アホかいな。
トッピングにウィンナーを3本加えてやったら、ライゼルは無茶苦茶喜んでいた。
平和な事ですな。
これからピザを作る事にした。
先ずは冷蔵庫からピザ生地を取り出した。
本当はピザ生地は一から造れるが、そんな余裕が今は無い為、スーパーに売っているピザ生地だ。
ピザ生地はクリスピータイプ。
所謂薄めの生地だ。
ハード生地も悪くないが、俺は断然クリスピー派だ。
ピザ生地にカ●メのトマトソースをふんだんに塗っていく。
バジルが入っているトマトソースだ。
その上に次はモッツァラレラチーズを裂いて置いていく。
そしてバジルソースを適当にかける。
最後にペッパーを散らす。
トッピングはこんなものかな。
俺のトースターはパンなら4欣同時に焼けるタイプのトースターだ。
トースターにピザを入れて、280度に設定。
5分回せばピザが完成する。
焼き上がりを待っているその隙に、2枚目のピザに取り掛かる。
今度はペパロニピザだ。
ピザ生地に先ほどのトマトソースをふんだんに塗って、今度はミックスチーズを敷き詰めていく。
そしてサラミを大胆にトッピングする。
その後、バジルソースを垂らし、こちらも最後にペッパーを振り掛ける。
お皿を準備してピザの焼き上がりを待つ。
俺はバックルームから顔を出すとライゼルに尋ねた。
「ライゼル、お前アルコールは飲めるか?」
「酒か?勿論よ!」
「よっしゃ!」
俺は冷蔵庫からワインを取り出した。
これはペットボトルに入った格安のワインだ。
でもこれが実は俺の好みだったりもする。
赤の甘みが強いワインだ。
グラス二つにワインを並々と注いでいく。
それを持って、カウンターに向かった。
「ライゼル、付き合って貰うぞ。庭先の完成を祝いたいからな」
「おお!ワインか?最高じゃねえか!」
「甘いワインだがいいよな?」
「甘いワインだって?これは、これは・・・」
ライゼルは両手でワインを受け取っていた。
期待で目が見開かれている。
「よし、乾杯だ!」
「よっしゃ!乾杯!」
俺達はグラスを重ねた。
心地よい音が響き渡る。
一口ワインを飲む。
ああ・・・旨いな。
身体に染み渡る。
今日はほぼ肉体労働だったからな。
隣を見るとライゼルが溶けそうな顔をしていた。
「はあぁぁー・・・ここは天国か?」
そこでタイミングよく出来上がりの音がした。
俺は席を立って、バックルームに入った。
皿の上にピザを取り出してピザカッターで切り分けていく。
そしてペパロニピザをトースターに入れて再度ハンドルを回す。
「ライゼル!出来たぞ!」
「おお!マジか?」
ピザを覗き込むライゼル。
「これはな・・・ピザだ!」
「ピザ!・・・なんという甘美な響きだ!」
こいつもう酔っぱらってないだろうな?
「さあ、食ってくれ。遠慮なく手づかみでいいぞ」
「よっしゃ!」
ライゼルはピザに触れると、
「熱っちい!」
手を振っていた。
「馬鹿かお前?見れば分るだろうが」
「へへへ・・・」
今度は慎重にピザを取り出したライゼル。
「じゃあ頂くぜ!」
「おうよ!」
ライゼルはピザに齧りついた。
俺もピザに齧りつく。
うん!旨い!
「ああ・・・もう嫌になるな・・・なんなんだよ・・・ジョニー・・・旨すぎて死んでもいいと思えるぞ・・・」
と言いつつも、幸せそうに微笑んでいるライゼル。
「ワインにはピザが合うんだよな」
「だな、最高の相性だな!」
その後俺達はピザとワインを楽しんだ。
にしても旨かったー!