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異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第1章 創成期 髪結い組合編
11/80

店先完成

なんとか6割方の作業は終えることが出来た。

ライゼルには感謝だな。

実際ライゼルの体力は目を見張るものがあった。

休みなく鍬を振るい続けている。

ライゼルは意気揚々と作業を行っていた。


「いい鍛錬になるぜ!」

とか言いながらガンガンと土を耕していた。

実にありがたい、ココ●チだけでここまでの労働力を得れたのだからさ。

俺一人であったらこうはいかない。

出来て2割だろう。

愛着が沸いたのかライゼルが庭先を丹念に整えていた。

土に触れる事は有意義だ。

こいつにとっても何かしらの学びになったのかもしれない。


既に日が暮れていた。


「よし、ライゼル。今日はこれで終わろう」

これぐらいでいいだろう。


「そうか、日も暮れたしな。明日もやるのか?」

まだまだやる気満々のライゼル。


「なんだ?明日も手伝ってくれるのか?」

当たり前だとその表情が雄弁に語っていた。


「いいぞ、でもまたあれを食わせてくれるのならな」

そんな駆け引きは要らんだろう。

普通に食わせてやるさ。

レトルトカレーぐらい。


「カレーライスのことか?」


「カレーライスというのか?あの幸せの食べ物は?」


「そうだ、俺の居た国での国民食みたいなものだ。そんなんで良ければ手伝って貰おうか?」


「本当か?よっしゃー!やったるでー!」

ハハハ、これは助かる。

一日の労働力を買えるなんて、カレーは偉大だな。

カレーの神様に感謝だな。

居ればだけどね。


「でも本当にカレーライスでいいのか?他にもいろいろあるぞ?」


「他にもって言われても、俺はカレーライスがいいんだよ!」


「分かった、分かった」

安上がりでいいじゃないか。


「じゃあせっかくだ、晩飯も食ってけよ」


「いいのか?」


「お前そもそもその気だったんだろ?」


「バレたか・・・ハハハ!」

笑って誤魔化してやがる。

憎めない奴だな。

今度は手抜きとはいかないな。

でも簡単な物にしよう。


さて、何にしようかな?

ここの処インスタントに偏り過ぎているから、今回は流石に造ろうと思う。

でも冷蔵庫の中にはあまり食材がないんだよな・・・

どうしようか?

簡単でいいかな。

確かパスタがあった筈。

よし!あれだな。


先ずは鍋に水を張ってお湯を沸かす。

その隙にニンニクを細かく刻んでおく、それも多めに。

後は鷹の爪と胡椒、オリーブオイルを準備する。

更にベーコンを刻んで、缶を開けてマッシュルームを用意した。

フライパンを準備して加熱する。

そうこうしているとお湯が茹で上がる。

鍋にパスタを投入する。


ここから3分間が勝負だ。

加熱したフライパンにたっぷりのオリーブオイルと、多めのニンニクを入れて香り立つまで焼き上げる。

そしてベーコンを投入する。

程よくベーコンが焼けた処に、マッシュルームを入れて焼き上げる。


それにしても最近のパスタ麺は実にありがたい。

ひと昔前だったらこうはいかない。

パスタを茹で上げるのに10分はかかったからね。

今ではものの3分で茹で上げることが出来る。

最新の技術に感謝だ。


茹で上がったパスタを一本取り出して、茹で加減を確認する。

よし!いい茹で加減だ。

ザルをシンクに置いて茹で上がったパスタを入れる。

軽く湯切りをしてフライパンに入れる。

フライパンを回しながらパスタをオリーブオイルと具材に絡めていく。

最後に鷹の爪を入れて、胡椒を一回し。

よし、ペペロンチーノの出来上がりだ。

実に簡単なパスタ料理である。

ニンニクの匂いが食欲をそそる。

本日も良い仕上がりです!


お皿にペペロンチーノを盛りつけ、フォークを準備した。

カウンター前にある座席に肩肘をついて座っているライゼルに、ペペロンチーノを手渡す。


「ライゼル、お待たせ。ペペロンチーノだ。どうせお前は沢山食うだろうから二人前だ」


「かあー!ジョニーは分かっているな、嬉しいぜ!それにこれも無茶苦茶良い臭いじゃねえか!もう幸せだぜ!」


「ハハハ!それはよかったな。ほれ、フォークだ」


「サンキューな、へへへ・・・旨そうだな・・・」

ライゼルは舌なめずりをしていた。

フォークを手にして、早速ペペロンチーノを食し出したライゼル。

一口食べると、何故だかライゼルはフォークを置いてしまった。

ん?もしかして口に合わなかったか?

腕を組んで考え込みだしたライゼル。

もしかしてニンニクが駄目とか?


「これは困った・・・」


「何がだ?・・・」


「明日はカレーライスするか、それともこのペペロンチーノにするか?・・・これは選べないぞ・・・」

俺はずっこけそうになってしまった。

なんてお気楽な奴なんだ。

どっちでもいいだろうが・・・


「はいはい、好きにしてくれ。いいから早く食べろライゼル、冷めるぞ!」


「おお!そうだった。これは失敬!」

ライゼルは勢い勇んでペペロンチーノを食べていた。

何とも困った奴である。


ひとしきり食べ終えるとライゼルが質問を投げかけてきた。


「なあジョニー、お前髪結いさんなんてやってないで、料理人になった方がいいんじゃないか?」

なんだと?

髪結いさんなんてだと?

聞き捨てならないな。

これはお仕置きが必要だな。

美容師の本気を身体に教え込んでやる。


「おい!ライゼル・・・お前髪結いさんを舐めているのか?」

俺の威圧にライゼルはたじろいでいた。


「い、いや・・・そんな気は・・・」


「この国での髪結いさんがどんな扱いなのかは知らないが、俺はプロの髪結いさんだぞ。それに俺は正確には髪結いさんでは無くて美容師だ!舐めんな!」


「おお!・・・言葉の意味はよく分からんがとにかく凄い自信だ!」

お前はアデランス中野さんか?

殴るぞ!ここは筋肉バスターか?


「せっかくだ、お前に美容師の何たるかを体験させてやろう」


「・・・」

俺の勢いに腰が引けているライゼル。

今にも鼻水が垂れそうだ。


「いいからこっちに来い!」

俺はシャンプー台にライゼルを座らせた。

美容師の本気を思い知らせてやる!

喰らいやがれ!




ライゼルにオゾンシャンプーを喰らわせてやった。

ライゼルは始めこそはビビッていたが、気持ちよくなったのか声を漏らしていた。


「おお・・・おおお・・・おおおおお!」


「フフフ・・・ライゼル・・・これが美容師だ・・・」


「美容師・・・凄げえ・・・無茶苦茶気持ち良い・・・はあ・・・」

フフフ・・・勝ったな!

その後骨抜きになったライゼルに自分の頭皮の汚れを見せると、冷や汗を流していた。


もしかしたら俺の、

「お前このままだとハゲるぞ」

の一言が効いたみたいだ。


「すまない事を言ったジョニー、悪気は無いんだ・・・」

反省している様子のライゼル。


「まあ、分かってくれたならいい」


「でもな、ジョニー・・・この国での髪結いさんはあまり褒められた商売ではないんだ」


「どういうことだ?」

正面に座り直すと真面目な眼つきでライゼルは話し出した。


「この国での髪結いさんは先ず、女性しか居ない」


「ほう」

それは何となく分かっていた。


「そして髪結いさんは野心家が目指す職業なんだ」

野心家が?いまいち分からんが?


「ん?どうしてだ?」


「髪結いさんのほとんどが、王族や貴族のお抱えになる者が大半なんだ。髪結いさんはメイドや執事と違って、直接髪や身体に触れることが唯一許された職業なんだよ」

へえー、そうなんだ。


「・・・」


「中にはそれを上手く使って、妾や第二夫人に登りつめた者までいたんだ。こう言ってはなんだが、夜の蝶以上に策略家や功名心の高い者が多いんだ」


「なるほどな、言いたいことは分かった」


「でもお前は髪結いさんではないみたいだな」


「ああ、俺は美容師なんでね!」

そうです!俺は美容師です!

何度でも言いたい!

俺は美容師です!

しつこいかな?


「そうみたいだ・・・美容師は凄えな。感服したよ」


「ならいい」


「すまねえな」


「もういいって事よ」

そうだったんだな、何となく髪結いさんが風下に立っている様に感じたが、こういうことだったんだ。

これ以降は俺は髪結いさんではなく、美容師を名乗ろう。

元よりそうなのだがね。

俺は美容師だー!!!


「それにしてもなんなんだ!このサラサラの髪はよう!」

ブローを受けたライゼルはニコニコしていた。


「これなら俺も彼女の一人ぐらい出来るかもしれないな!ガハハハ!」

この野郎・・・まあいいか。

調子に乗るなよ。


「でもな、ジョニー。一つだけ忠告だ」


「なんだ?」


「髪結い組合だ」


「ん?」

美容組合みたいなものかな?


「奴らは良い噂を聞かねえ、注意する事だな」


「そうか、でも俺は髪結いさんではないんでね!俺は美容師なんでね!」


「それは分かったけど・・・」

なんであろうと俺は自分の道を突き進むまでだ。

俺の美容師道に迷いはない!

心配そうに俺を見つめるライゼル。


「じゃあまた明日も頼むぞ」


「ああ!任せとけっての!」


「ハハハ!」

こうしてライゼルは帰っていった。

剣を置いてきぼりにして・・・




翌日。

俺は店先にライゼルの剣を放り投げておいた。

いい加減にせいよ!

この阿呆が!

庭先に現れると小さくなったライゼルが俺に滲みよってきた。


「ジョニー・・・すまねえ・・・」


「お前・・・馬鹿なのか?」


「・・・俺はどうにも忘れ物をしてしまうんだ、もう病気だ・・・」


「剣が泣くぞ?」


「・・・だよな」


「剣に謝れ!」


「ごめん・・・リリス・・・」

リリスって・・・女性かよ・・・

お前はリリスに切られろ!

否!ぶった切られろ!

なんなら俺がリリスでお前を斬ってやろうか?


「お前、次は無いからな・・・次にこの様な事があったら問答無用で捨てるぞ!」


「止めてくれ!」


「だったら忘れるな!リリスに謝れ!」


「すまない!リリス!」

ライゼルはリリスに抱きついていた。

とは言っても剣なのだがね。

アホらしくなってきた。

時間がもったいない。


「いいから作業を始めるぞ!ライゼル!」


「おっ、おお!任せてくれ!」

涙を拭ってライゼルが答えていた。


「今日で完成させるからな!」


「おうよ!」

返事は良いんだよな、全く!

はあ・・・本当に手の掛かる奴だ。




俺達は作業を進めた。

多く採れた砂利や石で歩道を造る。

そして耕した土に俺は種を植えた。

ライゼルはレンガで畑の外堀を造っている。

更に俺は見栄えの良い箇所に花の苗を植えた。

後は時間がこの庭園を充実させてくれるだろう。

出来上がったな。

家庭菜園レベルではあるが、立派な店先だ。


「ライゼル、完成だ!」


「よっしゃー!」

俺達は握手を交わした。


「まさか2日で完成するとはな、後は備品を置くだけだな」


「へへへ!俺が本気を出せばこんなもんよ!」

ライゼルが偉そうに胸を張っている。

でも実際こいつの働きは目を見張るものがあったからな。

ここは素直に感謝だな。


「ライゼル、ありがとうな」


「どうってことねえよ、それより・・・」


「ああ、分かっている。皆まで言うな、今日は特別な一品を造ってやる!」


「おお!ジョニーの本気!期待値爆上がりじゃねえか!」

ライゼルが拳を突き挙げている。


「ハハハ」

俺達は連れ立ってお店に入った。

ライゼルは当たり前の様に、カウンター前の椅子に座って、ふんぞり返っている。


「ちょっと待ってろよ」


「ああ、早く頼むぜ!」

そんなライゼルを無視して、俺はバックルームに入った。


さて、始めようか。

因みにこれは晩飯である。

昼飯はライゼルのリクエストで再びのカレーライスになった。


ライゼル曰く、

「どっちにするか決められなくて、余り寝られなかった・・・」

ということらしい。

アホかいな。

トッピングにウィンナーを3本加えてやったら、ライゼルは無茶苦茶喜んでいた。

平和な事ですな。


これからピザを作る事にした。

先ずは冷蔵庫からピザ生地を取り出した。

本当はピザ生地は一から造れるが、そんな余裕が今は無い為、スーパーに売っているピザ生地だ。

ピザ生地はクリスピータイプ。

所謂薄めの生地だ。

ハード生地も悪くないが、俺は断然クリスピー派だ。

ピザ生地にカ●メのトマトソースをふんだんに塗っていく。

バジルが入っているトマトソースだ。

その上に次はモッツァラレラチーズを裂いて置いていく。

そしてバジルソースを適当にかける。

最後にペッパーを散らす。

トッピングはこんなものかな。


俺のトースターはパンなら4欣同時に焼けるタイプのトースターだ。

トースターにピザを入れて、280度に設定。

5分回せばピザが完成する。


焼き上がりを待っているその隙に、2枚目のピザに取り掛かる。

今度はペパロニピザだ。

ピザ生地に先ほどのトマトソースをふんだんに塗って、今度はミックスチーズを敷き詰めていく。

そしてサラミを大胆にトッピングする。

その後、バジルソースを垂らし、こちらも最後にペッパーを振り掛ける。

お皿を準備してピザの焼き上がりを待つ。


俺はバックルームから顔を出すとライゼルに尋ねた。


「ライゼル、お前アルコールは飲めるか?」


「酒か?勿論よ!」


「よっしゃ!」

俺は冷蔵庫からワインを取り出した。

これはペットボトルに入った格安のワインだ。

でもこれが実は俺の好みだったりもする。

赤の甘みが強いワインだ。

グラス二つにワインを並々と注いでいく。

それを持って、カウンターに向かった。


「ライゼル、付き合って貰うぞ。庭先の完成を祝いたいからな」


「おお!ワインか?最高じゃねえか!」


「甘いワインだがいいよな?」


「甘いワインだって?これは、これは・・・」

ライゼルは両手でワインを受け取っていた。

期待で目が見開かれている。


「よし、乾杯だ!」


「よっしゃ!乾杯!」

俺達はグラスを重ねた。

心地よい音が響き渡る。

一口ワインを飲む。

ああ・・・旨いな。

身体に染み渡る。

今日はほぼ肉体労働だったからな。

隣を見るとライゼルが溶けそうな顔をしていた。


「はあぁぁー・・・ここは天国か?」

そこでタイミングよく出来上がりの音がした。

俺は席を立って、バックルームに入った。

皿の上にピザを取り出してピザカッターで切り分けていく。

そしてペパロニピザをトースターに入れて再度ハンドルを回す。


「ライゼル!出来たぞ!」


「おお!マジか?」

ピザを覗き込むライゼル。


「これはな・・・ピザだ!」


「ピザ!・・・なんという甘美な響きだ!」

こいつもう酔っぱらってないだろうな?


「さあ、食ってくれ。遠慮なく手づかみでいいぞ」


「よっしゃ!」


ライゼルはピザに触れると、

「熱っちい!」

手を振っていた。


「馬鹿かお前?見れば分るだろうが」


「へへへ・・・」

今度は慎重にピザを取り出したライゼル。


「じゃあ頂くぜ!」


「おうよ!」

ライゼルはピザに齧りついた。

俺もピザに齧りつく。

うん!旨い!


「ああ・・・もう嫌になるな・・・なんなんだよ・・・ジョニー・・・旨すぎて死んでもいいと思えるぞ・・・」

と言いつつも、幸せそうに微笑んでいるライゼル。


「ワインにはピザが合うんだよな」


「だな、最高の相性だな!」

その後俺達はピザとワインを楽しんだ。

にしても旨かったー!


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