序章
二作目の連載を始めました。
楽しんで頂けますと幸いです。
前作とは全く世界観が違いますが、それはそれで面白いと感じて頂けますと嬉しいです。
では第二作をお楽しみくださいませ。
軽快なBGMが店内に響き渡っていた。
アコーディオン中心の旋律が、躍り出しそうなリズムを醸し出している。
耳を傾けると思わず踊り出しそうになる。
とてもが心地よい。
それに負けじと活気に溢れた声が店内に木霊する。
元気な掛け声がお店の中に響いていた。
よく見るとその中心に一人の男性がいる。
「ジョニー店長、仕上げお願いします!」
「了解!直ぐ行くよ!」
ハサミを腰にぶら下げた男性が、カット台に座る女性に声を掛けながら髪に触れる。
視線は髪に向けているが、神経はお店全体に張り巡らされいる。
集中力が半端ない。
集中と俯瞰を同時に扱ってるようなそんな節があった。
随分と手つきが慣れている。
その様から熟練の美容師であると窺い知る事が出来た。
こう言っては失礼だが、それなりのイケメンだ。
店長と呼ばれていることから、この男性が責任者であるのだろう。
そしてお店全体を見て見ると、この男性を中心にコントロールされている趣きがあった。
手にしているのは散髪用のハサミとコーム櫛ではあるが、それはまるでオーケストラの指揮者がタクトを握っている様にも見える。
お店がまるでオーケストラを奏でている様な、そんな全体感を有していた。
この男性によって、お店のスタッフだけでは無く。
お客もペースを握られている雰囲気があった。
うっとりする様な優雅な時間が流れている。
それをこのお店にいる全員が楽しんでいる様に見受けられた。
「うん、もうちょっと空こうかな・・・」
ジョニー店長と呼ばれた男性が呟く。
「店長さん、空くって何ですか?」
お客であろう女性がジョニー店長に尋ねていた。
空くが気になったらしい。
「空くってのは、毛先を軽く見せるようにするってことですよ。その方が自然な仕上がりになりますからね」
そう簡素に答えていた。
「へえー、そうなんですね。流石は評判の美容師さんですね」
満足そうな表情を浮かべて女性が頷く。
「私は評判なんですか?」
ジョニー店長は本当は分かっているのだろう。
少しとぼけた表情をしていた。
意図的なのは否めない。
この少しばかりの遠慮が大人の嗜みだとでも言いたげだ。
「それはもう評判ですよ!この店に行けば、髪が綺麗になるだけじゃなくて、髪形も自分に合った髪形にしてくれるし、化粧の相談にも乗ってくれるって、街中の女性の話題の中心になってますわよ」
声高に答えるお客の女性。
「そうですか?ありがとうございます」
そう返事しつつもジョニー店長は手を動かし続けている。
ハサミとコーム櫛が一定のリズムで動いていた。
リズム感が心地よい。
一定のリズムが眠気を誘う様でもあった。
現にカットを受けている女性は目がトロンと解けている。
随分と気持ちよさげだ。
ジョニー店長はスタッフであろう女性に声を掛ける。
目線はお客の髪からは離れてはいない。
真っすぐに集中力はお客の髪に向けられている。
「そちらのお客さんのブローをお願いしてもいいかな?」
ジョニー店長は視線を外すことは無かった。
「はい!」
女性のスタッフが元気よく返事を返している。
髪を切り終えたジョニー店長が、カットクロスに着いた髪を払い。
「お疲れ様でした!」
お客の女性に声をかけていた。
とても爽やかな笑顔を添えて。
実に好感が持てる。
「「「お疲れ様でした!」」」
一拍遅れて、女性スタッフ達の元気な声が響き渡る。
お客の女性は満足そうな表情でカット台から降りると、受付カウンターへと向かう。
「そうだった!シャンプーとやらも貰えるかしら?」
「ありがとうございます」
受付の赤髪のスタッフがカウンター後ろにあるシャンプーを手に取り、お客に手渡す。
手渡されたシャンプーを繁々と眺めるお客の女性。
ウンウンと満足そうに頷いている。
これだよと意味ありげに微笑んでいた。
それを良かったと受け止めながら、赤髪の受付のスタッフが使い方を教えた後に、
「カット料金とトリートメントで合わせて銀貨80枚になります」
料金を請求していた。
接客が板に付いている。
熟練の趣きすらも感じる。
「銀貨80枚ね」
何てこと無いとゆとりの表情のお客は、財布から金貨を取り出すと、受付の赤髪のスタッフに手渡す。
「お釣りは銀貨20枚になります」
そう言いながら赤髪のスタッフはレジを打ち込んでいる。
レジのキャッシャーが開き、お釣りの銀貨が手渡された。
「じゃあまた来ますね。ジョニー店長またね!」
気軽にお客の女性は手を振っている。
それを背中で感じながら、
「ありがとうございます!」
「ではまた!」
「お待ちしております!」
スタッフ達が声を返していた。
お客が軽く会釈をしてお店を去っていく。
その表情はウキウキとしていた。
この世の春を我物としたかの様に。
大きな満足と大きな自己肯定感を胸に秘めて。
「「「ありがとうございました!」」」
声を返すスタッフの、大きな声が響き渡っていた。
お店には活気で溢れていた。
でもこれは日常。
このお店にとってはありふれた光景。
異世界美容院『Angeli』は本日も大盛況だ。
いよいよ始まりました新作です。
前作とは随分毛色の違う作品となりますが、これはこれで楽しんで頂けると嬉しいです。
今後とも宜しくお願い致します。
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